32 / 34
大学生の二人
31
しおりを挟む
帰省を終え、未雲は久し振りに柊明のところではなく自分の一人暮らしの部屋へ帰っていた。
帰りの新幹線でやけにぼんやりとした柊明が気になりつつも声を掛けられずにいると、駅に着いてから彼に「疲れたから一人で寝たい」と言われたからである。
それから何となく連絡もしづらくてあっちから来るのを待っていても、一向に来る気配は無い。
スマホを見て何も来てないことを確認し、その数分後にまたスマホを覗いて連絡が来ないことに落胆する。
帰ってからまだ一日も経っていないのだから来ないことも有り得るのに、こうも焦燥しているのは柊明のあの感じが高校の別れる前の態度と似ているからだろうか。
「……あ」
スマホを握りしめてベッドで横になっていると、ピコン、と通知音が鳴る。確認すれば待ち望んでいた相手からの連絡だった。
『今どこにいるの』
そんな分かり切ったことを聞いてくるのに疑問を感じながら『自分家だけど』と返す。
『今からそっち行ってもいい?』と、さらに文言を付け加えれば、既読は付くものの返信は無かった。
……これは行ってもいいということだろうか?
もし来てほしくないと思われていても、どちらにせよ柊明の家に置いてきた荷物を取りに行かないと自分の生活がままならない。それくらい、未雲はあの部屋に入り浸っていた。
殆ど荷物を持たずに柊明の部屋へ向かう。ドアの前に立ち、インターホンを押して家主が来るのを待てばゆっくりとドアが開かれる。
「……来たの」
やけに不機嫌そうな声で柊明は未雲を出迎えた。あんなに綺麗に整えられていた髪はボサボサで、寝ていないのか目は僅かに充血してる。
「返事なかったから」
「……」
前に立ち塞がったまま、柊明は動こうとしない。まるで家にあげたくないような、拒絶されているような態度が怖くて、少しだけ煩わしい。
「……なんでそんな機嫌悪いか分かんないけど、戻るにしても荷物持ち帰らせてくれよ」
溜息を吐いてそんなことを言う。もしここで無理矢理入ろうとしてキツく拒絶でもされたら、それこそ心が折れてしまいそうだった。
本当に具合が悪いのなら看病でもしてやりたいが、本人がこんな態度では意地でもさせてくれないのだろう。あれだけ一緒にいて、やることもやっているのに自分は頼りにされないのかと切なくなった。
柊明は僅かに瞠目して身体を横に寄せる。丁度通れそうなくらいに前が空いたので、やっと未雲は部屋の中へと入ることが出来た。
「とりあえず持てるだけ服と、あと本も少し持ってく。それから……」
改めて自分がどれだけ柊明のところへお邪魔していたかがよく分かる。もうどこに自分の何があるかさえ見当がつかず、後ろにいるであろう柊明に尋ねようと振り返った――瞬間のことだった。
ガタン、と手から本が滑り落ちた音が響く。
「は、何――……?」
柊明が中途半端に振り返った未雲を羽交い締めするかのように抱き締めた。無理な体勢で前のめりそうになる未雲を支えてそのまま横抱きにすると、柊明は迷いのない足取りで寝室へと向かっていく。
状況を飲み込めず声を出せないでいると、未雲は乱暴にベッドへと投げ出された。
「なに、すんだ――っあ!?」
雑な扱いに文句でも言ってやろうと身体を起こそうとするが、突然首元に熱い痛みが走る。
目線のすぐ下に少しだけ黄色がかった白い髪が映る。顔を首に埋めて、そこからまた鋭い痛みがして呻き声が漏れた。
呆然と視線を彷徨わせていると、素肌に冷たい手が這う。今日に限って前開きのシャツを着ていたせいで、全くその気のなかった身体が愛撫で途端に熱を持つ。
胸の突起を指で刺激されながら下肢に手を伸ばされる。痛いだけだったそこは何度も弄られたせいでいつの間にか快感を拾うようになっていた。
「ちょ、っと、今すんの?」
「未雲は黙ってて」
存外強い物言いにビクリと身体が震える。やはり彼は機嫌が悪くて、でもその理由が全く分からなかった。だから、もう未雲は身を委ねるしかない。
――最近、調子乗りすぎてたのかもな。
まるで恋人のような関係に甘えてほぼ毎日一緒に過ごすようになっていたが、自分たちは恋人なんて甘い関係ではない。所詮セックスをするだけの、お互いに都合の良い関係だった。
結局、未雲は流されるように身体を繋げた。少しだけ痛みがあったそれはじくじくと未雲の身体を蝕んでいく。
そういえば、今日はキスをしてくれなかった。なんなら水族館に行った時だって、彼は手を繋いでくれなかった。
そもそもこの爛れた関係が始まった時だって、自分は「好き」と言われたことも無ければ、言った時も無かった。
帰りの新幹線でやけにぼんやりとした柊明が気になりつつも声を掛けられずにいると、駅に着いてから彼に「疲れたから一人で寝たい」と言われたからである。
それから何となく連絡もしづらくてあっちから来るのを待っていても、一向に来る気配は無い。
スマホを見て何も来てないことを確認し、その数分後にまたスマホを覗いて連絡が来ないことに落胆する。
帰ってからまだ一日も経っていないのだから来ないことも有り得るのに、こうも焦燥しているのは柊明のあの感じが高校の別れる前の態度と似ているからだろうか。
「……あ」
スマホを握りしめてベッドで横になっていると、ピコン、と通知音が鳴る。確認すれば待ち望んでいた相手からの連絡だった。
『今どこにいるの』
そんな分かり切ったことを聞いてくるのに疑問を感じながら『自分家だけど』と返す。
『今からそっち行ってもいい?』と、さらに文言を付け加えれば、既読は付くものの返信は無かった。
……これは行ってもいいということだろうか?
