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(31)屈辱の報告と対策

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 最早自らの力では<魔王>モラルに対抗する事は不可能だと理解してしまったグレイブは、レッド公爵家の力を上げて王家を潰すと言う当初の目的は一切頭になく、どうすれば自分も生き残れるかと言う事に完全に意識が向いている。

「そうは申しましても、一度は魔王を確実に始末した事は魔核からも明らかであり、歴史的にも勝利を収めた事は間違いありません。しかし、その後の復活と言う有り得ない事態が起こってしまったので、過去の経験は一切当てにならないのではないでしょうか?」

 グレイブの報告だけであれば責任をとらせて切って捨てても良いのだが、国王側の人物であるホルド達も同じような事を言っているので、今後は国家としてモラルのダンジョンからの攻撃に対して備える事と、逆侵攻を如何に効率的に、効果的に行うかを慎重に検討せざるを得ない状況に陥る国王。

「……そうであれば、我がユガル王国だけの問題ではなくなる。それほどの強さを持っているのであれば、他国も巻き込まざるを得ないだろう」

 今回は勇者の紋章を持つ者がユガル王国に出現したが、歴史上他の国家、当然過去には国家として認識されていない場所からも出現した事もあり、対魔王であれば地上の国家が協力して対応する事も必要である事は分かっている。

 今までの史実から勇者の紋章を持つ者と近い場所でその他の力を得た人物が出現する事は分かっていたので、結果的に全員がユガル王国から出ており、ここで魔王討伐実績があれば他国に対して戦力的にも上だと主張できる上、地上を救った実績から相当有利な立場になる事は間違いない。

 その優位性を保つためにもここまで逆侵攻を行ったのだが、反撃されてしまう可能性が高い事態に陥ったので、優位性を保つ等と言っていられる状況ではなく、他国、特に友好関係のある隣国のシナバラス王国に助力を求める事にした。

 この時点でユガル国王は、隣国のシナバラス王国は王位継承争いの真っ最中であり、微妙に国内が混乱している事を知らないので助力を求めると宣言するのだが……

「止むを得まい。先ずは私からシナバラス王国に連絡をして、方針を……」

 と言いかけた時に、余り空気を読めない王女スサリナが国王の発言中に割って入る。

「あっ!思い出しました!そう言えば、あの国の第二王女のキャスカ様が、何故かイリヤさんのいた教会におりました」

 その結果……魔王モラルが教会に目が向かないように配慮した事は無駄になり、目的は癒し手を手配するのではなく第二王女に会う事と少々異なるのだが、結局教会に視線が向いてしまう事になった。

 シナバラス王国と友好関係にあるユガル王国は、シナバラス王国の王位継承がどのように行われているのかは嫌でも耳に入っており、スサリナの一言……一国の王女が貧相な異国の教会にいたと言う事でその事実を思い出す。

「フム……非常に時期が良くない、いや、寧ろ好都合なのか?」

 ユガル王国の国王であるヤドリア・ユガルは、現時点で血で血を洗うかのような王位継承戦が行われている事を瞬時に把握して一瞬助力を求めるのは不可能かと思ったのだが、逆にモラルのダンジョンに対応した者に王位を与える事にすれば余計な肉親との争いも無くなり、対外的にも強さを持つ者が王位を継いだと証明できると判断した。

 もちろん勇者の紋章を持った人物を擁している自国、つまりは当事者である自分達も手を引くわけにはいかないので、グレイブ達を強化して自信をつけさせたうえで再度対策に当たらせるのも忘れない。

「事情は理解した。スサリナの言う事も考慮すると、寧ろ好都合なのかもしれん。後ほどこの私自らが教会に出向いて第二王女キャスカと話をするとしよう。それと……二度も侵攻を失敗したグレイブ・・・・だが、その方らには特別製の武器を与える。前回仕入れた魔核を使った特製の武器だ」

 <聖女>である自分の娘スサリナが勝手に逃走して戦力が激減した事実があるのに、失敗したのは主にグレイブが悪いと言わんばかりの物言いなのだが、何時モラルが侵攻してくるのかわからないこの不安定な状況において身内で争っても仕方がないと、国王以外が大人の対応をする。

「武器を持て!」

 誰も何も言わないこの場に国王であるヤドリア・ユガルの声だけが良く響き、その命令に従って騎士が四つ・・の品を運んでくる。

「これはあの魔核を利用して作った一品だが、得られた魔核の数しか準備できないのは自明の理。そこは理解できているな?」

 暗に<聖女>スサリナの分は準備できないので次回以降は出撃させないと伝えているのだが、グレイブ達にとってみても相乗効果による戦力増強を鑑みても相当足手纏いであり、イリヤとは異なって荷物持ち等の雑用をさせる訳にもいかないので寧ろいない方が有難いと言う気持ちがある為に、異を唱える事は無い。

 運ばれてきた武器は、剣が二つ、腕輪が一つ、盾が一つであり、夫々がその感触を確かめて、武器から感じる……唯一腕輪を装着している<賢者>ホルドは武器と言えないかもしれないが、そこから溢れんばかりの力を感じているので、これであれば今度こそは<魔王>モラルとそのお付きの者達を始末する事が出来ると自信が溢れ出す。

「では、残りは癒し手……ポーションも潤沢に準備するとは言え、やはり摂取時の隙も軽視はできない。聞けば、あのイリヤ亡き後の教会の癒し手も何故か三人増え、その力は申し分ないそうではないか?」

「しかし、前回の侵攻前にその辺りを神父に交渉したのですが、頑として首を縦に振らなかったのです」

「そうですわね。確かにあの神父様は強情でしたわ、お父様」

 国王の考える事程度はグレイブも実行済みだと告げるとスサリナも同意して見せたのだが、やはり癒し手が必要である事は共通認識であり、スサリナはここで上手く代理人を立てなければ、無いとは思うが自分に再び声がかかってしまう事を恐れていた。

「なれば、国王命令しかないだろう?」

 国家権力を使うと言っているので、これで癒し手は確実に確保できたと安堵するグレイブ一行だが、その場に異国の第二王女、これから助力を願おうとしているシナバラス王国の第二王女であるキャスカがいる事は、残念な頭しか持っていないこの場の面々は忘れていた。
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