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(33)国王、去る

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 ルビーからどの様な戦力がダンジョンに攻め入っても全く問題ないと明言されたホリアスは、自分の悩みを軽減する為にそのような事を言ってくれているのではないかと思い視線をルビーに向けると……本当に心底自らの主であるモラルの力を疑っていない、自信に満ち溢れた笑顔のルビーがいた。

 多くの民と接している神父ホリアスは、その表情である程度の心の内を読む事が出来るようになっているので、本心から言っているのだと理解する。

「私の為に……ではなく、事実であると認識しても大丈夫なのですか?」

「はい。そこは間違いないと自信をもってお伝えします、神父様!」

 ルビーも自分の意図をしっかりと理解してくれたとわかったので、ホンワカした笑顔に変わっている。

 二人でコソコソ話をしている間にもシナバラス王国第二王女キャスカとユガル王国のヤドリア・ユガル国王の話は続いているのだが、キャスカは神父の為に交渉をしている最中だった。

「……と言う事で、私の方から国に戻って直接伝える事は非常に厳しいと言わざるを得ませんが、書状を認める事は可能です。それを陛下がお持ちいただければ、私と連名での提案とする事は出来ます」

「フム、確かにキャスカ王女が危険な状況にあると言う事は理解できるな。現時点でこちらの戦力を割くわけにはいかない以上、確かにその手法が一番か?」

 何時魔王モラルが攻めてくるかわからない以上は自分の周りをこれ以上ない程に固めないと気が済まないヤドリア・ユガルなので、騎士の一人とて戦力を割くと言う意志は無いままに話は進むのだが、キャスカの身の危険性は理解しているつもりだ。

 そのため、書状さえさっさと書かせてしまえば、その後他の身内の手の者に襲われてどうなろうが知った事ではないと言う気持ちが大きくなっている。

「ご理解いただけて何よりです。では、私の方が書状を認める代わりに提案があります。ご存じの通りに私は非常に危険な状況に身を置いておりますので、この書状が受け入れられるまではこの教会でお世話になる予定です。その間は、少なくとも癒しの力を持つ方々に去られると立ち行かなくなる可能性が高いので、ご配慮いただきたいのですが」

 キャスカとしては、書状が届いて姉妹、兄弟がダンジョン攻略に力を注いだとしても、彼等の性格から考えると身の危険は少々減るが無くなる訳ではない事を知っており、その後も改めて状況を説明して再び癒しの手三人を守るつもりでいた。

 短い付き合いであってもその程度の配慮はできる人物であると理解している神父ホリアスも、キャスカの言葉に何かを付け足すような事はしないし、そもそも王族同士の話なの口を挟む事はできない。

「そう……か。やむを得ない、か」

 一応、相応の力が有るとの噂の癒し手を手に入れる事、国家を上げてダンジョン攻略に出向いてもらう事を天秤にかけると迷う事も無いとヤドリア・ユガルは判断し、キャスカの提言を受け入れる。

 その後、キャスカがその場で自らの父であり国王でもあるアリベ・シナバラスに書状を認め、その内容を確認したヤドリア・ユガルも納得顔だ。

「では、この書状をこちらが責任をもってシナバラス王国に届けよう。キャスカ王女の安全にもかかわる話なので、結果は追って報告する」

 実際は癒し手について再度交渉する為に訪問するつもりなのだが、この場では当たり障りのないようにこのような言い回しをしているだけで書状を手に帰って行く国王と、即癒し手を手に入れる事が出来ずに少々不機嫌そうな態度を隠そうともしない<勇者>グレイブ一行。

「ふ~、申し訳ありません神父様。この場でダンジョン攻略時の交渉をするのは得策ではないと思い、一旦期限を切らせて頂きました。ですがご安心ください。どの道王位継承の手段としてダンジョン攻略が受け入れられても、私の危険度は少々下がる程度で大きな変化は望めません。その事をもって再度交渉いたします」

 ホリアスとしても自分の想像通りの事を真摯に伝えてくれるキャスカに対して悪い思いはしないのだが、どう見てもキャスカの姉妹、兄弟はダンジョン内部で非業の死を遂げる可能性が高い事に対しては思う所があった。

 ダンジョンの親玉とも言える<魔王>モラルと眷属達を直接目にした事がある神父は、全く力のない自分でもルビーの自信満々の態度からそのような未来になるだろうと漠然と思っているのだが、どうすれば良いのかはわからない。

 そもそも目の前にいる第二王女キャスカの性格はある程度把握しているが、他の兄弟、姉妹についての性格もわからないので何かをしたくともできる事も無く、キャスカ自身もこの教会がダンジョンと繋がっている……そもそもダンジョンの一部だとは思いもしていないので、これ以上できる事は無い。

 キャスカが自国宛てに書状を認める事で矛を収めた国王一行と言う結果だけが残ったこの日の夜……

「神父殿。昼間の状況は確認させてもらったが、幾つか伝えておこうと思う」

 キャスカやサリハが別室で寛いでいる中で、防音の結界を張った上でホリアスと対峙している<魔王>モラル。

「ルビーが伝えたそうだが、<勇者>を始めとした雑魚共が複数の国ぐるみで来たとしても何も問題はないぞ?そうそう、わらわ達の魔核を使った魔道具とも言える武器をそれぞれが持っていたようじゃが、正直宝の持ち腐れ。所持者の実力不足で使いこなせない事は目に見えておる。まぁ、仮に完全に使いこなせたとしても全く問題ないがの」

 ホリアスでは把握できなかった武器についても言及され、ここまで自信満々なので心配するのも不敬か?と思い始めている。

「ま、神父殿はあ奴等が何を言おうが、一切気に病む必要はないと言う事を伝えたかったのじゃ。それと、神父殿の性格から心配しているのは……あの第二王女の家族の扱いじゃろう?そちらも、希望があれば最大限配慮しようと思っておるので、安心してもらいたい。どの道書状に対する結果がわかるまでは数日かかるだろうから、その間に神父殿がどうしたいのか、じっくり考える時間が出来たと思えば良いのではないか?」

 もうすっかりと自分の事を理解したうえで最善とも言える言葉をくれる<魔王>モラルには頭が上がらないと思いつつ、感謝の意を伝えて心が軽くなるホリアスだ。
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