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失恋堂~魔女へのお支払いは、失った恋で~

公爵家子息の婚約者が、諦めた恋の代わりに願うもの【ニコラス―エレノア】

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―は?いえ、別に…ニコラス様とは家同士の決めた婚約者同士ですので…

―あの、余計なお世話かと思いますが、淑女が、そのように声高に閨での密事を語られるのは…

―はぁ、そうは言われましても、私の一存で婚約をどうこうするわけには…







―――――――――――――――

一つ下の学年に女の子が転入してきたという噂に、悪友共とその子の教室を訪ねたのは、ホンの好奇心から。まさか、その少女に、自身がここまではまってしまうとは、露ほども思わずに―

そもそも、貴族の子女であれば、皆、入学が義務づけられている学園。転入などという制度を利用してまで中途で入ってくる者など極々稀、よほどの事情を抱えているか、あり得ないほどのど田舎出身か。果たして、件の少女は前者、市井で二人暮らしをしていた母親を喪い、マレット男爵である父親に引き取られたことで、貴族階級への仲間入りを果たしたのだという。

男爵令嬢となった少女は、必然、学園へ通うこととなり、我々の知るところとなったわけだが、そんな彼女が学園で目立たぬわけがない。

ルーシー・マレットは、良い意味でも、悪い意味でも学園の注目の的だった。

意外だったのは、その「注目」する者の中に、同い年の従兄弟でもある、王太子バージルが含まれていたこと。あれよあれよと言う間に距離を縮めた二人の関係に興味を持ったと同時に、最後の最後、少女に本気になれないのは、大切な従兄弟の存在があるから。

それに、

(やっぱり、女の子はみんな可愛いしね?)

ただ、彼女が今の「本命」、お気に入りであることは間違いなく、

「やあ、ルーシー、今日も可愛いね?これから、二人で街に出掛けない?」

「ニコラス様!冗談ばっかり言ってからかうのは止めて下さい!か、可愛いとか、そういうこと簡単に言わないで!」

「ん?私は本気で言ってるんだけどなぁ?ルーシー、君は可愛いよ、凄くね?」

「っ!?」

耳元で囁けば、途端、顔を赤くして黙り込むのに、彼女は他の女の子のように簡単には落ちてくれない。

自身の見目が女性に好まれることは、経験上よくわかっているし、女性を喜ばせる言葉なんて、考える前に口から出てくる。だというのに、ルーシーはこちらの言葉を全て冗談、からかっているだけだと、全くもって信じる気配がないのだ。

(…まあ、それだけ自分の素行が悪い、って思われてるからかもしれないけど…)

自覚があるだけに、ルーシーを責めるわけにもいかない。下ろしたままの彼女のピンクゴールドの髪、その毛先をクルリと弄べば、面白いほどに固まってしまった少女が、潤んだ瞳でこちらを見上げ―

(うーん、「食べて」って言われてる気がするんだけどなぁ)

それでも、これ以上押すと逃げる彼女とは、もうずっと、こんな関係が続いている。

「…ねぇ、ルーシー?街がダメならさ、一緒にカフェテラスへ行かない?学園の中なら、付き合ってくれるでしょう?」

「…それ、なら…」

赤い顔のまま、コクリと頷いた少女に笑って手を繋ぐ。

また、盛大に照れて怒り出すルーシーの反応に、こぼれる笑いを抑えきれずに歩き出した。








―――――――――――――――

「え?眼鏡??ちょっと待って、何の話?」

学園での休み時間、悪友とのくだらない世間話に出てきた話題。寝耳に水で、軽く混乱する。

「何の話って、お前の婚約者のエレノア嬢の話だよ。最近、下の学年で『可愛くなった』って噂があるの、お前、知らなかったのか?」

「…いや、全く」

「ふーん?ま、で、この前、暇だったから、その噂のエレノア嬢、見に行ったらさ。前かけてたあのごっつい眼鏡?あれ、してなかったんだよな。そしたら、うん、まあ、確かに、可愛くはなってた、気がする」

