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大学生の二人

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 帰省を終え、未雲は久し振りに柊明のところではなく自分の一人暮らしの部屋へ帰っていた。
 帰りの新幹線でやけにぼんやりとした柊明が気になりつつも声を掛けられずにいると、駅に着いてから彼に「疲れたから一人で寝たい」と言われたからである。
 それから何となく連絡もしづらくてあっちから来るのを待っていても、一向に来る気配は無い。
 スマホを見て何も来てないことを確認し、その数分後にまたスマホを覗いて連絡が来ないことに落胆する。
 帰ってからまだ一日も経っていないのだから来ないことも有り得るのに、こうも焦燥しているのは柊明のあの感じが高校の別れる前の態度と似ているからだろうか。


「……あ」

 スマホを握りしめてベッドで横になっていると、ピコン、と通知音が鳴る。確認すれば待ち望んでいた相手からの連絡だった。

『今どこにいるの』

 そんな分かり切ったことを聞いてくるのに疑問を感じながら『自分家だけど』と返す。
『今からそっち行ってもいい?』と、さらに文言を付け加えれば、既読は付くものの返信は無かった。
 ……これは行ってもいいということだろうか?
 もし来てほしくないと思われていても、どちらにせよ柊明の家に置いてきた荷物を取りに行かないと自分の生活がままならない。それくらい、未雲はあの部屋に入り浸っていた。




 殆ど荷物を持たずに柊明の部屋へ向かう。ドアの前に立ち、インターホンを押して家主が来るのを待てばゆっくりとドアが開かれる。

「……来たの」

 やけに不機嫌そうな声で柊明は未雲を出迎えた。あんなに綺麗に整えられていた髪はボサボサで、寝ていないのか目は僅かに充血してる。

「返事なかったから」
「……」

 前に立ち塞がったまま、柊明は動こうとしない。まるで家にあげたくないような、拒絶されているような態度が怖くて、少しだけ煩わしい。

「……なんでそんな機嫌悪いか分かんないけど、戻るにしても荷物持ち帰らせてくれよ」

 溜息を吐いてそんなことを言う。もしここで無理矢理入ろうとしてキツく拒絶でもされたら、それこそ心が折れてしまいそうだった。
 本当に具合が悪いのなら看病でもしてやりたいが、本人がこんな態度では意地でもさせてくれないのだろう。あれだけ一緒にいて、やることもやっているのに自分は頼りにされないのかと切なくなった。
 柊明は僅かに瞠目して身体を横に寄せる。丁度通れそうなくらいに前が空いたので、やっと未雲は部屋の中へと入ることが出来た。

「とりあえず持てるだけ服と、あと本も少し持ってく。それから……」

 改めて自分がどれだけ柊明のところへお邪魔していたかがよく分かる。もうどこに自分の何があるかさえ見当がつかず、後ろにいるであろう柊明に尋ねようと振り返った――瞬間のことだった。


 ガタン、と手から本が滑り落ちた音が響く。

「は、何――……?」

 柊明が中途半端に振り返った未雲を羽交い締めするかのように抱き締めた。無理な体勢で前のめりそうになる未雲を支えてそのまま横抱きにすると、柊明は迷いのない足取りで寝室へと向かっていく。
 状況を飲み込めず声を出せないでいると、未雲は乱暴にベッドへと投げ出された。

「なに、すんだ――っあ!?」

 雑な扱いに文句でも言ってやろうと身体を起こそうとするが、突然首元に熱い痛みが走る。
 目線のすぐ下に少しだけ黄色がかった白い髪が映る。顔を首に埋めて、そこからまた鋭い痛みがして呻き声が漏れた。
 呆然と視線を彷徨わせていると、素肌に冷たい手が這う。今日に限って前開きのシャツを着ていたせいで、全くその気のなかった身体が愛撫で途端に熱を持つ。
 胸の突起を指で刺激されながら下肢に手を伸ばされる。痛いだけだったそこは何度も弄られたせいでいつの間にか快感を拾うようになっていた。

「ちょ、っと、今すんの?」
「未雲は黙ってて」

 存外強い物言いにビクリと身体が震える。やはり彼は機嫌が悪くて、でもその理由が全く分からなかった。だから、もう未雲は身を委ねるしかない。

 ――最近、調子乗りすぎてたのかもな。

 まるで恋人のような関係に甘えてほぼ毎日一緒に過ごすようになっていたが、自分たちは恋人なんて甘い関係ではない。所詮セックスをするだけの、お互いに都合の良い関係だった。

 結局、未雲は流されるように身体を繋げた。少しだけ痛みがあったそれはじくじくと未雲の身体を蝕んでいく。



 そういえば、今日はキスをしてくれなかった。なんなら水族館に行った時だって、彼は手を繋いでくれなかった。
 そもそもこの爛れた関係が始まった時だって、自分は「好き」と言われたことも無ければ、言った時も無かった。
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