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第四章 領主夫人、母となる
14.無敵の気分
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だったらもう、セルジュ一人行かせるよりは、私がついていった方がまだマシなんじゃないかという判断で、セルジュにくっついて向かった中庭。然程広くはない場所とは言え、灯りのほとんどない屋外、生垣なんかに阻まれて、見通しはかなり悪い。はずなんだけど─
「…本当に居た。」
「ええ…」
見つけてしまったのは、屋敷の中からでも見えるんじゃないかという開けた場所に佇む人影。しかも、二人分。
「…一緒に居るの、騎士団長だよね?」
「そのようですね。」
女性らしいシルエットの隣に立つのは、遠目に分かるがたいの良さを持つ人影。どうやら、セルジュの予想通り、彼女は一人で部屋を抜け出すことに失敗してしまったらしい。
「…なんか、もめてる?」
「…どう、でしょう?」
近づくにつれて聞こえて来た声。ガイラスの声は低く、聞き取りづらいものの、アイシャの高い声が、夜の静寂を破って切れ切れに響いて来る。
近づくこちらに最初に気づいたのはガイラスだった。アイシャを宥めるように、彼女へと手を差し伸べたまま、こちらへと視線を向ける。更に近づく距離、互いに声が届く距離まで近づいたところで
「…アンブロス卿、夜分にすまない。このような、」
「どうしてあなたが居るのよっ!?」
ガイラスの潜められた声を阻んで響いたアイシャの声。闇に慣れて来た視界に、彼女がこちらを向いているのだと分かる。だとしたら、その質問に対する答えなんて決まっている。
「…非常識な時間に夫を呼び出されましたので、」
「あなただって散々してきたことでしょうっ!?」
「…なにを…」
何を言っているんだろうか、この人は。
とんだ濡れ衣だと、セルジュに弁解しようとして─
「あなたが召喚された日からずっと!ガイラスは昼も夜もなく王宮に呼び出されていたわっ!」
「っ!?」
アイシャの叫びに、否定しかけていた言葉を飲み込んだ。
「私はそれをずっと我慢していた!あなたが呼べば、私との先約を破ってでも王宮に駆けつけるガイラスを、私はずっとずっと我慢していたのよ!」
「…」
(…あれか…)
身に覚えのある出来事。決して、私がガイラスを呼んだわけではないけれど、召喚から暫く、泣いて暴れる私を取り押さえるため、それこそ、ガイラスは昼だろうと夜だろうと私の下に駆けつけていたから。
「私はそれと同じことをしているだけ!」
「…」
同じではない、とは思うけれど。彼女の立場からすれば─
「それに!私がセルジュを呼び出したのは、彼に忠告してあげるため!セルジュ!私、あなたの目を覚ましてあげたかったの!」
「アイシャ、よせ。もういいだろう、話は、」
「この女はセルジュが憧れるような女じゃない!」
「アイシャ…!」
セルジュに掴みかかる勢いで距離を縮めようとするアイシャを、ガイラスがその身体で阻む。
「ねぇ!セルジュ、聞いて!ガイラスだけじゃないの!この女は殿下やサキア様達まで侍らせて!まるで、殿下方を自分のもののように付き従わせていたのよっ!?」
ガイラスが何とかアイシャの言葉を遮ろうとしているが、基本、女性を力尽くでどうこう出来ない彼では防波堤にはなれず、アイシャの暴言を許してしまっている。
(…暴言、というか、まぁ、彼女の側からみた事実というか…)
私からすれば馬鹿馬鹿しいもの。むしろ、腹立たしいくらいの思い込みだと言ってやりたいが。
(…セルジュは…)
隣を見上げ、そこにいつも通りの変わらない彼の表情を見て安堵する。
(大丈夫…)
セルジュにさえ誤解されなければ、何てことはない。それに、セルジュならきっと─
(…うん、大丈夫。)
彼なら私を信じてくれる。疑われたとしても、その時は先ず、私に確認してくれるはず。私の話を聞いてくれるはずだから。
「…話は、それだけでしょうか?」
「なっ!?」
暗闇に静かに聞こえた声。いつもと変わらぬセルジュの温度に、アイシャが驚きの声を上げた。
「話がそれだけでしたら、我々は部屋に戻らせて頂きます。」
「っ!セルジュっ!」
「…騎士団長閣下、後はお任せしても?」
「ああ。…本当にすまなかった。」
「っ!?どうしてガイラスが謝るのっ!?」
アイシャを抱きしめるようにしてその行動を止めようとするガイラス。彼を見上げて必死に抗議するアイシャ。二人を残してその場を後にする。背を向けた途端、背後から聞こえた声。
「待ちなさい!話はまだっ!」
「アイシャ…!」
全て無視して歩を進めるセルジュに手を引かれ、屋敷への道を戻る。アイシャの言葉を気に掛ける様子もない彼のその姿に、すっかり安心してしまっていた。後はもう、部屋に帰って休むだけ。
なのに─
緩みかけた気持ちに、冷水を浴びせるような言葉が聞こえた。
「っ!あなたなんて!セルジュを騙してたくせに!」
(…また、何を…)
「ガイラスとの関係を黙ったまま、セルジュと結婚したでしょうっ!?」
(…え?)
