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第二章 魔王様に会った

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死にかけていたとは思えないほど、生命力にあふれた人族の娘。彼女が去った部屋に秩序が戻る。

「魔力を、全く感じられませんでしたな」

「山を越えることが出来たのは、そのためでしょうか?魔力が無さすぎて、魔獣の類いにエサと認識されなかった?」

「可能性は高いだろう。しかし、かといって、聖なる力や、剣の腕を持ち合わせているようにも見えなかったが」

「言動も怪しい、いえ、意味のわからない女でした」

オレアとは相性が悪そうな娘。虚ろな発言を繰り返す、不可思議な―

「…一度も、迷わなかったんだよねえ」

「?どういう意味ですかな」

「寝かせて置いた部屋から、ここまで。一度も迷わずに、最短でたどり着いた」

「!?」

普通に考えればあり得ないこと。王城はその性質上、複雑な構造でなるうえに、ここはその最奥。魔王たる自分の執務室なのだから。

「感知、もしくは探索系の魔術でしょうか?」

オレアの言葉にオスマンが首を振る。

「陛下の魔素で満たされる王城内において、只人ただびとの魔術が発動するはずもない」

「では…?」

「わからん。対陛下に特化した聖なる力であれば、或いは。しかし、それでも城内での発動であれば、感知くらいは出来るはずだ」

この三人ですら感知出来ない力。そんなものが、本当に存在するのなら。

―面白い

「…まあ、せっかく陛下が拾って、生き永らえたのですから。直ぐに処分はせずに、様子を見ておきましょう」

「任せるよ」

頭を下げて退出しようとする二人。オスマンが足を止めた。

「陛下、ご承知の上でございましょうが、御名おんなは大切になされませ。陛下を直視出来る存在に興をそそられたご様子ですが、お戯れも程ほどに…」

深々と下げられた頭に、肩をすくめて返す。




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