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(62)侵入者と撃退者
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「わらわ達はこの後非常に重要な用事があるのでな。ホレ、あっちから出て行くと良いじゃろ。じゃが、更に侵攻するのであれば次は容赦せんぞ?」
モラルの言葉と共に新たな道が出来、そこから出て行けと告げると……我先にと出口に殺到するのだが、一部の強者はさりげなく小さな宝を持ち帰ろうとしており、呆れつつもクロックが大声で牽制する。
「その宝に手を付けた者は、この場所に居たい者だと判断する。それでも良ければ手にすると良いだろう」
宝を持ち帰ろうとすればこの場所に幽閉されると言われているので、助かる可能性を失う事を恐れた人々は<勇者>グレイブ一行を含めて何も持たずに消えて行く。
当然侵攻するのではなく地上に向けて移動しており、ダンジョンから脱出できると、グレイブ一行やネルハリは焦燥や恐怖と言う感情よりも屈辱による怒りの感情に襲われる。
「私にこれほどの事をして、無事でいられるとは思わない事ですね。<魔王>モラル!そうでしょう?」
ネルハリは未だに懐刀である最強騎士のネルエ、そして汚れや破損を厭わなければ旗を利用して戦力を上げる術が残っているので、粘着質な性格から表面上は復讐を誓っているのだが、実は内心では戦闘せずに王位を手に入れる事を考えている一方、グレイブ達は真の怒りを露わにする。
「クソが!<勇者>であるこのグレイブ様が……あってはならない事だ!」
「まさかあそこまで強いとは……恐らくダンジョンで待ち構えている間に迎撃用の罠を多数仕掛けていたに違いありません。今回はその罠の一部によって不可視の攻撃を受けたのです!」
「次は、負けない」
「だけどよ?正直これじゃあ今迄通りに動く事は出来ねーぞ?」
<聖盾>ルナの一言で、自らの手が欠損している事を認識させられたグレイブ達。
それぞれの装備、武器を持っている手を揃って切り落とされているので、利き腕がない状態でトボトボ歩いている。
そこで漸く癒しの力に対して意識が向き、同行しているルビーに詰め寄る。
「今こそお前の癒しの力を見せる時だ!治せるだろう?あの時に何も役に立たなかったのだから、せめてその力の有用性を証明してもらおうか!」
「そ、そうですよ。僕は癒しの魔法は得意ではありませんから、しっかりと治していただきましょう」
グレイブとホルドが必死の形相で詰め寄り、その様子を期待に満ち溢れた目で見ているミアとルナだが、その期待はあえなく打ち砕かれる。
「申し訳ありませんが、欠損を治せるほどの力は持ち合わせておりません。部位があれば別ですが、なければ対処のしようがありません」
回復に関する話の流れで辿り着く先は第一回目のダンジョン侵攻時に<勇者>パーティーと同行した<聖女見習い>のイリヤの話であり、クロックの失言によってイリヤの立ち位置は良く分からないが、間違いなく魔王の手元で生存している事だけは理解していた。
イリヤの生存について神父ホリアスが知っているのかは不明なのだが、グレイブ達にとってみればユガル王国の王女であり<聖女>でもあるスサリナと同等に全く使えない存在と言う認識である事から、神父に対して生存を伝える事もしなければ、助けるために動く事もしない。
同時刻……ダンジョン下層ではモラルを始めとした一行の最重要行事であるおやつの時間が終了し、幸せそうに食べ終わった後の“まったり”タイムに突入していた。
「大丈夫とは思っていましたが、やはり無事に帰ってきて頂けると安心しますね」
「む、イリヤに心配をかけてしまったのは申し訳ないが、全く問題ないぞ?逆に弱すぎて致命傷を与えないように気を遣うのが疲れる程じゃ。のう?クロック」
「そうです、イリヤ殿。それに俺達は絶対に二度と油断するような事はしないので、安心して頂きたい!」
クロックの言葉を聞いて安心した表情になっているイリヤを見て、この一連の会話からイリヤがダンジョンのサブマスターとしての力を使って今回の出撃の情報を得ていなかったと判断し、バケットが口を開く。
「油断しねーのは当然だけどよ?イリヤ嬢は見ていなかったかもしれねーけど、コイツはイリヤ嬢が生存している事をばらしちまったぜ?」
「!?そ、そうだった。本当に申し訳ない、イリヤ殿!何卒お許しいただきたく!!」
戦闘に関する情報を得たくないと思っている事もあるのだが、魔王達への信頼の証として今回の状況を敢えて把握していなかったイリヤ。
「そうですか。神父様や教会に影響はありそうでしょうか?」
「いや、それはないと思うのじゃ。仮にあったとしてもルビー達がおるので、全く問題ないぞ?」
特段イリヤが怒る事も無かったので相変わらず優しい人物だと思いつつ、しっかりと安全である事を明確にして安心してもらおうとする<魔王>モラル。
「フフ、ありがとうございます。そうでしたね。あの場所は何があっても安全でした。では、こうなった以上は私もコソコソせずに堂々とお仕事をしても良いのかもしれませんね。良いきっかけとも考えられるので、クロック様もお気になさらずに」
「そうね、寧ろその方が良いかもしれないわ、イリヤさん。そうすれば教会以外の地上でも好きに活動できる事になるわ!」
