64 / 65
第八章(終章) それでも、私は
5.
しおりを挟む
5.
「あー、来叶?」
「ひっ!」
怪我がないかを確認しようとしただけなのだけど。思いっきり後退りされてしまった。
―恐がられてるなぁ
当然の、反応だとは思う。美歌に襲われてパニックになってるところに私が跳んで現れて、美歌を力ずくで抑え込んだり、空中ボコボコ殴ってみたり。しまいには、美歌が倒れちゃうし。来叶には幽鬼が見えていないから、余計に何がなんだかわからなかったはず。
「…来叶、とりあえず、怪我がないか確認したいだけだからさ、どっか、」
「来るな!近寄るな!」
更に後退する来叶は、このまま逃げ出してしまいそうだ。一応、この場でのことを口止めしたり何なりあるから、まだここに居て欲しいんだけれど。
「来るな来るな来るな!来るんじゃねえよ!」
「来叶、ちょっと落ち着いて」
宥めようと伸ばした手も振り払われた。来叶の目に映るのは、激しい嫌悪の光。その冷たさに、心の何処かが硬質化していく―
「触んじゃねえよ!この!化け、」
「明莉ちゃん!」
「!?」
突然の声、振り返れば、こちらへ駆け寄ってくる姿。
「…秀」
彼を見ただけで、ほっとした。良かった、ちゃんと息が吸える―
「ごめん!遅くなって」
かなり走ってきたのか、大きく息を乱したまま謝る秀を見ていたら、硬く脆くなりそうだったものまで柔らかく溶けだした。
「ううん、大丈夫、幽鬼は倒せたし、誰も怪我しないで済んだし、」
「うん、そうかもしれないけど、でも、遅れてごめん」
「…」
秀が来叶に視線を向けた。警戒したままこちらを睨み続ける来叶との間に、沈黙が続く。秀の気が張っているのが伝わる。多分、視線の先の来叶に対して怒ってる。それも物凄く。
秀の緊張がこちらにまで伝わってきて、動けなくなる。沈黙に耐えていると、不意に、秀が来叶から視線を外した。
こちらを向いた時には既に柔らかく笑っていた秀の瞳。知らず詰めていた息を吐く。
「…彼らのことは悠司達に任せていいから、明莉ちゃん、帰ろう?送っていくよ?」
着いて早々に帰宅を促す秀の言葉に、戸惑いながらも頷けば、横からチサが口を開いた。
「私は部長の手伝いをしてから帰る。経緯を把握している人間が居た方がいい。明莉は先に帰ってて」
「…でも、」
「花守、明莉を任せる」
「わかった」
強引だけど、家に帰そうとしてくれる二人の気持ちは伝わったから―
「…ありがとう」
感謝を伝えて、帰途につくことにした。秀も並んで夜道を歩く。流れる沈黙は、嫌なものではなかったけれど、何かを吐き出したくて口を開いた。
「…後始末、大丈夫かなぁ?来叶には、結構がっつり、最初から最後まで見られちゃったんだよね。言いふらされたら困るよね?」
「問題無いよ。明莉ちゃんは気にしなくて平気だからね?仮に、彼一人が騒いだところで、大した影響はないから」
「…SNSで拡散したりとか」
「その点も大丈夫。専門のチームがいるから」
にっこり笑って答える秀が、頼もしいんだけど、ちょっと恐かった。頷いて、また前を見て歩く。再び訪れた沈黙を破ったのは秀で、
「…明莉ちゃん、手袋買いに行こうか?欲しいって言ってたでしょ?」
「…えっと、それって、幽鬼殴る時の?」
軍手的な?
