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1.お前との婚約は解消する、と言え

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「『お前との婚約は解消する、二度と顔を見せるな!』――――さあ、言ってみろ」
「な、なにを……」
「巷で流行っているという台詞だ。まあ、言ったところで、もう遅いがな」

 愉悦の笑みを浮かべて残酷な宣告をする男を見つめ、『酉』の一族の姫サキは唇を噛み締めた。

 そんな事を言ったが最後、どんな目に遭わされるかもう既に想像できてしまう。こみあげる感情を堪え、身体の震えを何とか抑えようとした。
 婚前ではあったが、彼の甘い言葉に夢中になって、すでに一線を越えてしまっていた。何事にも抜かりない男であったから、もうすでに子を孕んでいる可能性だってある。

 今更、結婚を止めるなど言えるはずがない。

 色々と葛藤する自分とは対照的に、婚約者の男は愉悦の笑みを浮かべていた。

 この男は本当に『詐欺』みたいな男だと思った。清廉実直で、勇ある者として人々から認知されつつあったが、サキは彼の本性を知ってしまった数少ない者の一人だ。

 だから、間違いない。
 今、この男は婚約の解消という言葉をちらつかせて、絶対に自分で遊んでいる。

 なんて性格の悪い男だろう。
 なんて腹の黒い男だろう。
 ますます、公にできるはずがない。

 能ある鷹は爪を隠すという言葉があるが、今の状況にぴったりのように思える。

 ならば、こんな者は『秘め隠す』べきだ。

 そんな思いを胸に刻む。そもそも、最初はまだまともだった――――。
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