「ふ、ふふふふ、このクロック。実はここまで読んで敢えてあのような失言を行ったのだ。と言う事で、発言権の剥奪は無し!と言う事で良いのでは…」
「「「ダメ(じゃ)」」」
グレイブ達とは真逆で、楽しく幸せな時間が流れている魔王サイドの面々だ。
モラルの言葉と共に新たな道が出来、そこから出て行けと告げると……我先にと出口に殺到するのだが、一部の強者はさりげなく小さな宝を持ち帰ろうとしており、呆れつつもクロックが大声で牽制する。
「その宝に手を付けた者は、この場所に居たい者だと判断する。それでも良ければ手にすると良いだろう」
宝を持ち帰ろうとすればこの場所に幽閉されると言われているので、助かる可能性を失う事を恐れた人々は<勇者>グレイブ一行を含めて何も持たずに消えて行く。
当然侵攻するのではなく地上に向けて移動しており、ダンジョンから脱出できると、グレイブ一行やネルハリは焦燥や恐怖と言う感情よりも屈辱による怒りの感情に襲われる。
「私にこれほどの事をして、無事でいられるとは思わない事ですね。<魔王>モラル!そうでしょう?」
ネルハリは未だに懐刀である最強騎士のネルエ、そして汚れや破損を厭わなければ旗を利用して戦力を上げる術が残っているので、粘着質な性格から表面上は復讐を誓っているのだが、実は内心では戦闘せずに王位を手に入れる事を考えている一方、グレイブ達は真の怒りを露わにする。
「クソが!<勇者>であるこのグレイブ様が……あってはならない事だ!」
「まさかあそこまで強いとは……恐らくダンジョンで待ち構えている間に迎撃用の罠を多数仕掛けていたに違いありません。今回はその罠の一部によって不可視の攻撃を受けたのです!」
「次は、負けない」
「だけどよ?正直これじゃあ今迄通りに動く事は出来ねーぞ?」
<聖盾>ルナの一言で、自らの手が欠損している事を認識させられたグレイブ達。
それぞれの装備、武器を持っている手を揃って切り落とされているので、利き腕がない状態でトボトボ歩いている。
そこで漸く癒しの力に対して意識が向き、同行しているルビーに詰め寄る。
「今こそお前の癒しの力を見せる時だ!治せるだろう?あの時に何も役に立たなかったのだから、せめてその力の有用性を証明してもらおうか!」
「そ、そうですよ。僕は癒しの魔法は得意ではありませんから、しっかりと治していただきましょう」
グレイブとホルドが必死の形相で詰め寄り、その様子を期待に満ち溢れた目で見ているミアとルナだが、その期待はあえなく打ち砕かれる。
「申し訳ありませんが、欠損を治せるほどの力は持ち合わせておりません。部位があれば別ですが、なければ対処のしようがありません」
回復に関する話の流れで辿り着く先は第一回目のダンジョン侵攻時に<勇者>パーティーと同行した<聖女見習い>のイリヤの話であり、クロックの失言によってイリヤの立ち位置は良く分からないが、間違いなく魔王の手元で生存している事だけは理解していた。
イリヤの生存について神父ホリアスが知っているのかは不明なのだが、グレイブ達にとってみればユガル王国の王女であり<聖女>でもあるスサリナと同等に全く使えない存在と言う認識である事から、神父に対して生存を伝える事もしなければ、助けるために動く事もしない。
同時刻……ダンジョン下層ではモラルを始めとした一行の最重要行事であるおやつの時間が終了し、幸せそうに食べ終わった後の“まったり”タイムに突入していた。
「大丈夫とは思っていましたが、やはり無事に帰ってきて頂けると安心しますね」
「む、イリヤに心配をかけてしまったのは申し訳ないが、全く問題ないぞ?逆に弱すぎて致命傷を与えないように気を遣うのが疲れる程じゃ。のう?クロック」
「そうです、イリヤ殿。それに俺達は絶対に二度と油断するような事はしないので、安心して頂きたい!」
クロックの言葉を聞いて安心した表情になっているイリヤを見て、この一連の会話からイリヤがダンジョンのサブマスターとしての力を使って今回の出撃の情報を得ていなかったと判断し、バケットが口を開く。
「油断しねーのは当然だけどよ?イリヤ嬢は見ていなかったかもしれねーけど、コイツはイリヤ嬢が生存している事をばらしちまったぜ?」
「!?そ、そうだった。本当に申し訳ない、イリヤ殿!何卒お許しいただきたく!!」
戦闘に関する情報を得たくないと思っている事もあるのだが、魔王達への信頼の証として今回の状況を敢えて把握していなかったイリヤ。
「そうですか。神父様や教会に影響はありそうでしょうか?」
「いや、それはないと思うのじゃ。仮にあったとしてもルビー達がおるので、全く問題ないぞ?」
特段イリヤが怒る事も無かったので相変わらず優しい人物だと思いつつ、しっかりと安全である事を明確にして安心してもらおうとする<魔王>モラル。
「フフ、ありがとうございます。そうでしたね。あの場所は何があっても安全でした。では、こうなった以上は私もコソコソせずに堂々とお仕事をしても良いのかもしれませんね。良いきっかけとも考えられるので、クロック様もお気になさらずに」
「そうね、寧ろその方が良いかもしれないわ、イリヤさん。そうすれば教会以外の地上でも好きに活動できる事になるわ!」
「ふ、ふふふふ、このクロック。実はここまで読んで敢えてあのような失言を行ったのだ。と言う事で、発言権の剥奪は無し!と言う事で良いのでは…」
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