もし来てほしくないと思われていても、どちらにせよ柊明の家に置いてきた荷物を取りに行かないと自分の生活がままならない。それくらい、未雲はあの部屋に入り浸っていた。
殆ど荷物を持たずに柊明の部屋へ向かう。ドアの前に立ち、インターホンを押して家主が来るのを待てばゆっくりとドアが開かれる。
「……来たの」
やけに不機嫌そうな声で柊明は未雲を出迎えた。あんなに綺麗に整えられていた髪はボサボサで、寝ていないのか目は僅かに充血してる。
「返事なかったから」
「……」
前に立ち塞がったまま、柊明は動こうとしない。まるで家にあげたくないような、拒絶されているような態度が怖くて、少しだけ煩わしい。
「……なんでそんな機嫌悪いか分かんないけど、戻るにしても荷物持ち帰らせてくれよ」
溜息を吐いてそんなことを言う。もしここで無理矢理入ろうとしてキツく拒絶でもされたら、それこそ心が折れてしまいそうだった。
本当に具合が悪いのなら看病でもしてやりたいが、本人がこんな態度では意地でもさせてくれないのだろう。あれだけ一緒にいて、やることもやっているのに自分は頼りにされないのかと切なくなった。
柊明は僅かに瞠目して身体を横に寄せる。丁度通れそうなくらいに前が空いたので、やっと未雲は部屋の中へと入ることが出来た。
「とりあえず持てるだけ服と、あと本も少し持ってく。それから……」
改めて自分がどれだけ柊明のところへお邪魔していたかがよく分かる。もうどこに自分の何があるかさえ見当がつかず、後ろにいるであろう柊明に尋ねようと振り返った――瞬間のことだった。
ガタン、と手から本が滑り落ちた音が響く。
「は、何――……?」
柊明が中途半端に振り返った未雲を羽交い締めするかのように抱き締めた。無理な体勢で前のめりそうになる未雲を支えてそのまま横抱きにすると、柊明は迷いのない足取りで寝室へと向かっていく。
状況を飲み込めず声を出せないでいると、未雲は乱暴にベッドへと投げ出された。
「なに、すんだ――っあ!?」
雑な扱いに文句でも言ってやろうと身体を起こそうとするが、突然首元に熱い痛みが走る。
目線のすぐ下に少しだけ黄色がかった白い髪が映る。顔を首に埋めて、そこからまた鋭い痛みがして呻き声が漏れた。
呆然と視線を彷徨わせていると、素肌に冷たい手が這う。今日に限って前開きのシャツを着ていたせいで、全くその気のなかった身体が愛撫で途端に熱を持つ。
胸の突起を指で刺激されながら下肢に手を伸ばされる。痛いだけだったそこは何度も弄られたせいでいつの間にか快感を拾うようになっていた。
「ちょ、っと、今すんの?」
「未雲は黙ってて」
存外強い物言いにビクリと身体が震える。やはり彼は機嫌が悪くて、でもその理由が全く分からなかった。だから、もう未雲は身を委ねるしかない。
――最近、調子乗りすぎてたのかもな。
まるで恋人のような関係に甘えてほぼ毎日一緒に過ごすようになっていたが、自分たちは恋人なんて甘い関係ではない。所詮セックスをするだけの、お互いに都合の良い関係だった。
結局、未雲は流されるように身体を繋げた。少しだけ痛みがあったそれはじくじくと未雲の身体を蝕んでいく。
そういえば、今日はキスをしてくれなかった。なんなら水族館に行った時だって、彼は手を繋いでくれなかった。
そもそもこの爛れた関係が始まった時だって、自分は「好き」と言われたことも無ければ、言った時も無かった。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる