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(46)キャスカの行動
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自分の戦力は侍女であるサリハしかいない事は公になっている以上、<勇者>パーティーですら独力で制覇する事を諦めたモラルのダンジョン制覇を即達成しては怪しまれる事は間違いないので、相当な時間をかけて実行する事にしているキャスカだが、少し前の国王ユガルと謁見時のルビーの対応の真意がわからずに困惑したまま教会に戻っている。
時間をかける分、他の面々の侵攻が進んでしまう事や、その間に自らの命の危険が続く事も受け入れているのだが、そのどちらも<魔王>モラルによって完全に対策がなされている。
侵攻に対してはある程度進ませるのだが、間違っても討伐される事は無いと自信満々に言い切った上、事実現状の<勇者>パーティーが一度匙を投げた事は知っているので、いくらとてつもない武器を手にしているとの情報が流れてきても、キャスカとしては安心する事が出来ている。
もう一方の身の危険だが、この教会にいる限り常駐している三人の魔族によって安全は担保できると教えられ、侍女のサリハから暗殺者の気配は以前から感じる時があり、いつの間にか一瞬で消えていた事実を聞いて感謝しつつも安堵していた。
「キャスカ様、どうやらしっかりと陛下は仕事をしたようで、キャスカ様が王位を狙うと宣言した事が公になっていますし、祖国にも伝わっておりますよ」
「ありがとうございます、神父様」
教会二階の一室で神父ホリアスから情報を教えてもらっているキャスカだが、寂れた教会の神父が膨大な情報を得ているのかについては、裏に<魔王>がいる事を知っているので疑問に思う事は無い。
常に護衛の立ち位置で行動を共にしている侍女のサリハは教会にいれば安全は絶対に確保できると理解したので、今は一階でルビー達の癒しの作業の手伝いを行っている為にこの場にはいない。
「ところで、あの謁見時にルビーさんが<勇者>パーティーとの同行を受け入れたのですが、そこについては何かご存じでしょうか?本来はルビーさん本人にお伺いすべき事なのですが、当時は驚きで聞く事が出来ず、今はお仕事をされていますので……」
直接本人に聞けない事を申し訳なく思っているので少し歯切れが悪いのだが、どうしてもその真意が気になってしまっているキャスカ。
「それは……隠さずお話しますと、あの場で断ればキャスカ様のお願いを聞かないばかりか、更に教会側に余計な圧力をかけかねないと危惧した結果です」
最大の秘匿事項である魔王について伝えている以上、余計な隠し事は無用だと判断した神父ホリアスは聞いていた情報をキャスカに開示する。
「……そうですか。余計なご迷惑をおかけしてしまい、またご配慮いただき、申し訳ございません」
「いえいえ、王位継承をキャスカ様に勧めたのは私達の総意ですから、何も気に病む事はありませんよ?」
こんな会話がなされている時、扉がノックされる。
「どうぞ、お入りください」
魔族の三人が誰も事前に連絡してこない事から、扉の向こうにいるのが誰かは分からないが絶対に敵ではない事を知っているので、警戒する事なく入室を促す神父ホリアス。
「神父様、キャスカ様。迷う事無くこの教会を目指している五人の気配がありますが、何れも敵意はなさそうです」
どうやら来訪者の情報を事前連絡しに来てくれたようなのだが、目の前にいる魔族がルビーなのか、リリアなのか、フェライトなのか区別がつかないので、名前を言わずにお礼を告げる神父ホリアス。
「ありがとうございます。間違いなく目的地がここと言う事は、何か怪我でもしているのでしょうか?」
「いいえ、神父様。至って健康です。冒険者らしく五人全員が鍛えているようです」
冒険者が傷を治してもらいたいと教会に来る事は理解できるが、事前調査ではそのような事は無かったらしく、その真意がわからない神父ホリアスとキャスカ。
「改めて確認ですが、悪意はないのですよね?」
ホリアスとしては自分が多少危険な状態になっても良いと思っているのだが、自分達の提言によって王位継承に名乗りを上げてくれたキャスカに何かあってはいけないと言う思いがあるので、再度確認してしまう。
「はい。そこは間違いありませんが、念のために神父様かキャスカ様に面会を求められた際には、私フェライトが同席させて頂きます」
安堵するとともに目の前の女性はフェライトだったのだなと、どうでも良い所に意識が向いたホリアスとキャスカ。
その後少しして……ないとは思うが民に被害がある事を避ける為に別室に待機しているキャスカとホリアスは、冒険者五人と面会する為にフェライトと共に待っていた所、扉がノックされる。
リリアが来訪者である冒険者五人を連れてきており、近接した状態でも敵意は一切感じないと教えてもらい、安堵しつつも入室を促す。
「「「キャ、キャスカ様!」」」
三つ子のドリンカー兄弟が感極まって一字一句違わずに全く同じ声でハモり、リューリも嬉しそうな表情をしているのだが、唯一正式なパーティーメンバーではない、あの村で自分のパーティーメンバー全てを失ったミュゼの表情だけは変化がない。
この状態を見た神父ホリアスは、間違いなく目の前の冒険者……一人ミュゼだけがその真意を量る事は出来なかったのだが、確実に敵ではなくキャスカを慕ってここまで来たのだろうと容易に推測する事が出来ていた。
