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(40)第一王女ネルハリ

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「ネルハリ王女。<勇者>パーティーと連絡は取れましたが、何分……かなりの武器を手に入れたとかで尊大な態度でして、助力を求めてきた国の立場を忘れているかのような立ち振る舞いに少々思う所がありました」

「……そうですか。急激に強くなれば溺れる事もあるでしょう。で、共闘についてはどのような話になっているのですか?」

「それが……我らの存在が侵攻の邪魔になるとまで言い切ってきましたので、一旦話は打ち切っております」

 何故か助力を求めたのはユガル王国であり<勇者>パーティーなのだが、まるで立場が逆転したかのような態度をとられて憤慨している騎士。

 これは魔王達の魔核を利用した新たな武器を手にして相当な力を得てしまった為に、今まで侵攻失敗の鬱憤があった事もあって蓋をしていた尊大な態度が完全に表に出てしまっている為だ。

 <魔王>モラルによれば、確かに力のある武器だが使用者の力は魔王達が判断している常識の範囲を出ていないので、結局武器に踊らされるだけで脅威となり得ないのだが、人族の範疇で言えば突出した力を持つ事になるので、浮かれてしまう部分は仕方がないのかもしれない。

「そうですか。ですが、多少遜ってもやむを得ないので、根気よく交渉してください。魔王討伐が出来れば彼等には栄誉が、こちらには王座が来るのですから、多少の我慢は必要ですよ?」

 確かに自らが主としているネルハリが王位を手に入れれば騎士である自分の立ち位置も近衛騎士となり相当上がるので、一時の我慢だと割り切って再び交渉の為に出国して行く騎士達なのだが、やはり相当な力を得てしまったグレイブ達にとってみれば、共闘と言う言葉が強さに肖ろうとしている雑魚の戯言に聞こえており、二回目の交渉もあっけなく決裂する。

「ネルハリ王女!正直、私はもう我慢が出来ません。当初助力を求めてきたのは誰なのかを全く忘れているあの態度!あろうことか、ネルハリ王女自ら頭を下げれば考えない事も無いと言い放ったのですよ!正常な思考の持ち主とは到底思えません。あんな奴等と手を組んでは、組織が内部から崩壊してしまいます!」

 普段温厚である騎士の態度を見て、流石に三度交渉を行うのは得策ではないのかもしれないと気が付くネルハリと、未だ怒りが収まらずに報告と言う名の文句を言い続けている騎士。

「あの連中、仮にあの武器による力を失えば確実に私達を盾にするなり囮にするなり、平気で行えると思えるほどのクズっぷりです!そんな連中と共に行動など、爆弾を抱えて行動するのと同義です!」

 沈着冷静で有名な騎士の切れっぷりを目の当たりにして、コレは相当だと理解したネルハリだが、他の強豪相手に今の所は一度魔王を始末した実績のある最高戦力を入手されてしまっては、それこそ脅威になりかねないと言う思いも捨てきれない。

「わかりました。止むを得ませんね。私が出ましょうか」

「ネルハリ王女!?」

「貴方の言いたい事は理解しています。ですが、そこを踏まえても交渉しなくてはならないのです。もう間もなく王位が手に入るのですよ?何でしたら、王位を得た後に煮るなり焼くなり、好きにすれば良いではありませんか?」

「た、確かに仰る通りですね。わかりました。ですが、ネルハリ王女の安全を確保する必要がある事だけは、心に留め置いて頂けますようお願いいたします」

 相当お冠の騎士は一国の王女、それも王位を狙う存在が言った有り得ない言葉“煮るなり焼くなり”に対しても、あの態度をとる様な人物であればたとえ称号持ちであろうが関係ないと言う気持ちになっており、半ばやけくそ気味に三回目の交渉に挑む準備を始める。

「今まで聞いた報告によると無駄にプライドが高そうですから……そうですね、十分な報酬と、更には私が必死でお願いする形で依頼すれば受け入れて頂けるでしょう」

「……ネルハリ王女……」

「わかっていますよ。ありがとうございます。ですが、遜るのは今回だけ。それも一時の事です。その分の鬱憤も、私が王位を継承した暁には十倍にして返してやれば良いのです。コレは大事の前の小事ですよ?」

 あれほど失礼な存在に自らの主が頭を下げるのを許容できないと言いたげな騎士に対し、その忠義に礼を述べつつもしっかりと最終的には目にもの見せてやると告げているので、騎士の心は穏やかではないが落ち着きを見せる。

 この辺りは流石の王族であり、人心掌握に優れていると言っても過言ではない。

 その数時間後……王城の豪華な一室に、遠慮なくズカズカ入り込んでくる存在がいる。

「フン、漸く俺達<勇者>パーティーの扱いと言う至極当然の事を学んだようだな。全く、俺には正直縁もゆかりもないシナバラス王国もついでに助けてやる事になるのに、騎士は偉そうにわめくだけ。正直辟易したところだ」

「グレイブの言う通りですね。本来僕達の力を借りるべき立場なのですから、相当遜ってしかるべきです。漸く立場と言うモノが分かって頂けたようで、安心しましたよ」

「はっ、次も同じなら私がぶっ飛ばしていた所だぜ?」

 <剣神>ミアは非常に大人しいが、グレイブ、ホルド、ミアの順番で、自分達が進言してシナバラス王国に助力を求めた事は無かった事になり、モラル達の魔核で作った武器の力に酔いしれて異常なほどに尊大な態度になっている。

 これは確かに相当だと思いつつも、おくびにも態度に出さないのは流石に王位を狙っている第一王女ネルハリであり、この程度でいちいち頭に来ては今後冷静な判断が出来ずに王位を奪われてしまう事すらあると認識していた。

「大変申し訳ございませんでした。で、如何でしょうか?報酬の方は前払い二億リナ(円)、成功報酬に二億リナ(円)となります」

「まぁ、報酬はそんなモノだろうな。そもそも他国からも地上を守ったと言う事で別途報酬を貰う予定だから、それで良いぞ」

 豪華な食事と酒を楽しんでおり、更には王女が遜っている事から気分を良くしたグレイブ達は、ネルハリと共にダンジョン攻略する事を了承した。
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