「…あの、セルジュ?」
アイシャの言葉は聞こえていただろうに、そのことには一言も触れなかった、というか、黙り込んだまま戻って来た二人きりの寝室。未だ黙ったままのセルジュに、意を決して言葉をかける。
「…セルジュ、その、私、ガイラスと婚約しかけてたって話…」
「…」
「…してなかったね。」
無言の返事に、即行で自分の言葉を否定する。
「…えっと、じゃあ、殿下から、私がお見合いするに至った経緯を聞いたりも…?
「…していません。」
「っ!?」
漸く口を開いたセルジュに、反射的に頭を下げた。
「ごめんっ!」
「アオイ、」
「あの!えっと、ただ、言い訳をさせてもらうと、故意に黙ってたわけじゃなくて、私とガイラスのこと、みんな知ってると思ってて!」
とんだ自惚れ発言だとは自分でも思うけれど、
(っ!でも、だって、『巫女と護衛騎士の悲恋物語』って!当時、散々騒がれてたしさぁ!)
何なら、私たちを題材としたお芝居が、王都の劇場で公演されるくらいには有名な話だった。社交界においても、会う人会う人、それを話題にしていたから─
「ほんっと、ごめん!セルジュ!感覚が麻痺してたというかっ!」
恥ずかしい話、自分からその話題に触れる勇気がなかった。必死に謝罪を口にすれば、セルジュの空気がふと緩んで、
「すみません、アオイ。不安にさせてしまいました。少々、気が立ってしまっていたようで、」
「っ!だよね!ごめん!無神経で本当、ごめん!」
「ああ、いえ。…腹立たしいのは自分自身に対してです。」
「へ…?」
予想外過ぎて、思わず間抜けな声を上げてしまう。
「…騎士団長夫人が、まさか、あのような侮辱、妄言を口にされるとは思わず、アオイに不快な思いをさせてしまいました。」
「妄言…?」
確かに、そう言ってくれたことに心が浮上する。
「…でも、あの、私とガイラスは、その…」
「閣下との関係は、既に聞き及んでおりますし、今のアオイを知る限り、それが問題だとは思えません。」
「…セルジュ。」
「…嫉妬を、しなかったとは言えませんが。…その、今のアオイは、…アオイの想いがあるのは…」
「っ!セルジュ…!」
そこだけ、照れたように言い淀んだセルジュが可愛くて、愛しくて、思わず飛びついてしまう。抱きしめた身体、回した腕に、セルジュの優しい抱擁が返って来た。
「…すみません、アオイ。やはり、あなたを連れて行くべきではなかった。判断を誤りました。」
「ううん!全然!」
全然、ちっとも堪えていない。セルジュが味方でいてくれる限り、何の問題もない。
「…ですが、私はこれ以上、アオイに不快な思いをして欲しくはありません。」
「気にしすぎだよ!明日には二人とも帰っちゃうんだから!ね?」
「…そう、ですね。…明日だけ、乗り切れば。」
「うん!」
納得してくれたらしいセルジュに笑って、腕に力を込める。ギュウギュウに抱き着いて、幸せを感じて、だから、気づかなかった。
私とセルジュの考える「乗り切り方」に甚だしい乖離があったなんて─
翌朝、朝と言うには非常に遅い時間に目を覚まし、顔面蒼白になった私に対し、セルジュは何でもない顔で「お二人は帰途に就かれました」と告げた。私が見送りに現れなかった理由を「体調不良で臥せっている」と伝えたと聞いて、声にならない悲鳴を上げた時の私の気持ちを察して欲しい。
「…本当に居た。」
「ええ…」
見つけてしまったのは、屋敷の中からでも見えるんじゃないかという開けた場所に佇む人影。しかも、二人分。
「…一緒に居るの、騎士団長だよね?」
「そのようですね。」
女性らしいシルエットの隣に立つのは、遠目に分かるがたいの良さを持つ人影。どうやら、セルジュの予想通り、彼女は一人で部屋を抜け出すことに失敗してしまったらしい。
「…なんか、もめてる?」
「…どう、でしょう?」
近づくにつれて聞こえて来た声。ガイラスの声は低く、聞き取りづらいものの、アイシャの高い声が、夜の静寂を破って切れ切れに響いて来る。
