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稲穂ゆれる空の向こうに
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「うわー頂上からの眺めはこんなにすごいんだな」
そこから見下ろす下界は、まるで小さなジオラマに見えた。
遠足の時はたどり着くことができなかった、どんぐり山の山頂。
蒼音はとうとう願いを果たすことができた。
山頂に立つことを叶えられた。
「椎の御神木さまー
僕達またやって来ました!
あの時は僕達を助けてくれてありがとうございました!
あれから僕達いろんなことがあったけど、元気にやってまーす」
三角点の前に立ち、大きな声をあげて、蒼音は以前助けてもらった御神木にお礼を言った。
御神木からの返事はもう聞こえなかったが、自分の声はきっと届いている、そう確固たる自信があった。
「さすがに、もう一度御神木に会いにあそこまで行くのは大変だけど、きっとあたし達が入山していることは、もうわかってらっしゃるわよね。
でも・・・
面白いね。さっきまではあの地上にいたのに、上からみると、人間の生活ってちっぽけなのね」
すっかり足の完治した琴音は、人一倍張り切ってこの山を目指した。
「あ、あれほら、向こうに線路が続いてるぞ。
あの線路をたどって、俺たち旅をしたんだよな。
ちょっとした冒険みたいだったな」
涼介はドキドキハラハラだった夏休みを懐かしみ、思い出を反芻していた。
「本当にあの旅は楽しかったね。
あ、そうだ。
この前、時バアが言ってたよ。
また来年も待ってるよって。
今度は近くの温泉に連れて行ってあげるって。
だから、みんなが元気に遊びに来るのを楽しみに待ってるよって」
「あーあたし、来年の夏休みが待ち遠しいなー
茜音ちゃんと過ごした今年の夏は・・・
一生の思い出だもん」
「そうだよな、茜音のふる里は俺たちにとっても特別な場所だよな。
俺も、今すぐ行きたいなー」
「大丈夫だよ。
心の古里はなくなったりしないよ。
茜音―待っててよー
来年また行くからねー
それから、僕が描いた夏休みの絵日記物語、学校の作品賞に入賞したんだよー
茜音のおかげだよー!」
蒼音は頂上から地平の彼方に向かって叫んだ。
(・・・茜音、君はあの夕焼け空の彼方にいるんだろう?
たとえ、僕らが、いつかどこかで生まれ変わったとしても・・・
想い出は永遠に色あせないよね。
僕・・・
そう信じているよ)
茜音の姿が写ったあの家族写真に、もう茜音の姿は視えなかった。
その変わり・・・
茜音と過ごしたひと夏の思い出を、丹念に絵日記にしたため、蒼音は学校で表彰された。
『僕の妹』と題した、絵を主体とした詩集でもあった。
《もし僕の妹が生きていたら、僕と妹はこんな風に夏休みを楽しむだろう》
と、いくつかの詩が添えられ、物語風に仕立てられた絵日記は、クラスメイトの心に何かしらよい影響を与えた。
もっともそれは、半分創作も交えたフィクションとして受け入れられ、読み物としての評価も得たのだ。
みんなに絵と文を認められ、蒼音は着実に、日々の生活に自信を持ち始めていた。
ひとしきり眺めを堪能すると、三人は頂上でお楽しみのお弁当を広げた。
「あ~お腹すいた。
お母さんのおむすびは、空きっ腹に沁みるんだよな」
蒼音はあんぐり口を開けかぶりついた。
「ねえ・・・
ところで、あの桜井さん、管沼君、二人にちょっと相談なんだけどさ・・・・」
蒼音はおむすびを飲み込むと急に表情を変え、遠慮がちに二人に話しかけた。
「うん?園田君なあに?」
「なんだよあらたまって」
お弁当を頬張りながら、二人は不思議そうな顔で蒼音を見つめた。
「あのさ・・・
その・・・・
僕も・・・・
やってみようかな、って」
「何を?」
「なんだよはっきりしろよ」
「だから・・・
僕も・・・
僕も剣道はじめてみようかな。
って言ったの!」
「えー?
