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後日談
4.秘密 Side E
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「…エリアス、その、…これを口にするのは、ステラへの裏切り行為になるんだが…」
「なんだ?…さっさと言え。」
書類を届けに訪れた団長執務室、こちらを窺うようにして視線を寄越してきた己の上司が口を開いた。
「…実は、昨日、ステラに確認された。『エリアスとの婚姻証明書を偽造したか』と。」
「…それで?」
「まぁ、かなり確信を持っていたようだからな。認めはしたんだが…」
「…何か言ってたか?」
「いや。それ自体については特に何も言っていなかった。」
「そうか…」
拒絶反応はなかったらしいことに安堵する。
ハイマットからの追っ手を躱す目的で作成したステラとの婚姻証明書。宰相許可のもと作成した文書は、ステラと引き離されることを防ぐために偽造したもの。あわよくば、婚姻の事実を持ってステラをこの国に引き留める武器になるだろうと思っていたのだが、結局、ステラが自力で危機を脱したことで、出番はないままに終わってしまった。
「…エリアス、お前、証明書のことをステラに話していなかったのか?」
「ああ。何の役にも立たなかったからな。何も言っていないし、証明書は既に廃棄した。婚姻については、いずれ改めて正式な手続きで行うつもりだ。」
「婚姻…、なんだ、ステラには求婚済みか?」
「いや、未だだが、いずれそうなる。」
「…」
そんなことよりも、気になるのは、
「ステラは、証明書の存在をどこで知ったと?」
「それは口にしなかった。」
「…」
「俺も気にはなったんだが、それだけなら、まぁ、このことをお前に告げるつもりはなかったんだ。…ステラに、お前には秘密にして欲しいと頼まれていたからな。」
ステラが己に「秘密」を持とうとしていた。それだけで、若干、面白くない気分にさせられるが、それよりも今は、不安の方が大きい。昨日今日のステラの落ち着かない様子を、リリアージュとの接触が尾を引いているせいだと思っていたが─
「…それで?ステラとの約束を違えてまで、それを俺に伝えた理由は?」
「…証明書の件を聞かれた際に、ステラが宰相閣下との面会を望んだんだ。」
「宰相と?」
「ああ。…俺が取り次いで、面会は昨日の内に叶った。が、どうやらそれで終わりでは無かったらしく、改めて閣下より下命があった。本日、ステラを閣下の元へ連れて来るようにと。」
「…ステラには俺がつく。」
「あ、いや、それが、ステラには、お前を付けてくれるなと頼まれている。」
「…」
あくまで己への「秘密」に拘るらしいステラ。その行為の裏にある思惑が読めない以上、腹を立てるわけにもいかない。それでも─
「…分かった。それなら…」
己は己で好きなように動く。ステラには悪いが、野放しにしてやるほどの余裕は、こちらにもない─
「なんだ?…さっさと言え。」
書類を届けに訪れた団長執務室、こちらを窺うようにして視線を寄越してきた己の上司が口を開いた。
「…実は、昨日、ステラに確認された。『エリアスとの婚姻証明書を偽造したか』と。」
「…それで?」
「まぁ、かなり確信を持っていたようだからな。認めはしたんだが…」
「…何か言ってたか?」
「いや。それ自体については特に何も言っていなかった。」
「そうか…」
拒絶反応はなかったらしいことに安堵する。
ハイマットからの追っ手を躱す目的で作成したステラとの婚姻証明書。宰相許可のもと作成した文書は、ステラと引き離されることを防ぐために偽造したもの。あわよくば、婚姻の事実を持ってステラをこの国に引き留める武器になるだろうと思っていたのだが、結局、ステラが自力で危機を脱したことで、出番はないままに終わってしまった。
「…エリアス、お前、証明書のことをステラに話していなかったのか?」
「ああ。何の役にも立たなかったからな。何も言っていないし、証明書は既に廃棄した。婚姻については、いずれ改めて正式な手続きで行うつもりだ。」
「婚姻…、なんだ、ステラには求婚済みか?」
「いや、未だだが、いずれそうなる。」
「…」
そんなことよりも、気になるのは、
「ステラは、証明書の存在をどこで知ったと?」
「それは口にしなかった。」
「…」
「俺も気にはなったんだが、それだけなら、まぁ、このことをお前に告げるつもりはなかったんだ。…ステラに、お前には秘密にして欲しいと頼まれていたからな。」
ステラが己に「秘密」を持とうとしていた。それだけで、若干、面白くない気分にさせられるが、それよりも今は、不安の方が大きい。昨日今日のステラの落ち着かない様子を、リリアージュとの接触が尾を引いているせいだと思っていたが─
「…それで?ステラとの約束を違えてまで、それを俺に伝えた理由は?」
「…証明書の件を聞かれた際に、ステラが宰相閣下との面会を望んだんだ。」
「宰相と?」
「ああ。…俺が取り次いで、面会は昨日の内に叶った。が、どうやらそれで終わりでは無かったらしく、改めて閣下より下命があった。本日、ステラを閣下の元へ連れて来るようにと。」
「…ステラには俺がつく。」
「あ、いや、それが、ステラには、お前を付けてくれるなと頼まれている。」
「…」
あくまで己への「秘密」に拘るらしいステラ。その行為の裏にある思惑が読めない以上、腹を立てるわけにもいかない。それでも─
「…分かった。それなら…」
己は己で好きなように動く。ステラには悪いが、野放しにしてやるほどの余裕は、こちらにもない─
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