「へぇー、エレノアがねー」

「…なんだ、その反応?お前、全然興味無いのな」

「うーん。興味無いというか、有っても無くても、エレノアとの婚約、結婚は覆せそうにないしね。諦めるしかないというか…」

「…ああ、まあ、お前が公爵継ぐのに、彼女との婚姻は不可欠、なんだっけ?」

「そうそう。じい様の贖罪だかなんだか知らないけど、子や孫の世代にそれを押し付けるのは、ホント止めて欲しいよね」







―――――――――――――――

「…あれ?エレノア?」

「ああ、ニコラス様、お久しぶりでございます」

「え、あ、うん。そう、だね」

バージルを交えての昼食、ルーシーを連れて、従兄弟の待つ学園の食堂へ向かっていたのだが、途中、横切ろうとした中庭で見かけた集団。男連中に囲まれたその中心に居る少女に興味をひかれて、顔を確かめて見れば、感じた既視感。どこかで会った顔だとマジマジ見つめれば、それは間違いようもなく自身の婚約者で。話には聞いていたが、本当に眼鏡をしていない姿に、僅かに戸惑う。

「あー、えっと、エレノア、君はここで何を?」

「読書会をしていたのですが、収拾がつかなくなってきたので、解散するところでした」

「ああ、そうなんだ。…えっと、エレノア、眼鏡は?どうしたの?アレが無いと何にも見えないって、前、言ってなかった?」

「眼鏡無しでも何とか大丈夫なことに最近気づきまして、外したのは、まあ、ちょっとした心境の変化です」

「え…?」

エレノアが、笑った。ごく普通に、何のてらいもなく。

自分と居る時は、基本、無表情。たまに仏頂面さえ浮かべて隣に居た彼女の、こんな顔を見るのは、本当にいつ以来だろうか―

「…あの、ニコラス様?そろそろ行かないと、バージルが…」

「え?あ!うん、そうだった。ごめん、ルーシー」

「いえ…」

じゃあ、行こうか。そう言いながら、最後にチラリと振り返れば、エレノアが男に手を引かれ立ち上がるところだった。ただの、エスコート。自分だって、女の子相手に息をするように当たり前にやっていること。

なのに―

エレノアの口元に湛えられる笑み。艶然、とすら言えるそれ、彼女はいつの間にそんな顔をするように。

(…まさか)

まさか、彼女は既に男を―

(っ!?いや、それは無い!)

浮かんだ考えを直ぐ様、振り払う。エレノアに限って、それだけはあり得ない。自身の馬鹿げた妄想を否定して、食堂への道を急ぐ。再び、振り向いて彼女の姿を確かめたくなる前に。







―――――――――――――――

「おいおい、お前の婚約者殿、一体どうしたってんだよ?人が変わったみたいに男を惹き付けまくり、大人気じゃないか」

「…」

父の名代として招かれた夜会、悪友のからかう声は無視して、視線の先、多くの信奉者に囲まれるエレノアを観察する。

眼鏡を外して、彼女の見目が多少良くなったことは否定しない。だが、多少、だ。絶世の美女になったわけでも、男を虜にするような肢体をしているわけでもない。なのに―

「さっきから、ひっきりなしにダンスに誘われてるみたいだぜ?助けに行かなくていいのか?」

「うん、まあ」

いつもなら、今までなら、常に壁の花であったエレノアを気にする必要などなかった。自分は、目についた女性を誘って、一時の戯れ、ダンスを楽しむだけで。だが、

「おいおい、あれ、キャンベルんとこの、馬鹿息子じゃねぇの?あいつ、この前まで、ルーシー嬢の取り巻きしてなかったか?」

「…」

社交界の華と謳われる女性が、多くの信奉者を持ち、傍近く侍らせることで権勢を示すことはままあること。公爵夫人である自身の母親だとて、一度、公に姿を出せば、あっという間に取り巻きに囲まれてしまう。最近の学園で言えば、ルーシー・マレットが正にそれだったわけだが、何故、突然、エレノアがそうなってしまったのか。突き詰めれば、嫌な想像しか浮かばないそれに、慌てて蓋をしようとして、