近づくこちらに最初に気づいたのはガイラスだった。アイシャを宥めるように、彼女へと手を差し伸べたまま、こちらへと視線を向ける。更に近づく距離、互いに声が届く距離まで近づいたところで
「…アンブロス卿、夜分にすまない。このような、」
「どうしてあなたが居るのよっ!?」
ガイラスの潜められた声を阻んで響いたアイシャの声。闇に慣れて来た視界に、彼女がこちらを向いているのだと分かる。だとしたら、その質問に対する答えなんて決まっている。
「…非常識な時間に夫を呼び出されましたので、」
「あなただって散々してきたことでしょうっ!?」
「…なにを…」
何を言っているんだろうか、この人は。
とんだ濡れ衣だと、セルジュに弁解しようとして─
「あなたが召喚された日からずっと!ガイラスは昼も夜もなく王宮に呼び出されていたわっ!」
「っ!?」
アイシャの叫びに、否定しかけていた言葉を飲み込んだ。
「私はそれをずっと我慢していた!あなたが呼べば、私との先約を破ってでも王宮に駆けつけるガイラスを、私はずっとずっと我慢していたのよ!」
「…」
(…あれか…)
身に覚えのある出来事。決して、私がガイラスを呼んだわけではないけれど、召喚から暫く、泣いて暴れる私を取り押さえるため、それこそ、ガイラスは昼だろうと夜だろうと私の下に駆けつけていたから。
「私はそれと同じことをしているだけ!」
「…」
同じではない、とは思うけれど。彼女の立場からすれば─
「それに!私がセルジュを呼び出したのは、彼に忠告してあげるため!セルジュ!私、あなたの目を覚ましてあげたかったの!」
「アイシャ、よせ。もういいだろう、話は、」
「この女はセルジュが憧れるような女じゃない!」
「アイシャ…!」
セルジュに掴みかかる勢いで距離を縮めようとするアイシャを、ガイラスがその身体で阻む。
「ねぇ!セルジュ、聞いて!ガイラスだけじゃないの!この女は殿下やサキア様達まで侍らせて!まるで、殿下方を自分のもののように付き従わせていたのよっ!?」
ガイラスが何とかアイシャの言葉を遮ろうとしているが、基本、女性を力尽くでどうこう出来ない彼では防波堤にはなれず、アイシャの暴言を許してしまっている。
(…暴言、というか、まぁ、彼女の側からみた事実というか…)
私からすれば馬鹿馬鹿しいもの。むしろ、腹立たしいくらいの思い込みだと言ってやりたいが。
(…セルジュは…)
隣を見上げ、そこにいつも通りの変わらない彼の表情を見て安堵する。
(大丈夫…)
セルジュにさえ誤解されなければ、何てことはない。それに、セルジュならきっと─
(…うん、大丈夫。)
彼なら私を信じてくれる。疑われたとしても、その時は先ず、私に確認してくれるはず。私の話を聞いてくれるはずだから。
「…話は、それだけでしょうか?」
「なっ!?」
暗闇に静かに聞こえた声。いつもと変わらぬセルジュの温度に、アイシャが驚きの声を上げた。
「話がそれだけでしたら、我々は部屋に戻らせて頂きます。」
「っ!セルジュっ!」
「…騎士団長閣下、後はお任せしても?」
「ああ。…本当にすまなかった。」
「っ!?どうしてガイラスが謝るのっ!?」
アイシャを抱きしめるようにしてその行動を止めようとするガイラス。彼を見上げて必死に抗議するアイシャ。二人を残してその場を後にする。背を向けた途端、背後から聞こえた声。
「待ちなさい!話はまだっ!」
「アイシャ…!」
全て無視して歩を進めるセルジュに手を引かれ、屋敷への道を戻る。アイシャの言葉を気に掛ける様子もない彼のその姿に、すっかり安心してしまっていた。後はもう、部屋に帰って休むだけ。
なのに─
緩みかけた気持ちに、冷水を浴びせるような言葉が聞こえた。
「っ!あなたなんて!セルジュを騙してたくせに!」
(…また、何を…)
「ガイラスとの関係を黙ったまま、セルジュと結婚したでしょうっ!?」
(…え?)
