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epilogue
エピローグ
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(……うん、よし!忘れ物なし!)
学園を卒業しておよそひと月、ウィルバートに予告された通り、メリルは賢者の塔への就職が決まり、記念すべき勤務第一日目を迎えていた。
塔職員専用の寮を出て、大通りに出る。塔へ入るための門までは少し歩くが、朝早い時間の空気が心地よい。メリルと同じように賢者の塔へと向かう人たちの姿がチラホラと見えて来た。
その中に、メリルの知る銀の髪が見えないことに少しだけガッカリしながら、メリルは門の前へとたどり着く。
門の内に入るには、職員であることを示すカードが必要になる。門の前に立つ守衛にカードを見せるため、順に並んだ人たちの最後尾にメリルは並んだ。
不意に、肩を軽くたたかれた。
メリルが振り返ると、見覚えのない同い年くらいの青年がニコニコと笑顔を浮かべて立っている。
「おはよう!」
「お、はようございます?」
「君、新任の子だよね?僕は二年目のジェイって言うんだけど、君の名前は?」
そう人懐こく聞かれて、メリルは思わず「メリルです」と自身の名を答えていた。先輩に当たるのだとしたら、失礼があってはならない。そう考えて緊張するメリルに、ジェイと名乗った青年はウンウンと頷いて返した。
「いいねぇ、初々しくて!懐かしいなぁ……」
そう言って笑ったジェイは、列が動いたタイミングでメリルの隣に並んだ。一緒に歩くような形になったメリルが何かを言う前に、ジェイがエスコートするようにメリルの肩に触れる。
「新任の子たちがどこに集まるかは聞いてる?」
「あ、はい。第一会議室に集合だと……」
「そうそう。でも、第一ってでかい割に入口が分かりにくいところにあるんだよね。良かったら、僕が送って……」
言いかけたジェイが言葉を切り、メリルの後ろに視線を向けた。メリルが振り返るより早く、メリルの肩に置かれていたジェイの手が弾き飛ばされた。
(え……?)
驚いたメリルの肩に、彼女の良く知る手が乗せられた。
「……必要ありません。彼女は僕が送りますので」
「え?え?第七研のウィルバート君っ!?」
驚いたように手の持ち主、ウィルバートの名を呼んだジェイが目を見開いたまま、メリルとウィルバートを交互に見やる。
「き、君、ウィルバート君と知り合いなの?」
「あ、はい。学園の……」
先輩と後輩でした。そう言いかけたメリルの言葉を、ウィルバートが遮る。
「婚約者です」
「「えっ!?」」
メリルとジェイの声が重なった。驚いたメリルがウィルバートを見上げると、彼は無表情にジェイを見つめていた。ウィルバートが何かを言ったわけではない。けれど、顔色を真っ青にしたジェイは「し、失礼しました!」と叫ぶと、そのまま列から離れて行ってしまった。
それを見送ったウィルバートがメリルを見降ろし、悪戯気に「違うんですか?」と笑いながら尋ねる。
「ち、ちが……」
「違わないですよね?これから『ずっと』、一緒にいるんですから……」
「っ!」
ウィルバートの言葉と笑みに、メリルの顔に血が上る。
(言った。確かに言った、けど……!)
「責任、取って下さいね?僕はメリルの言霊に縛られてしまいましたから、これからずっと、メリルの側にいます」
そうシレッと悪びれもせずに言うウィルバートに、メリルは「嘘つき」という言葉を飲み込む。魔力に差のあるウィルバートがメリルの言霊に縛られるはずがない。
だけど、メリルは彼の嘘が嬉しかったから、「嘘つき」の代わりの言葉を口にした。
「ウィ、ウィル君の方こそ、責任とってね!私、ウィル君のこと『大好き』なんだから!」
(完)
学園を卒業しておよそひと月、ウィルバートに予告された通り、メリルは賢者の塔への就職が決まり、記念すべき勤務第一日目を迎えていた。
塔職員専用の寮を出て、大通りに出る。塔へ入るための門までは少し歩くが、朝早い時間の空気が心地よい。メリルと同じように賢者の塔へと向かう人たちの姿がチラホラと見えて来た。
その中に、メリルの知る銀の髪が見えないことに少しだけガッカリしながら、メリルは門の前へとたどり着く。
門の内に入るには、職員であることを示すカードが必要になる。門の前に立つ守衛にカードを見せるため、順に並んだ人たちの最後尾にメリルは並んだ。
不意に、肩を軽くたたかれた。
メリルが振り返ると、見覚えのない同い年くらいの青年がニコニコと笑顔を浮かべて立っている。
「おはよう!」
「お、はようございます?」
「君、新任の子だよね?僕は二年目のジェイって言うんだけど、君の名前は?」
そう人懐こく聞かれて、メリルは思わず「メリルです」と自身の名を答えていた。先輩に当たるのだとしたら、失礼があってはならない。そう考えて緊張するメリルに、ジェイと名乗った青年はウンウンと頷いて返した。
「いいねぇ、初々しくて!懐かしいなぁ……」
そう言って笑ったジェイは、列が動いたタイミングでメリルの隣に並んだ。一緒に歩くような形になったメリルが何かを言う前に、ジェイがエスコートするようにメリルの肩に触れる。
「新任の子たちがどこに集まるかは聞いてる?」
「あ、はい。第一会議室に集合だと……」
「そうそう。でも、第一ってでかい割に入口が分かりにくいところにあるんだよね。良かったら、僕が送って……」
言いかけたジェイが言葉を切り、メリルの後ろに視線を向けた。メリルが振り返るより早く、メリルの肩に置かれていたジェイの手が弾き飛ばされた。
(え……?)
驚いたメリルの肩に、彼女の良く知る手が乗せられた。
「……必要ありません。彼女は僕が送りますので」
「え?え?第七研のウィルバート君っ!?」
驚いたように手の持ち主、ウィルバートの名を呼んだジェイが目を見開いたまま、メリルとウィルバートを交互に見やる。
「き、君、ウィルバート君と知り合いなの?」
「あ、はい。学園の……」
先輩と後輩でした。そう言いかけたメリルの言葉を、ウィルバートが遮る。
「婚約者です」
「「えっ!?」」
メリルとジェイの声が重なった。驚いたメリルがウィルバートを見上げると、彼は無表情にジェイを見つめていた。ウィルバートが何かを言ったわけではない。けれど、顔色を真っ青にしたジェイは「し、失礼しました!」と叫ぶと、そのまま列から離れて行ってしまった。
それを見送ったウィルバートがメリルを見降ろし、悪戯気に「違うんですか?」と笑いながら尋ねる。
「ち、ちが……」
「違わないですよね?これから『ずっと』、一緒にいるんですから……」
「っ!」
ウィルバートの言葉と笑みに、メリルの顔に血が上る。
(言った。確かに言った、けど……!)
「責任、取って下さいね?僕はメリルの言霊に縛られてしまいましたから、これからずっと、メリルの側にいます」
そうシレッと悪びれもせずに言うウィルバートに、メリルは「嘘つき」という言葉を飲み込む。魔力に差のあるウィルバートがメリルの言霊に縛られるはずがない。
だけど、メリルは彼の嘘が嬉しかったから、「嘘つき」の代わりの言葉を口にした。
「ウィ、ウィル君の方こそ、責任とってね!私、ウィル君のこと『大好き』なんだから!」
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