まあ、確かにあれば助かるんだけど。ただ、普通の軍手だと、幽鬼を一発殴っただけで破れてしまうから、今までは購入を躊躇っていた。
秀が首を振って答える。
「幽鬼退治用の装備については、今、研究班の方で開発中なんだ。そっちはもう少し待っててくれる?」
「…開発中なんだ」
「うん。明莉ちゃんの攻撃能力に耐えられるものをって考えてて」
秀が嬉しそうに笑う。
「まあ、それでも明莉ちゃんの力に完全に耐えきれるものは無理だろうから、使い捨てにはなっちゃうと思うんだけど」
研究開発するようなものを使い捨てにしていいものなのか。「そこまでする必要はない」と言えば、返ってきたのは、思いの外、真剣な眼差し。
「手袋一枚分の隔たりしか作ってあげられないけど、出来ればもらって欲しい。今の僕に、僕達に出来ることが、それくらいしかないから」
「…ありがとう」
半分くらい冗談で言った言葉だったのに。もう半分で、本当に嫌だと思ってる気持ちを、秀が拾ってくれた―
「だから明日は、折角だから、明莉ちゃんに似合う手袋、買いに行こうよ」
「うん」
「クリスマスプレゼント、贈らせて」
「うん」
「初めてのデートだね?」
「う、うぇ?」
凄い勢いで隣の秀を見上げた。秀が、幸せそうに笑ってる。
「あー、来叶?」
「ひっ!」
怪我がないかを確認しようとしただけなのだけど。思いっきり後退りされてしまった。
―恐がられてるなぁ
当然の、反応だとは思う。美歌に襲われてパニックになってるところに私が跳んで現れて、美歌を力ずくで抑え込んだり、空中ボコボコ殴ってみたり。しまいには、美歌が倒れちゃうし。来叶には幽鬼が見えていないから、余計に何がなんだかわからなかったはず。
「…来叶、とりあえず、怪我がないか確認したいだけだからさ、どっか、」
「来るな!近寄るな!」
更に後退する来叶は、このまま逃げ出してしまいそうだ。一応、この場でのことを口止めしたり何なりあるから、まだここに居て欲しいんだけれど。
「来るな来るな来るな!来るんじゃねえよ!」
「来叶、ちょっと落ち着いて」
宥めようと伸ばした手も振り払われた。来叶の目に映るのは、激しい嫌悪の光。その冷たさに、心の何処かが硬質化していく―
「触んじゃねえよ!この!化け、」
「明莉ちゃん!」
「!?」
突然の声、振り返れば、こちらへ駆け寄ってくる姿。
「…秀」
彼を見ただけで、ほっとした。良かった、ちゃんと息が吸える―
「ごめん!遅くなって」
かなり走ってきたのか、大きく息を乱したまま謝る秀を見ていたら、硬く脆くなりそうだったものまで柔らかく溶けだした。
「ううん、大丈夫、幽鬼は倒せたし、誰も怪我しないで済んだし、」
「うん、そうかもしれないけど、でも、遅れてごめん」
「…」
秀が来叶に視線を向けた。警戒したままこちらを睨み続ける来叶との間に、沈黙が続く。秀の気が張っているのが伝わる。多分、視線の先の来叶に対して怒ってる。それも物凄く。
秀の緊張がこちらにまで伝わってきて、動けなくなる。沈黙に耐えていると、不意に、秀が来叶から視線を外した。
こちらを向いた時には既に柔らかく笑っていた秀の瞳。知らず詰めていた息を吐く。
「…彼らのことは悠司達に任せていいから、明莉ちゃん、帰ろう?送っていくよ?」
着いて早々に帰宅を促す秀の言葉に、戸惑いながらも頷けば、横からチサが口を開いた。
「私は部長の手伝いをしてから帰る。経緯を把握している人間が居た方がいい。明莉は先に帰ってて」
「…でも、」
「花守、明莉を任せる」
「わかった」
強引だけど、家に帰そうとしてくれる二人の気持ちは伝わったから―
「…ありがとう」
感謝を伝えて、帰途につくことにした。秀も並んで夜道を歩く。流れる沈黙は、嫌なものではなかったけれど、何かを吐き出したくて口を開いた。
「…後始末、大丈夫かなぁ?来叶には、結構がっつり、最初から最後まで見られちゃったんだよね。言いふらされたら困るよね?」
「問題無いよ。明莉ちゃんは気にしなくて平気だからね?仮に、彼一人が騒いだところで、大した影響はないから」
「…SNSで拡散したりとか」
「その点も大丈夫。専門のチームがいるから」
にっこり笑って答える秀が、頼もしいんだけど、ちょっと恐かった。頷いて、また前を見て歩く。再び訪れた沈黙を破ったのは秀で、
「…明莉ちゃん、手袋買いに行こうか?欲しいって言ってたでしょ?」
「…えっと、それって、幽鬼殴る時の?」
軍手的な?
まあ、確かにあれば助かるんだけど。ただ、普通の軍手だと、幽鬼を一発殴っただけで破れてしまうから、今までは購入を躊躇っていた。
秀が首を振って答える。
「幽鬼退治用の装備については、今、研究班の方で開発中なんだ。そっちはもう少し待っててくれる?」
「…開発中なんだ」
「うん。明莉ちゃんの攻撃能力に耐えられるものをって考えてて」
秀が嬉しそうに笑う。
「まあ、それでも明莉ちゃんの力に完全に耐えきれるものは無理だろうから、使い捨てにはなっちゃうと思うんだけど」
研究開発するようなものを使い捨てにしていいものなのか。「そこまでする必要はない」と言えば、返ってきたのは、思いの外、真剣な眼差し。
「手袋一枚分の隔たりしか作ってあげられないけど、出来ればもらって欲しい。今の僕に、僕達に出来ることが、それくらいしかないから」
「…ありがとう」
半分くらい冗談で言った言葉だったのに。もう半分で、本当に嫌だと思ってる気持ちを、秀が拾ってくれた―
「だから明日は、折角だから、明莉ちゃんに似合う手袋、買いに行こうよ」
「うん」
「クリスマスプレゼント、贈らせて」
「うん」
「初めてのデートだね?」
「う、うぇ?」
凄い勢いで隣の秀を見上げた。秀が、幸せそうに笑ってる。
2
お気に入りに追加
964
あなたにおすすめの小説
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい
海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。
その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。
赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。
だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。
私のHPは限界です!!
なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。
しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ!
でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!!
そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ
だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような?
♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います!
この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる