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第七章 わすれられない
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油断は、していたと思う―
この世界に現れる幽鬼という存在が、あちらの世界のモンスター達に似ていることを、知っていたのに。
いつか、現れてもおかしくなかった。あちらの世界で倒した『魔王』、それに類似した存在が。わかっていて、考えないようにしていたのかもしれない。恐かったから。思い出すのが、動けなくなるのが―
秀に呼ばれたのは、日付が変わろうとする頃、深夜。理由ははっきりしていないらしいけれど、幽界の門が開くのは、基本、日が落ちてかららしい。真夜中の呼び出しも、決して珍しくはない。
12月に入ってから、恐ろしく下がった気温。こんな夜は、家のこたつでチサとのんびりゴロゴロしていたいと思うけれど、呼び出されてしまえばそんなことも言っていられない。チサと二人、秀が用意してくれた車で指定された場所へと向かった。
車を降りた所で、チサの様子がおかしいことに気づく。
「チサ?」
「…明莉、警告。何か変」
「え?」
目の前には大きな工場。以前とは違う綺麗な外装から、普通に稼働している工場のように見える。建物の上の方にしかついていない窓からは、僅かな光が漏れている。
「…うん、でも皆待ってるしね。とりあえず、入ってみよう?」
「…」
緊張した様子のチサの姿に、いつもよりも警戒レベルを上げて、建物の入り口へと進んだ。
入った先、真っ白な床に壁。工場というよりは、研究施設のようなそこには様々な機材がところ狭しと置かれている。気配を感知しているのであろうチサの先導に従って、縫うように歩く。辿り着いた扉には何やら最新の警備システムらしきもの。ただ、扉そのものが半壊して開きっぱなしになっているので、全く役には立っていない。
「幽鬼が既に出現しちゃったのかな?暴れた後?」
「…幽鬼らしき痕跡は見当たらない」
「そうなの?」
破壊された跡を見るに、かなりの力が加わったはず。こんなことが出来るのなら、それは五家の仕業なのだろうとは思うが、何だか仕事が粗っぽい気がする。
「…花守達は中に居る。門の気配も、戦闘の気配も無い。ただ、正体不明の気配が一つ」
「戦ってるわけじゃないのか。これから?」
呼び出しを受けてから、少なくない時間が過ぎている。幽鬼との戦闘が始まっていてもおかしくはないはずなのに。
「…確かに、なんか変だね。不安になってきた。急ごう」
「…」
頷いたチサと、扉の中へ飛び込んだ。照明が落ちた真っ暗な廊下を、チサの背を追って奥へと走る。
油断は、していたと思う―
この世界に現れる幽鬼という存在が、あちらの世界のモンスター達に似ていることを、知っていたのに。
いつか、現れてもおかしくなかった。あちらの世界で倒した『魔王』、それに類似した存在が。わかっていて、考えないようにしていたのかもしれない。恐かったから。思い出すのが、動けなくなるのが―
秀に呼ばれたのは、日付が変わろうとする頃、深夜。理由ははっきりしていないらしいけれど、幽界の門が開くのは、基本、日が落ちてかららしい。真夜中の呼び出しも、決して珍しくはない。
12月に入ってから、恐ろしく下がった気温。こんな夜は、家のこたつでチサとのんびりゴロゴロしていたいと思うけれど、呼び出されてしまえばそんなことも言っていられない。チサと二人、秀が用意してくれた車で指定された場所へと向かった。
車を降りた所で、チサの様子がおかしいことに気づく。
「チサ?」
「…明莉、警告。何か変」
「え?」
目の前には大きな工場。以前とは違う綺麗な外装から、普通に稼働している工場のように見える。建物の上の方にしかついていない窓からは、僅かな光が漏れている。
「…うん、でも皆待ってるしね。とりあえず、入ってみよう?」
「…」
緊張した様子のチサの姿に、いつもよりも警戒レベルを上げて、建物の入り口へと進んだ。
入った先、真っ白な床に壁。工場というよりは、研究施設のようなそこには様々な機材がところ狭しと置かれている。気配を感知しているのであろうチサの先導に従って、縫うように歩く。辿り着いた扉には何やら最新の警備システムらしきもの。ただ、扉そのものが半壊して開きっぱなしになっているので、全く役には立っていない。
「幽鬼が既に出現しちゃったのかな?暴れた後?」
「…幽鬼らしき痕跡は見当たらない」
「そうなの?」
破壊された跡を見るに、かなりの力が加わったはず。こんなことが出来るのなら、それは五家の仕業なのだろうとは思うが、何だか仕事が粗っぽい気がする。
「…花守達は中に居る。門の気配も、戦闘の気配も無い。ただ、正体不明の気配が一つ」
「戦ってるわけじゃないのか。これから?」
呼び出しを受けてから、少なくない時間が過ぎている。幽鬼との戦闘が始まっていてもおかしくはないはずなのに。
「…確かに、なんか変だね。不安になってきた。急ごう」
「…」
頷いたチサと、扉の中へ飛び込んだ。照明が落ちた真っ暗な廊下を、チサの背を追って奥へと走る。
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