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第六章 元勇者とお姫様

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「秀が忙しくしてるって話はしただろ?あいつは今、花守の外、他家の人間と渡りをつけるために奔走してんだ」

そう言葉にする部長の眉間には、深いシワが刻まれている。

「自分達に『戦う力』が無いのなら、強みである自分の『見る力』を使うしかない。その力で他家の仕事に協力して、少しでも他家との繋がりをつくる。そんで、少しでも他家の協力を得られるようにする。それがアイツの考えだ」

「…それってやっぱり、私やチサの協力だけじゃ、足りないってことですか?」

個々の質は高いと自負しているけれど、量、という点でいくと私達は弱い。広い範囲を少人数でカバーするには、どうしても限界がある。

部長が苦笑した。

「それもあんだろうが、それだけじゃねぇよ。他家の力があれば、いざって時に守れんだろ?」

「?」

「…すげぇ、落ち込んでたぞ、秀のやつ。お前に『怪我させた』『守れなかった』ってな」

「…」

あれ、か。秀がそこまで本気で気にしていたとは思わなかった。気にしていたとしても、それが原因で秀が大変な思いをすることまで、思い至らなかった。

―私は、もっとちゃんと、秀と話をすべきだった

「大丈夫」ってへらへらその場を誤魔化すんじゃなくて―

「…花守は、後が無いんだよ」

「あと?」

「元々、他家との関係はそこまで悪かなかったんだ。今みたいに、花守の要請を他家が蔑ろにすることもなかったしな」

部長の声には怒りがにじんでいる。

「秀が、去年の夏に一度やらかしちまったんだよ。幽界の出現を誤感知して、問題になった」

「…誤感知?」

部長の、『去年の夏』というフレーズが僅かに引っ掛かった―

「ああ。秀が感知したはずの門を、実行部隊の人間が見つけられなかったんだ。秀自身も、途中で反応を見失ったらしいしな」

「…」

秀の感知能力は相当のものだと思う。その秀が感知でミスをするとは考えにくいのだけれど―

「ただまあ、誤感知自体はそれほど問題じゃないんだよ。そんなもん、他の家の人間だって多かれ少なかれやってんだ。それよりも、感知に失敗した場所が場所でな。それがまずかった。『三島緑地公園』って知ってんだろ?」

「!?」

思いがけず、馴染みのある場所が出てきたことに驚く。嫌な、予感もする。

「秀はそこで『門』を感知したんだが、そこがまた、かなりでかい公園で人気ひとけも多い。しかも感知したのが昼間ということで、公園を一時的に封鎖するしかなかった。そんで、少なくない数の部署が動くことになった」

「行政レベルで」と続いた部長の言葉が、五家の持つ力の大きさを示している。

「で、まあ結局、門は発見されず、最終的に、秀の感知ミス、花守の過誤だってことになっちまった」

部長の言葉がグルグルと頭の中をめぐる。去年の夏、三島緑地公園―

「あの、ちなみにそれって、秀が門を感知したのがいつか、正確な日付ってわかりますか?」

「日付?んなもん知ってどうすんだ?」

「いいから、教えてください」

余裕がない。部長に掴みかかる勢いで尋ねた。

「あー、ちょっと待て」

スマホを取りだし、スケジュールを確認しだした部長が、液晶に目を落としたまま答える。

「7月の22日、だな」

「…22」

告げられた日付は、忘れもしないあの日。私があちらの世界へと渡り、そしてこちらの世界に戻って来た、まさにその日だった―

先程の嫌な予感が、確信に近い想像へと膨らむ。秀が感知したのは、幽界への門ではなく、チサが世界を繋いだ魔方陣、だったのではないだろうか?私達が世界を渡ったせいで、秀は周りから責められるような目にあってしまった?

「おいおい、何でお前がそんな死にそうな顔になってんだよ。あー、けどまあ、やらかしたこと自体はそんな大した問題じゃねぇんだよ。逆にそれまで秀が失敗無しって方がすごいんだからな?」

知らず俯いてしまっていた頭をガシガシと撫でられた。

「問題は、そん時の秀の失敗を口実に他家が花守を追い落とそうと動き出したってことなんだよ」

部隊の言葉に、再び苦い響きがのる。

「力の無い花守に守役筆頭は任せられない。『見る力』さえまともに持たない花守は、その座を降りろってことだな」

「…それなら、これからの働き次第で、花守は盛り返せるってことですか?」

私やチサが、秀に、花守に協力すれば―

「まあ、単純に考えればそうなんだが、そう簡単な話でもない」

「?」

「ほら、来たぞ。負けんなよ?」

「??」

良くわからない激励に首を傾げながらも、背後、部長の視線の先を確かめるべく、振り返った。




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