「皆さん!」
その想定通りにキャスカは冒険者達の事を知っているらしく嬉しそうに立ち上がって近接して行き、念のために最も冒険者の近くにいるリリアが護衛の姿勢に移行していたのだが、結果的にその行動は杞憂であった。
時間をかける分、他の面々の侵攻が進んでしまう事や、その間に自らの命の危険が続く事も受け入れているのだが、そのどちらも<魔王>モラルによって完全に対策がなされている。
侵攻に対してはある程度進ませるのだが、間違っても討伐される事は無いと自信満々に言い切った上、事実現状の<勇者>パーティーが一度匙を投げた事は知っているので、いくらとてつもない武器を手にしているとの情報が流れてきても、キャスカとしては安心する事が出来ている。
もう一方の身の危険だが、この教会にいる限り常駐している三人の魔族によって安全は担保できると教えられ、侍女のサリハから暗殺者の気配は以前から感じる時があり、いつの間にか一瞬で消えていた事実を聞いて感謝しつつも安堵していた。
「キャスカ様、どうやらしっかりと陛下は仕事をしたようで、キャスカ様が王位を狙うと宣言した事が公になっていますし、祖国にも伝わっておりますよ」
「ありがとうございます、神父様」
教会二階の一室で神父ホリアスから情報を教えてもらっているキャスカだが、寂れた教会の神父が膨大な情報を得ているのかについては、裏に<魔王>がいる事を知っているので疑問に思う事は無い。
常に護衛の立ち位置で行動を共にしている侍女のサリハは教会にいれば安全は絶対に確保できると理解したので、今は一階でルビー達の癒しの作業の手伝いを行っている為にこの場にはいない。
「ところで、あの謁見時にルビーさんが<勇者>パーティーとの同行を受け入れたのですが、そこについては何かご存じでしょうか?本来はルビーさん本人にお伺いすべき事なのですが、当時は驚きで聞く事が出来ず、今はお仕事をされていますので……」
直接本人に聞けない事を申し訳なく思っているので少し歯切れが悪いのだが、どうしてもその真意が気になってしまっているキャスカ。
「それは……隠さずお話しますと、あの場で断ればキャスカ様のお願いを聞かないばかりか、更に教会側に余計な圧力をかけかねないと危惧した結果です」
最大の秘匿事項である魔王について伝えている以上、余計な隠し事は無用だと判断した神父ホリアスは聞いていた情報をキャスカに開示する。
「……そうですか。余計なご迷惑をおかけしてしまい、またご配慮いただき、申し訳ございません」
「いえいえ、王位継承をキャスカ様に勧めたのは私達の総意ですから、何も気に病む事はありませんよ?」
こんな会話がなされている時、扉がノックされる。
「どうぞ、お入りください」
魔族の三人が誰も事前に連絡してこない事から、扉の向こうにいるのが誰かは分からないが絶対に敵ではない事を知っているので、警戒する事なく入室を促す神父ホリアス。
「神父様、キャスカ様。迷う事無くこの教会を目指している五人の気配がありますが、何れも敵意はなさそうです」
どうやら来訪者の情報を事前連絡しに来てくれたようなのだが、目の前にいる魔族がルビーなのか、リリアなのか、フェライトなのか区別がつかないので、名前を言わずにお礼を告げる神父ホリアス。
「ありがとうございます。間違いなく目的地がここと言う事は、何か怪我でもしているのでしょうか?」
「いいえ、神父様。至って健康です。冒険者らしく五人全員が鍛えているようです」
冒険者が傷を治してもらいたいと教会に来る事は理解できるが、事前調査ではそのような事は無かったらしく、その真意がわからない神父ホリアスとキャスカ。
「改めて確認ですが、悪意はないのですよね?」
ホリアスとしては自分が多少危険な状態になっても良いと思っているのだが、自分達の提言によって王位継承に名乗りを上げてくれたキャスカに何かあってはいけないと言う思いがあるので、再度確認してしまう。
「はい。そこは間違いありませんが、念のために神父様かキャスカ様に面会を求められた際には、私フェライトが同席させて頂きます」
安堵するとともに目の前の女性はフェライトだったのだなと、どうでも良い所に意識が向いたホリアスとキャスカ。
その後少しして……ないとは思うが民に被害がある事を避ける為に別室に待機しているキャスカとホリアスは、冒険者五人と面会する為にフェライトと共に待っていた所、扉がノックされる。
リリアが来訪者である冒険者五人を連れてきており、近接した状態でも敵意は一切感じないと教えてもらい、安堵しつつも入室を促す。
「「「キャ、キャスカ様!」」」
三つ子のドリンカー兄弟が感極まって一字一句違わずに全く同じ声でハモり、リューリも嬉しそうな表情をしているのだが、唯一正式なパーティーメンバーではない、あの村で自分のパーティーメンバー全てを失ったミュゼの表情だけは変化がない。
この状態を見た神父ホリアスは、間違いなく目の前の冒険者……一人ミュゼだけがその真意を量る事は出来なかったのだが、確実に敵ではなくキャスカを慕ってここまで来たのだろうと容易に推測する事が出来ていた。
「皆さん!」
その想定通りにキャスカは冒険者達の事を知っているらしく嬉しそうに立ち上がって近接して行き、念のために最も冒険者の近くにいるリリアが護衛の姿勢に移行していたのだが、結果的にその行動は杞憂であった。
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