「…ニコラス、お前、知ってたか?」

「…何を?」

「あー、えっと、エレノア嬢の評判?なんつーか、」

「…」

「…『魔性の女』、ってーと響きが悪いが、なんか、男を惹き付けて止まないものがある、らしい。…噂だがな」

「…」

噂、だけではなく、彼女を見ていればわかる。今までの無表情が鳴りを潜め、常に微笑を湛えているかのような淡い表情。数多の男に囲まれようと臆することなく、捧げられる賛辞に、時に小さく笑い声さえあげて、場の中心にある。感じられるのは、「女」としての余裕―

(…そう、余裕だ。彼女のあの態度、男漁りをしているわけではない。だが、向けられる好意、阿る言葉を上手くあしらって、だが、そんなことが出来るのは、やはり…)

男を、知っている、から―

堂々巡りを繰り返しそうになった思考、視界に飛び込んできた男の姿に、瞠目する。

「!」

「ん?あれ、フリートウッド公爵の。へー、意外だな。真面目堅物男だと思ってたんだが、あの男もエレノア嬢の信奉者だったか。これは、」

それ以上を聞いている余裕がなかった。ホールを大股に横切る。今まさに、エレノアに声をかけようとする男を、阻止するため―







―――――――――――――――

「…ニコラス様、怖い顔、どうされたんですか?」

「ああ、ルーシー、ごめん。ちょっと、考え事」

腕の中、不安そうに見上げてくる少女に笑って見せる。

エレノアを伴っての何度目かの夜会。その度に、彼女を誘おうとするデュラン・フリートウッドを牽制し続け、どうにか接触を阻み続けていたのだが、それもとうとう―

ホール中央、周囲の視線をかっさらって踊る男女。無表情に踊る長身の男に、艶やかに笑いかけるエレノア。

「…」

「…あの、ニコラス、様?」

一人、会場をふらついていた腕の中の存在を見つけ、バージルの想い人を保護するつもりでダンスを申し込んだのが運のつき、最も警戒すべき男に、出し抜かれてしまうとは。

真面目一辺倒だったフリートウッド家の後継が、とうとう婚約者探しを始めたのだという噂が、ここ最近の社交界での流行。確かに、エレノア以外の女性達に声をかける姿も目にしていたことで、噂は本当かと納得しかけていたのだ。しかし、では、何故、既に婚約者のいるエレノアにまで―?まさか、婚約者である自分の存在を知らないとは思えない。ならば、よほど自信があるのか。私から、エレノアを奪えると―

「っ!?」

祖父の代とは逆。祖父が、エレノアの祖父から婚約者を奪ったように、今度はあの男が私から、

「あ!ニコラス様!?」

曲の終わり、挨拶を交わす二人、エレノアが、堪えきれないとばかりに満面の笑みを見せ、何事かを囁いて、

「エレノアッ!」

急く思いで二人へ近づく。上げた声に、まだ距離のあるエレノアが、驚いたようにこちらを振り向いて、

「ニコラス様…?」

「エレノア!その、君は疲れているんじゃないかな?ずっと、踊っていたから。少し、私と休憩しようか?」

「…ニコラス様と、ですか?」

「ああ、そうだよ。中庭で涼むのはどうだろう?あそこなら、二人きりになれるし…?」

「まあ、構いません、けど」

「よし!じゃあ、お手をどうぞ?」

差し出した腕に、軽く乗せられた手。距離は遠い。だが、デュランから引き離すことは出来た。その事に安堵して、

「では、デュラン君、私達はこれで失礼させてもらうよ?」

黙して頷いた男を一瞥し、エレノアを連れて歩き出す。テラスの窓を開け、外へと出れば、冷たい空気。それに頭を冷やされて、中庭へと続く階段、その一歩を前に、足が止まった。

「エレノア…。彼と、何を話してたの?…随分、楽しそうだったけど」

「…いくつか、質問をされて、それにお答えしていただけですが。…ああ、でも、一つだけ。とても素敵なお話を聞かせて頂きました」

「…へぇー。…エレノアは、その、彼のことが…。…デュラン君のこと、どう思ってる?」

「デュラン様を?…そう、ですね。お話を聞いて、彼と私は似ているのかもしれないと思いました。似ているだけで、同じではありませんが…。多分、これは、憧れ、ですね」

言って、エレノアが一瞬見せた横顔。見ているだけで切なくなる、彼女を、抱き締めたくてたまらなくなる―

「エレノア、私は…」

「?ニコラス様?」

振り仰いだ不思議そうな視線、それが、何かに気づいたように、ハッと背後を振り返り、

「っ!?エレノア!?」

信じられない光景―

エレノアの、華奢な身体が宙を舞いー

「エレノア!?エレノア!?」

追い付けない、階段を、転がり落ちていく、エレノアに―

「ああ!エレノア!?何てことだ!エレノア!エレノア!しっかりして!目を開けて!」

地面に倒れる身体を抱き起こすも、意識のない身体。

「お願いだ!エレノア!目を!目を開けて!私を見て!」

どんなに呼び掛けようとも、閉じた瞳は開かない。悲鳴や怒声、意味の無い音で騒ぎ始めた周囲、集まり出した人影に、奪われそうになったエレノアを、決して離しはしないと、きつくきつく抱き締めた―







―――――――――――――――

「エレノア、今日は君の好きなプチノワールのアイスを持ってきたよ?アンナに渡しておいたから、後で食べてね?」

「…ニコラス様、お見舞いは有難いのですが、毎日毎日甘いものばかり持って来られても…」

「だって、エレノアが、花の匂いが混ざって気持ち悪くなるから、花はもう要らないって言うから」

「…」

寝台の上、黙り込んでしまったエレノアの困った顔が可愛くて堪らない。

あの日、階段から落ちたエレノアを失うかもしれないと思った時、はっきりと自覚した。自分は、エレノアを心から愛しているのだと。

それが、いつからあった気持ちなのかはわからない。だけど、多分、幼い時分から。産まれた時から婚約者であった彼女と初めて引き合わされた日より、形は違えど、確かにあった気持ちなのだろう。それが、いつしか形を変えて、今はこんなにもはっきりと―

「…エレノア、あのね。君を突き落とした女について、なんだけど…」

「ああ、ニコラス様の昔の恋人、」

「ち、違うから!?恋人とかそういう関係じゃ!って、もしかして、誰かから聞いた!?この話!?」

「いえ。ですが、突き落とされる寸前に、女性の顔は見ていましたので。ああ、以前、ニコラス様の彼女だと乗り込んで来た方だな、と」

「ちょっ!ちょっと、待って!?何それ!?え?そんな話、君から一言も!?」

「…まあ、よくあることですので、私も然程気にしておりませんでしたから。まさか、こんな事態になるとは思わず」

「よ、よくある、ことなの…?」

「はい。ああ、でも、最近、ニコラス様が本命をルーシーさんに絞られてからは、突撃してくる方はいらっしゃらなくなりましたね。…嫌みを言われる程度のことはありますが…」

「っごめん!ごめんね!エレノア!まさか、君がそんな目にあってたなんて、全然知らなかった。本当に、ごめん!私のせいで!」

「いえ。それは本当に気にしておりませんので、謝罪は不要です。…まあ、ただ、さすがに私も命を狙われるまでのことは、ちょっと…」

「!」

「父も、今回の件で婚約について色々と思うところがあったらしく、こちらからの婚約解消であれば、ニコラス様の爵位継承に何の問題も無いでしょうから、」

「捨てないで!」

「…え?」

「ごめん!エレノア!お願い捨てないで!君を二度と危険な目に遭わせたりしないと誓う!二度と!他の女性に目を向けたり、近寄ったりしない!だから、お願い!エレノア!私を捨てないで!」