「…あの、セルジュ?」
アイシャの言葉は聞こえていただろうに、そのことには一言も触れなかった、というか、黙り込んだまま戻って来た二人きりの寝室。未だ黙ったままのセルジュに、意を決して言葉をかける。
「…セルジュ、その、私、ガイラスと婚約しかけてたって話…」
「…」
「…してなかったね。」
無言の返事に、即行で自分の言葉を否定する。
「…えっと、じゃあ、殿下から、私がお見合いするに至った経緯を聞いたりも…?
「…していません。」
「っ!?」
漸く口を開いたセルジュに、反射的に頭を下げた。
「ごめんっ!」
「アオイ、」
「あの!えっと、ただ、言い訳をさせてもらうと、故意に黙ってたわけじゃなくて、私とガイラスのこと、みんな知ってると思ってて!」
とんだ自惚れ発言だとは自分でも思うけれど、
(っ!でも、だって、『巫女と護衛騎士の悲恋物語』って!当時、散々騒がれてたしさぁ!)
何なら、私たちを題材としたお芝居が、王都の劇場で公演されるくらいには有名な話だった。社交界においても、会う人会う人、それを話題にしていたから─
「ほんっと、ごめん!セルジュ!感覚が麻痺してたというかっ!」
恥ずかしい話、自分からその話題に触れる勇気がなかった。必死に謝罪を口にすれば、セルジュの空気がふと緩んで、
「すみません、アオイ。不安にさせてしまいました。少々、気が立ってしまっていたようで、」
「っ!だよね!ごめん!無神経で本当、ごめん!」
「ああ、いえ。…腹立たしいのは自分自身に対してです。」
「へ…?」
予想外過ぎて、思わず間抜けな声を上げてしまう。
「…騎士団長夫人が、まさか、あのような侮辱、妄言を口にされるとは思わず、アオイに不快な思いをさせてしまいました。」
「妄言…?」
確かに、そう言ってくれたことに心が浮上する。
「…でも、あの、私とガイラスは、その…」
「閣下との関係は、既に聞き及んでおりますし、今のアオイを知る限り、それが問題だとは思えません。」
「…セルジュ。」
「…嫉妬を、しなかったとは言えませんが。…その、今のアオイは、…アオイの想いがあるのは…」
「っ!セルジュ…!」
そこだけ、照れたように言い淀んだセルジュが可愛くて、愛しくて、思わず飛びついてしまう。抱きしめた身体、回した腕に、セルジュの優しい抱擁が返って来た。
「…すみません、アオイ。やはり、あなたを連れて行くべきではなかった。判断を誤りました。」
「ううん!全然!」
全然、ちっとも堪えていない。セルジュが味方でいてくれる限り、何の問題もない。
「…ですが、私はこれ以上、アオイに不快な思いをして欲しくはありません。」
「気にしすぎだよ!明日には二人とも帰っちゃうんだから!ね?」
「…そう、ですね。…明日だけ、乗り切れば。」
「うん!」
納得してくれたらしいセルジュに笑って、腕に力を込める。ギュウギュウに抱き着いて、幸せを感じて、だから、気づかなかった。
私とセルジュの考える「乗り切り方」に甚だしい乖離があったなんて─
翌朝、朝と言うには非常に遅い時間に目を覚まし、顔面蒼白になった私に対し、セルジュは何でもない顔で「お二人は帰途に就かれました」と告げた。私が見送りに現れなかった理由を「体調不良で臥せっている」と伝えたと聞いて、声にならない悲鳴を上げた時の私の気持ちを察して欲しい。
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