嘘ー!ううん、大歓迎よ。
ね、涼介」
「うん!
その言葉待ってたんだぞ俺。
一緒に汗流そうぜ!」
二人が賛成してくれて、蒼音はようやく安心することができた。
「よかった・・・
二人に反対されたらどうしようって、かなり迷ってたんだ。
僕は武道には向いてないような気がして・・・」
「そんなことないわよ。
五十嵐先生もきっと喜ぶわよ」
「え?五十嵐先生も団員なの?」
「先生は指導者だよ。
先生はああみえても、六段の有段者なんだぜ。
俺たち剣道少年団の名コーチなんだぜ。
あーでも、いよいよ園田君が入団するのか。
これからも一緒に張り合えるなんて楽しみだなー」
「菅沼君、お願いだから、お手柔に教えてね。
僕気が弱いから」
「へーん、気が弱いってこともないだろう?
結構、負けん気強いよな。
な?琴音」
「そうね・・・
園田君ってあの絵日記が入賞したことで文学少年のイメージが定着したけど、案外、涼介より強くなったりしてね」
「フフン、それは無理だろうね。
俺は絶対、園田君には負けないよ」
「ぼ、僕だって、絶対強くなってやる!
管沼君の高い鼻をへし折ってやるさ」
「あ、やっぱり負けず嫌いだな園田君。
どうしてそんなに俺と張り合うのかな~?」
「本当ね。血の気が多かったのね園田君て。
意外な一面よね」
「あ、違う、違うんだよ桜井さん!
僕はそういうタイプじゃないから。
本当に違うから!」
大人にはまだまだ程遠い、無邪気で明るい子供たちの声が空高く響き渡る。
ごくありふれた、けれども珠玉のように尊い日常。
どんな未来が待ち受け、どんな大人に成長するのか・・・
それは誰にも予想できない。
慰めと癒しを求めた時、いつも心に思い描く景色があれば頑張れる。
ふとした時・・・
いつも心に想い描く。
夕焼けに照らされ、金色の稲穂に埋め尽くされた大切な原風景と、そして・・・
遥か彼方にいる、大切な人との想い出を。
[終わり]
そこから見下ろす下界は、まるで小さなジオラマに見えた。
遠足の時はたどり着くことができなかった、どんぐり山の山頂。
蒼音はとうとう願いを果たすことができた。
山頂に立つことを叶えられた。
「椎の御神木さまー
僕達またやって来ました!
あの時は僕達を助けてくれてありがとうございました!
あれから僕達いろんなことがあったけど、元気にやってまーす」
三角点の前に立ち、大きな声をあげて、蒼音は以前助けてもらった御神木にお礼を言った。
御神木からの返事はもう聞こえなかったが、自分の声はきっと届いている、そう確固たる自信があった。
「さすがに、もう一度御神木に会いにあそこまで行くのは大変だけど、きっとあたし達が入山していることは、もうわかってらっしゃるわよね。
でも・・・
面白いね。さっきまではあの地上にいたのに、上からみると、人間の生活ってちっぽけなのね」
すっかり足の完治した琴音は、人一倍張り切ってこの山を目指した。
「あ、あれほら、向こうに線路が続いてるぞ。
あの線路をたどって、俺たち旅をしたんだよな。
ちょっとした冒険みたいだったな」
涼介はドキドキハラハラだった夏休みを懐かしみ、思い出を反芻していた。
「本当にあの旅は楽しかったね。
あ、そうだ。
この前、時バアが言ってたよ。
また来年も待ってるよって。
今度は近くの温泉に連れて行ってあげるって。
だから、みんなが元気に遊びに来るのを楽しみに待ってるよって」
「あーあたし、来年の夏休みが待ち遠しいなー
茜音ちゃんと過ごした今年の夏は・・・
一生の思い出だもん」
「そうだよな、茜音のふる里は俺たちにとっても特別な場所だよな。
俺も、今すぐ行きたいなー」
「大丈夫だよ。
心の古里はなくなったりしないよ。
茜音―待っててよー
来年また行くからねー
それから、僕が描いた夏休みの絵日記物語、学校の作品賞に入賞したんだよー
茜音のおかげだよー!」
蒼音は頂上から地平の彼方に向かって叫んだ。
(・・・茜音、君はあの夕焼け空の彼方にいるんだろう?