「はぁ、えっと、捨てないで、と言われましても…。あの、ニコラス様はそれでいいんですか?私は、今回のこともあるし、多分、ニコラス様のことは一生好きにはなれないと思うのですが、」

「っ!?」

血の気の引く言葉、だけど、それ以上に恐いものを知ってしまったから、

「それでも!それでも、エレノア!私は君がいい!君じゃなきゃ駄目なんだ!だから、どうか!」

「…まあ、私としましては、気心知れたニコラス様に嫁ぐのが一番楽ですし、お祖父様方の遺恨をここで清算してしまうこと自体は悪くないとは、」

「それでいい!それでいいから!お願い!エレノア!私と結婚して?私のものになって!」

「…ニコラス様が、そう、仰って下さるなら…」

「!ありがとう!ありがとう!エレノア!大事にする!きっと、大事にするから!」

抑えきれない歓喜。爆発しそうな想いのまま、目の前の身体を抱き締める。充足する想い、そっと抱き締め返された手に、誓う。

愛し抜こう。ただ一人、この腕の中の存在を。ずっと、永遠に、死ぬまで。自身の持てるもの全てで伝えよう、この想いを。いつか、彼女に愛してもらえる、その時まで―







―――――――――――――――

さあ!さあさあ!教えて!あなたの望み!あなたが願う、失った恋の代わり!あなたが必要とするものは何!?

やはりここは、全ての男を虜にする魔性かしら!?あなたに身も心も捧げきった挙げ句に、ボロボロになって捨てられて!恋を失った彼らはきっと!

―…魔性は、ちょっと

え…。…だめ?…そっか、じゃあ、他のもの…

―うーん、私に必要、欲しいもの。…自信、でしょうか?

自信?え?自信?何の自信?

―えーっと、あの、世の中に、妙に自分に自信満々で、押しの強い人っているじゃないですか。私、あの自信はどこから来るんだろうっていつも思ってて。私、こう見えて、将来は公爵夫人なんです。あれくらい自信たっぷりだったら、生きやすいだろうなあと

あー、なるほど?まあ、多分、彼らには彼らの根拠、成功体験とかそういうものがあって、そうなんだろうとは思うけど?

ああ!じゃあ!あなたにも、自信満々になれる体験をいくつか!モテモテで!めくるめく愛欲にまみれた!

―あ、そういうのはいいです。要らないです

え…?要らないの?

―要りません。自信だけでいいです。

そんな、自信だけって、「何の根拠も無い自信」ってこと?

―はい。それで

いやいやいや、良く考えようよ!その自信に到るまでの過程がさ!大事なんじゃない?胸キュンな恋から、愛憎渦巻く、

―私、そういうのはちょっと…

えー!?

―私、恋愛小説とか、本を読むのは大好きなんですけど。自分のことになると、あまり熱くなれないといいますか…

ふーん?恋を失ってここに来たのに?

―そう、ですね。他の人からすればあんまり大したこと無かったというか、熱くは無かったかもしれません

うん、確かに、このホロホロ感は。儚げね。美味しそう。

うん!まあ、いいわ!じゃあ、あなたにはビックリするくらい「何の根拠も無い自信」を!あ!でも、それだけだと、ただの暗示で終わっちゃうから、オマケで、そのダッサイ眼鏡、もらってあげるわね?

―…ダサい、ですか?

うん、本当に。屈折率やばい

―…あの、魔女様、色々有り難うございました。人に誇れるほどの恋ではなくても、私にとっては大切な恋だったんです。それを、魔女様が喜んで下さって…

うん!あなたの崩れかけの恋は、私にとっては凄く美味しそうな恋よ!あ!でも、本当にいいの?

―?

あなた、婚約を破棄するつもりは無いんでしょう?あなたの失われた恋、私が食べてしまったら、この恋は、もう二度と…

―…はい。いいんです。私の一世一代、たった一つの恋は、もう、終わってしまいましたから




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