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前編 学園編

4-4. Side A

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4-4.

―あいつら、一体、何様のつもりなの?

二人並んで去っていく背中を見送りながら、噴出しそうになる怒りを何とかやり過ごす。こんなところで醜態をさらすわけにはいかない。それでも、ここが人前じゃなかったら、思いっきり叫んでやりたいくらいだ。

―雑魚キャラの分際で!!

無様にやられた男に、わざわざ声をかけてやったというのに。

そもそも攻略キャラでもないあの男が、レベル上限を解放出来るとは思っていない。お金もコネもないような人間が簡単に満たせるほど、上限開放の条件は甘くない。今までパーティーを組んだことのあるモブキャラ達にだって無理だったのだから。

ただ、あの男、ブレンは今まで出会ったモブの中でもかなりいい動きをしていた。もちろん、「レベル24のわりには」だけど、腐ってもチュートリアルキャラってことなんだと思う。レベル30までまだ延びしろもあるし、強くなるだろうと思ってパーティーに誘ったのに、

―奴隷だなんて

しかも、ミア・ビンデバルドの―

横に立つカイを見る。

奴隷にすれば、上限開放後のMaxレベルが99になるカイ。レベル99は捨てがたいけれど、ネックなのは、カイを奴隷にすると他のキャラの好感度が九割近く下がってしまうということ。

カイ一途プレーなら、それでも問題ないけれど、パーティーメンバーの好感度が下がると、戦闘にまで影響してしまう。彼らの『かばう』や『身をていす』行動がなくなれば、痛い思いをするのは、他でもない私だ。

私とおなじ近接攻撃タイプのカイで一枠埋めてしまうのももったいないし、それなら、多少伸びは悪くても、ディーツの防御力とアルドの火力を優先する。

攻略対象者じゃないブレンなら、そういう好感度に関する厄介な部分がなくていいと思ったんだけど―

「…アイリーは、あの男を仲間にしたかったの?」

「アルド。うん、そうだね。彼が居てくれれば、二人が怪我したり、他に用がある時に助かるかなって思って」

「…必要無い、あんな男」

好感度が高すぎることで起きる弊害、独占欲のせいで、アルドがまた面倒なことを言い出した。

「もう、アルドったら。いつまでも人見知りしてたらダメだよ」

「違う。アイリーには僕がいる。パーティーには、僕とアイリーだけでいい。ディーツも要らない」

「もう、アルドったら!そんなイジワル言わないで、ね?」

アルドもディーツも、覚醒イベントを起こせるのはもう少し先。今はまだ、どちらも上手く繋ぎ止めておかなくちゃいけない。

「…アルド、いい加減にしろ」

「ディーツ?」

いつもなら静観するだけのディーツが、珍しく口を開いた。

「アイリーを困らせているということがわからないのか?お前の我が儘で、アイリーに負担をかけるべきではない」

「…ワガママじゃない。僕は、アイリーが好き」

「なっ!?」

「!」

―これは

アルドの突然の告白。しかもディーツの前で、ということは、発生タイミングがかなり早い気はするけれど、『三角関係イベント』が起きている?

「アイリーが好きだから、二人で居たいだけ」

「っ!だとしてもだ!お前の想いでアイリーを困らせるなと言っている!」

数値として確認できない『好感度』は、攻略対象者達のセリフや表情から判断することになる。入学前から、ディーツとアルドとは個別にデートイベントを重ねていたから、好感度がマックスまで上がっているのはわかっていたけれど。原作よりずっと早く、この段階で三角関係イベントが起きるなんて。

「ディーツには何も言われたくない」

「何だと!?」

「ディーツには『決められた相手』が居るって聞いた。なのに、僕とアイリーの間を邪魔するの?」

「!?それは!」

ディーツの『決められた相手』。確かに、ディーツルートには婚約破棄イベントがあった。ただ、相手の名前もスチルもなく、「婚約者とは別れた」というディーツの告白があるだけの、盛り上がりにかけるものだったから、あまりよく覚えていない。

「アイリー!誤解しないで欲しい!カトレア嬢、グライスナー家のご令嬢とそうした話があったのは事実だが」

必死な表情のディーツに両肩を掴まれる。

「それはあくまで家同士の話。話が出た時点で、直ぐにこちらから断りを入れている。カトレア嬢とは、何の関係もない!私が心から想う相手は、」

「うん!大丈夫、わかってるよ、ディーツ!」

肩を掴むディーツの手に掌を乗せて、笑う―

ようやくここまで来たのだ、かなり危ういバランスだけれど、上手く乗り越えてみせる。

あとは、ルートが開放されたらなるべく早く、二人の覚醒イベントを起こそう。万一の時は、ディーツかアルド、どちらか一人でもいけるように。

私は学園ここを主席で卒業する。

それが、『彼』のルートに入るための最善の方法。彼を仲間に出来れば、『タワー』の攻略も格段に楽になる。

だから、決めている。私は必ず、ここで一番になってみせると。




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