たとえ、僕らが、いつかどこかで生まれ変わったとしても・・・
想い出は永遠に色あせないよね。
僕・・・
そう信じているよ)
茜音の姿が写ったあの家族写真に、もう茜音の姿は視えなかった。
その変わり・・・
茜音と過ごしたひと夏の思い出を、丹念に絵日記にしたため、蒼音は学校で表彰された。
『僕の妹』と題した、絵を主体とした詩集でもあった。
《もし僕の妹が生きていたら、僕と妹はこんな風に夏休みを楽しむだろう》
と、いくつかの詩が添えられ、物語風に仕立てられた絵日記は、クラスメイトの心に何かしらよい影響を与えた。
もっともそれは、半分創作も交えたフィクションとして受け入れられ、読み物としての評価も得たのだ。
みんなに絵と文を認められ、蒼音は着実に、日々の生活に自信を持ち始めていた。
ひとしきり眺めを堪能すると、三人は頂上でお楽しみのお弁当を広げた。
「あ~お腹すいた。
お母さんのおむすびは、空きっ腹に沁みるんだよな」
蒼音はあんぐり口を開けかぶりついた。
「ねえ・・・
ところで、あの桜井さん、管沼君、二人にちょっと相談なんだけどさ・・・・」
蒼音はおむすびを飲み込むと急に表情を変え、遠慮がちに二人に話しかけた。
「うん?園田君なあに?」
「なんだよあらたまって」
お弁当を頬張りながら、二人は不思議そうな顔で蒼音を見つめた。
「あのさ・・・
その・・・・
僕も・・・・
やってみようかな、って」
「何を?」
「なんだよはっきりしろよ」
「だから・・・
僕も・・・
僕も剣道はじめてみようかな。
って言ったの!」
「えー?
嘘ー!ううん、大歓迎よ。
ね、涼介」
「うん!
その言葉待ってたんだぞ俺。
一緒に汗流そうぜ!」
二人が賛成してくれて、蒼音はようやく安心することができた。
「よかった・・・
二人に反対されたらどうしようって、かなり迷ってたんだ。
僕は武道には向いてないような気がして・・・」
「そんなことないわよ。
五十嵐先生もきっと喜ぶわよ」
「え?五十嵐先生も団員なの?」
「先生は指導者だよ。
先生はああみえても、六段の有段者なんだぜ。
俺たち剣道少年団の名コーチなんだぜ。
あーでも、いよいよ園田君が入団するのか。
これからも一緒に張り合えるなんて楽しみだなー」
「菅沼君、お願いだから、お手柔に教えてね。
僕気が弱いから」
「へーん、気が弱いってこともないだろう?
結構、負けん気強いよな。
な?琴音」
「そうね・・・
園田君ってあの絵日記が入賞したことで文学少年のイメージが定着したけど、案外、涼介より強くなったりしてね」
「フフン、それは無理だろうね。
俺は絶対、園田君には負けないよ」
「ぼ、僕だって、絶対強くなってやる!
管沼君の高い鼻をへし折ってやるさ」
「あ、やっぱり負けず嫌いだな園田君。
どうしてそんなに俺と張り合うのかな~?」
「本当ね。血の気が多かったのね園田君て。
意外な一面よね」
「あ、違う、違うんだよ桜井さん!
僕はそういうタイプじゃないから。
本当に違うから!」
大人にはまだまだ程遠い、無邪気で明るい子供たちの声が空高く響き渡る。
ごくありふれた、けれども珠玉のように尊い日常。
どんな未来が待ち受け、どんな大人に成長するのか・・・
それは誰にも予想できない。
慰めと癒しを求めた時、いつも心に思い描く景色があれば頑張れる。
ふとした時・・・
いつも心に想い描く。
夕焼けに照らされ、金色の稲穂に埋め尽くされた大切な原風景と、そして・・・
遥か彼方にいる、大切な人との想い出を。
[終わり]
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