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第十六章 家に帰った

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本当は、魔族領にたどり着いた時点で、離脱するつもりだった。魔族領の濃すぎる魔素には、耐えられないってわかっているから、それを口実に。

なのに―

エラが祈り、勇者が魔法を放ち、剣を振るう。それだけで、周囲の魔素が薄まっていく。木を倒し、森を破壊し、巻き込まれた魔物たちを根絶やしにして。

―ふざけるな

前回の襲撃である程度のマッピングは出来ているのだろう、距離を抑えながらも、確実に魔王城、あっちゃんの延びていく先へと進んでいる。

遠目に見え始めた、城壁。それを、初めて外から目にしたことに気づいた。城壁の向こう、そびえ立つ城。これも、初めて目にする光景。それでも、わかる。

―帰ってきた

アッシュ様のところ。

込み上げるものと、必死に戦っていたら、突如、横を吹き抜けていく暴風。

途端、轟音と激しい震動とともに、城壁の壁に大穴が開いた。振り返って確かめれば、壁に向かって片手をあげている勇者の姿。

―ふざけるな

こんな、こんな暴力で。

思わずにらんでしまったが、気にした様子もなく穴から街へと入っていく勇者達。ぐるりと周囲を見回して、また勇者が片手をあげる。

考える前に体が動いて、勇者の前に立ちふさがった。

「…邪魔だ。どけ」

「…いや」

「なら、お前も消し飛べ」

それでもいいかも。エラが青い顔してるから、勇者への信頼も、同時にふっ飛べばいい。聖女の力なんて、ここで失ってしまえ。

それに、もう戻ってきちゃったんだから。アッシュ様も、私のこと、見捨てられないかもしれない。見てるかな?助けてくれる?

「…リヒト、気が立ってるのはわかるけど、落ち着いて」

余計なところで、アデリナが口を挟んでくる。エラの力を失いたくないからだろうけど。

「!あ、あの!私、魔族の魔力が見えるんです!」

エラが、勇者を止めるために声をあげた。

「この辺り、全然魔力の反応はありません!だから、安全です!」

街の皆が居ないことなんて、勇者達だって気づいてるはず。それでも、こいつらは街を破壊しようとしてる。自分達の進みやすい道を確保するために。

「…誰も居ない建物壊して回るとか、バカみたい」

「何だと!?」

「見ればわかるでしょ?魔族だって、人と一緒。街を作って寄り添い合って暮らしてる。戦う力が無い魔族だっているはず。あなたは、その魔族達の暮らしまで粉々にしようとしてる」

これは、エラに聞かせる言葉。勇者がそれでも街を壊すと言うのなら、それが聖女にとって不審の芽になるなら。

「…リヒト。王城はすぐそこ、ここからなら結界を維持したまま進めるわ」

アデリナの言葉に、勇者が舌打ちする。しかし、あげたままの手は下げられた。

アデリナが呪文を唱えた。周囲の魔素が薄まる。




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