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幼馴染みのやきもち

幼馴染みからのお願い。

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「おはよー」



いつも通り,1番最初に声をかけてくれる由里子。

同じ様に返すと,由里子はあくびをしてから言った。



「昨日どうだった? 体育委員。直ぐ終わった?」

「うん。割と。そうだ,大和くんと一緒だったよ!」

「知ってる。あんまり喋らない人でしょ。大丈夫かなって思ってたんだ」

「映画行くことになったよ!」



報告すると,由里子の喉から変な音が聞こえる。

見開いて私を見つめると,今度は呆れたようにため息をついた。



「ちなみに,いつ?」

「今週の日曜日!」



頬杖をついていた右手が,くしゃりと倒されている。



「なんでよ……。まぁ,気をつけて行ってらっしゃい」



由里子がお母さんみたいなことをいった。


「はーい」


私はおかしくなって,娘みたいな返事をする。



「映画?」



突如,割って入ってきた声に,私達は揃って振り向いた。



「小中」「名雪くん!」

「ごめん,聞こえてきたから」

「そうよ,聞こえたまんま。"大和くん"と映画に行くんですって」



由里子が返すと,名雪くんの表情が崩れる。

悩むように百面相をして,それから重たく慎重に口を開いた。



「ちょっと,来てくれる? 結城ちゃん」

「え,う,うん」



廊下に出た名雪くんに促され,私はその後を追う。



「あーあ」



振り向くと,由里子がひらひらと手を振っていた。



「どうしたの?」



名雪くん。

そう呼ぼうとした辺りで名雪くんは左に曲がった。

階段?

くるりと振り返った名雪くんは,私の瞳から目を離さずに。



「結城ちゃん,大和の事が好きなの?」

「えっ」



好き? って。

付き合うとか付き合わないとか,そういう好きっていうこと……?



「どうなの」



ずいっと顔が近づく。

怒っているような,焦って困っているような。



「どうして? 違うよ!! だって友達だもん!」



そんな名雪くんとの間に両手を挟んで,私は勢いよく首をふった。

名雪くん,どうして急にそんなこと。

目の前で名雪くんの雰囲気が和らぐ。



「っあ。ごめんね。びっくりしたよね」



そしてあまりの近さにはっとすると顔をそらしながら私から離れた。



「でも……結城ちゃんは,好きでもないやつと映画に行くの? 分かってる? デートだと思われるんだよ」

「で,でも。見られたり聞かれたりしても,説明すれば」

「大和も含めて,だよ?」

「えっ」



遊びに行くだけなのに。

だって友達だよ?

普通だよね?



「大和くんは,話したのだって昨日が初めてで」


だから,そんなはずないし。

2人で出掛けるのが,そんなに,だめなこと?

せっかく約束,したのに……

そんな風にいわれると悲しい。


「うわーーーぁ」

「な,ゆきくん?」



ぱちぱちと瞬く。

困ったまま固まる私の前で,名雪くんは突然頭を抱えてしゃがみこんだ。



「ごめん。最初からこう言えばよかった。……結城ちゃん」

「は,い?」

「いかないで。やめなよ,あいつとデートなんて」



どうしよう。

でも。



「うん……わかっ,た。……?」



私は思わず,頷いてしまった。

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