失せ物捜しSS集

七海みなも

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32.混乱、焦り、備え

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 焦っている。昔馴染みの悪友から、
「アンタの顔と心臓はセメントで出来てンのかイ?」
 と揶揄される程度には感情の乱れない自分だが、今は大いに慌てている。
 ちらと横目で見た時計は午後四時を指している。つう——と、米神を汗がなぞる。
 あと一時間もすれば、喧しくも可愛い暴れん坊な弟子どもが帰って来てしまう。
 手元で完成を待つタンドリーチキンは兎も角、未だオープンの中にあるケーキは間に合わないかもしれない。
「今年の誕生日は師匠のケーキが食べたい!」
 朝、手作りの三段ケーキでなければ嫌だと駄々を捏ねたアヤのお怒り顔が頭を過ぎる。
 彼はわくわく顔を引っ提げて帰って来るだろう。呆れ顔の悠真がその後に続き、環はによによ笑いながら、悠真の隣を歩いて来る筈だ。
「……やるか」
 肩を落とす弟子どもの姿など見たくはない。最悪、游姶堂の大福で時間を稼ぐか——。
 駄目な大人の回避策を練りながら、俺はオーブンの残り時間を睨んだ。


アヤの誕生日SSでした
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