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第三章 転職した

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オスマン様に呼び出された。何か、ファンシーなんだかダークなんだか迷う、掌サイズのセクシー系の妖精さん?に案内されて。

あっちゃんがいるから、部屋に入る前からわかってたけどね。

「アッシュ様!」

今度はいきなり飛びついたりしないよ。遠目にアッシュ様の全体像を視界におさめる。アッシュ様、ひじ掛けに頬杖つくのが、世界で一番似合ってる。さすがは魔王様。すごく、怠惰です。

「…おい、女。陛下を見るな、話を聞け」

オレアがびっくりするほど無茶を言う。

「…ローザ嬢、貴女にいくつか、聞きたいことがある」

「はい、何でしょうか?」

上司の要請には大人しく従おう。くびになったら困る。出世にも響く。

「勇者達が、城下に接近して来ている。彼らに関して、何か提供出来る情報はあるかね?」

「情報、ですか?…一つだけなら」

「貴様、出し渋るか!何のかのと言いながら、結局は、あいつらの仲間と言うことだな!」

オレアは、本当に抉ってくるよね。私だって、洗いざらいはきたいさ!アッシュ様のこと守りたいからね!

でも、なんか、勇者達から情報引き出すだけの余裕もテクニックも無かったんですよ。

「…すみません。かばうとかじゃなくて、勇者について、本当に何も知らないんです」

オレアに、フンッて顔された。自分の無能さに、ちょっと凹む。

「人族において勇者の知名度は相当なもの。噂の類いを出ずとも、何も無いのかね?」

「すみません。勇者に興味が無かったので」

「ふむ。ではそもそも、貴女は何故、勇者についていくことに?」

オスマン様の疑問もごもっともだよね。

「アッシュ様に会いに行きたかったんですけど、一人で山を越える自信が無くて。でも、一応、勇者達が着く前に、アッシュ様に勇者が来るよ!ってお知らせするつもりだったんです」

「一日で置いて行かれていたがな」

くっ!オレアが!オレアが!

「…例え一時のことで、それが無理強いの上だったとしても、勇者が貴女の同行を許したのは何故かね?」

脅迫しました!は、響きが良くないので、オブラートに包もう。

「私の家を壊されちゃったんです」

「家を壊す?」

「はい。フライングエイプが村に翔んできて、勇者が私の家ごと吹っ飛ばしました。それで、お詫びとして連れていってくれるように誠心誠意頼み込みました」

最上級のジャパニーズスタイルでね!

「なるほど…」

「勇者に関して知ってることって言うのは、その時のことで。勇者が指一本向けただけで、詠唱とかも無しに火属性の大きい魔法を使っていました」

私の言葉に表情を変えることもなく、オレアとオスマン様が顔を見合わせてる。

「…付けてる監視からの報告でも、魔法攻撃については、同じ様な報告がいくつかあがっています」

おう、既出情報でしたか。

「…役に立てなくて、ごめんなさい」

「…俺に、」

!?ビビった。アッシュ様、いきなりの美声。心臓に悪い。

「勇者接近を報せようと思った理由は?」

「アッシュ様に死んで欲しくなかったからです」

「何故?」

「アッシュ様が好きだから。長生きしてもらいたいんです」

「…」

アッシュ様黙っちゃった。これは、どういう意味だろうか。アッシュ様の表情って、読めない。

「…ローザ嬢。貴女は魔王がどういう存在か、真には理解していないようだね」

「?魔族の王様、じゃないんですか?」

また、アッシュ様と見つめ合うだけのとこを、オスマン様に救われた。

「我々、魔族にとっては、そうだ。だが、人族にとっては違う。奴等にとっては、魔王とは人族繁栄のための怨敵」

「でも、アッシュ様って、人族に戦争仕掛けたり、人族滅亡とか狙ってる訳でも無いですよね?なのに、何でそんな狙われるのか、わからない。」

「…」

「あ、もしかして人族滅亡狙ってます?」

「…狙ってはいないよ。けど俺が死ななきゃ、いずれ人族は滅亡する」

あー、魔王だから、世界の崩壊を招いちゃう的な。二者択一なのかな?だったら、仕方ないか。

「…そうなんですね」

「おい、それだけか?」

恐い、オレアが凄んでくる。

「仕方無いんじゃないですか?人族滅亡より、私はアッシュ様が死ぬ方が悲しいです」

「は!それで貴様は自分だけ陛下に取り入って生き残るつもりか?」

「あ!生き残れるんですか?人族全員死ぬって意味じゃなくて?だったら、生き残りたいです。アッシュ様を幸せにしないと。嫁として」

「…」

「生き残れる方法、教えて下さい」

深々と頭を下げてお願いしてみる。




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