上 下
4 / 7
幼馴染みとの距離。

新しい出逢い。

しおりを挟む
第一学習室……って,ここだよね?

普段は使わないから,ちょっと不安になっちゃう。



「失礼しまー」



あ,良かった。

まだ全員は集まってないみたい。



「結城さん,2組,ここ」



教室内を見渡す私に,誰かがであげて私を呼ぶ。

2組ってことは,私たちの教室だ。

私を呼んでいたのは,短髪で背の高い男の子。

確か



大和やまとくん。体育委員だったんだね」



井上大和くん。

あんまり大声で話しているイメージはないけれど,静かに色んな人と楽しそうにしていた気がする。



「うん。じゃんけんで勝ったから」

「わざわざ? 大和くんはどうして体育委員を選んだの?」



皆仕事の多い委員会より,教科係になりたがるのに……

話しながら,私は示された隣の席に座った。

まだ予定時刻まで5分ある。

折角なら,仲良くなりたいと思った。



「中学でもそうだったし,係より委員会のが内申点上がるって聞いたから。高校だと実は殆んど係が働くし,体育委員は今回の球技大会さえ働けばもう何もないんだって」

「そっか。私はたのしそー! ってそれだけで入っちゃったから」



えへへと笑う。

他の皆も,大和くんみたいに色々考えてたのかな。



「……俺は,そっちのがいいと思うけど。打算的に嫌々参加するより,どうせなら楽しんだ方がいい」

「そうかな」

「うん」



優しいな。

多分初めて話したのに,こんな風に言ってくれるんだ。

私は嬉しくなって,もっと何か無いかと話題を探す。



「あっねぇ見て! うちの子,可愛いでしょーっ。大和くんは何か飼ってたりする?」



お昼に名雪くんと話したのを思い出して,私はスマホの画面を大和くんに向けた。

興味ないかな,どうかな。



「俺は飼ってないけど……何だっけ,それ。見たことある……パグ?」

「そう! 犬飼 真琴くん!」

「犬……? 貰い犬なの?」

「ううん! 私が付けたの!」



ちょっとおバカで大切な思い出。

そこが真琴くんのかわいいところ。

名前付けていいよって言われて,うっかり名字まで考えちゃったんだよね……

しかも自分が飼い犬なのに,犬飼って。



「どっかの映画監督みたいな名前だね」

「うん,そうかも! 大和くんは今年の映画見た?」

「まだ」

「そうなんだ,私も……」



ガラッと,前の扉が開く。

担当の先生が来たのだと,私はスマホをぱっと鞄の中に入れた。

始まったら流石にね。

片付けないと怒られる……



「はい,んじゃーきりーつ,礼! 出欠ー1の1~」

「はい」

「1の2~」

「はい!」

「1の……」



出欠が確認できると,今度は自己紹介。

3年生の委員長の話や先生からの説明も聞いて,その後は各学年のリーダー決めだった。



「私,やります」



じゃんけんかな,とふんわり空気で伝わり始めた時。

1組の堀内真香ほりうち まなかさんが立候補してくれて,私は内心ほっとした。

そんな私に気付いて,隣に立つ大和くんが私へと言う。



「リーダー,やりたいのかと思った」



そんな風に思われてたなんて!

私はびっくりして,慌てて違うよと首をふった。



「まさか! わいわいしたり,手伝ったりするのは好きだけど……頭使ったり,皆をひっぱったりするのはちょっと……」



そもそも,私には出来ないかなぁ。



「そっか。俺も」



両手を必死に振ると,大和くんが小さく笑う。



「でっでも,リーダーじゃなくてもちゃんと頑張りたいとは,思ってるよ」

「うん,よろしく,結城さん」



そっか,私だけじゃなくて……

大和くんと二人で,体育委員なんだ。

楽しくなればいいなぁ。

そんな風に,思う。



「はーい今日はこんなもんで。席にもどれー。きりっつ気をつけ,解散~」



思ったより早く帰れそうで良かった。

でもこれからはまた呼び出されるかもしれないから,お昼休みとか放課後は気を付けなくちゃ。



「じゃあ,またね,大和くん」

「うん。……ねえ」

「?」



うんって返ってきたから,てっきりもうばいばいかと思ったのに。

大和くんは続けて,私を引き留めた。

捻った足首を元に戻して,大和くんの言葉を待つ。



「さっき言ってた映画。来月までだよね。良かったら一緒に行かない? あ,後からテレビでみる予定だったら別に」

「行く!!」



もうすぐ終わるなんて初耳だ。

本当はずっと見たかったのに,両親は忙しいって言うし。



「映画館,1人で行ったこと無くてどうしようかと思ってたんだよね。大和くんが一緒なら,安心」



映画館のあるところまで,1人で電車に乗ったこともない。

高校に上がったら,色んな所に行こうと思ってたのに。

実際にはまだどこにも行けていなかった。



「いつ空いてる?」

「いつでも!」

「今週でも?」

「うん,大丈夫だと思う。またLI⚪Eするね。私はグループから入れてたと思うから,大和くんも追加してくれるといいな」

「ん」



結構話せて,仲良くなれたとは思ってたけど。

まさか委員会に出席しただけで友達が増えるなんて思ってもなかった。

とんとん拍子に日にちまで決まって,私はもう一度大和くんを見る。



「じゃあ,ばいばい。電車一個逃すと,お母さんに怒られちゃうんだ」



つい笑ってしまいながら伝えて,私は廊下へと飛び出した。

映画か~。

久しぶりだなあ。

反芻すればするほど,楽しくなる。

しかも男子と二人で遊ぶなんて,いつぶりだろう。

帰ったらお母さんに行ってもいいか聞かなくちゃ。

そう思えば,1人での帰り道も悪くない。

寧ろ早く帰らなきゃって気分になって。

急いで駅に向かう私は,もう既に映画を見に行く気満々でいた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ
恋愛
「──お前のこと、本当はずっと嫌いだったよ」 「……ジャスパー?」 「いっつもいっつも。金魚の糞みたいにおれの後をついてきてさ。鬱陶しいったらなかった。お前が公爵令嬢じゃなかったら、おれが嫡男だったら、絶対に相手になんかしなかった」  マリーの目が絶望に見開かれる。ジャスパーとは小さな頃からの付き合いだったが、いつだってジャスパーは優しかった。なのに。 「楽な暮らしができるから、仕方なく優しくしてやってただけなのに。余計なことしやがって。おれの不貞行為をお前が親に言い付けでもしたら、どうなるか。ったく」  続けて吐かれた科白に、マリーは愕然とした。 「こうなった以上、殺すしかないじゃないか。面倒かけさせやがって」  

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

処理中です...