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(14)教会と魔王
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勇者が無事に地上に戻れるかは不明ではあるが、イリヤが常に教会で活動をしてしまっては再び貴族に目を付けられる可能性が高いので、必要に応じて教会に来る事に決定した。
「そう言えば……神父様。大変申し訳ありませんが、今の私には癒しの魔法を使う事が出来ません。魔法その物を力にしてしまったので……もう能力がないのです」
「……そうですか。それでもイリヤがいてくれるだけで、町の者は救われますよ」
能力についての事情もある程度知っている神父は、深く追求する事はなかった。
その時に、今まで神父とイリヤの話に割って入る事は一切なかった魔王モラルが突然口を開いた。
「それじゃ。イリヤは黙っておるが、その原因は間違いなく我らにある。あの勇者一行によって致命傷を負った我らを、自らを省みずに救ってくれたのがイリヤなのだ。そこで相談だ、神父殿。我が魔族、見かけは人族と変わらんが癒しの魔法を使える者を数人、イリヤの代わりと言う訳ではないがここに常駐させようと思う。どうじゃ?」
「え?良いのですか?」
神父としては願ってもない申し出だ。
神父自身も癒しの魔法は使えるのだが、もちろん以前のイリヤと比較すると大幅に劣る。
残念な事に、現在教会に在籍している者で癒しを行える人物は他にいない中での申し出であり、断ると言う選択肢は町の民の為にも一切存在しなかった。
「無論だ。イリヤの能力を奪ってしまった我らで出来る事は何でもする。実はの、イリヤのおかげで我ら一同の力が大幅に上昇しておるのだ。つまり、派遣する魔族の癒しの力も相当じゃ。期待しているがよいぞ」
「ありがとうございます。助かります。モラル様」
「ありがとうございます。モラル様」
神父とイリヤもこの申し出に感激しているのだが、モラルとしてはこの程度で恩が返せるとは思ってもいないし、そもそもこの程度では受けた恩の利息にすらならないと考えている。
そんな中、神父が危惧している事を恐る恐る伝えてくる。
「ですが……モラル様。あまりにも強大な力ですと再び王城から目を付けられてしまう可能性がありますので、その……大変申し訳ありませんが、どの程度癒すかについては都度私が調整させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
見かけは幼女に見えても、神父の目の前の女性は魔王。
イリヤと共に現れ、イリヤが信頼している様子を見せている事から何とか普通に話せてはいる。
しかし本来はこのようなお願いが出来る相手ではないのだが……モラルはイリヤの信頼している神父の提言である為に、その言葉をあっさりと受け入れる。
「神父殿の言う事、尤もだ。よし、では早速紹介しよう」
魔王モラルの言葉と共に、三人の見た目美しい女性が現れる。
「左から、リリア、ルビー、フェライトじゃ」
見た目からは区別が出来ず三つ子と言える程似ており、魔族故か全員が黒目黒髪をしている三人が、美しい所作で神父に一礼する。
「良いか。そなた達はこの神父……」
「ホリアスと申します」
「ホリアス殿の言葉は、わらわの言葉と受け止めて行動せよ。それと、有り得ぬとは思うが、勇者一行が来ても勝手な行動は厳に慎め」
「「「承知いたしました」」」
神父としてはとてもありがたい事ではあったのだが、余りにも美しい女性が三人もいるので、これはこれで何か問題が起きそうだとは不安になっている。
しかし、癒し手が完全に不足している事実があるので、先ずは行動を起こしてみようと決意する。
だが、魔王モラルの話はまだ終わらなかった。
「そうそう、この教会に何かあればすぐにわかる故即刻駆け付けるが、場合によってはイリヤの護衛が直接来る事になるやもしれぬ。せっかくだから顔を覚えておくと良い。ホレ、シルバよ」
「お初にお目にかかります。シルバと申します、イリヤ様。貴方様の安全、この私が命を賭して確保させて頂きます。ホリアス神父様もお見知りおき下さい」
イリヤの知らないところで、いつの間にか護衛がついていたのだ。
見た目麗しい男性の魔族だが、その黒髪は黒い瞳を隠す程に伸びている。
恐らく三傑に準ずる力を持っているだろう護衛のシルバと呼ばれた魔族は、180cmの体を奇麗に曲げて挨拶している。
そこまでしてもらっていたとは気が付く事が出来ていないイリヤは、申し訳ない気持ちになる。
「モラル様。いつの間に……」
「当然ではないか。恩人の安全を全力で確保するのは至極真っ当な事ではないのか?そもそも、そなたの護衛の任務については三傑の連中が激しく立候補しておったのだが……あ奴らはそれぞれ仕事があるのでな。何とか言いくるめて辞退させた経緯がある。そうそう、もちろんそなたのプライバシーは配慮させておるから、安心じゃ」
こうして全ての事実、新たな戦力についての説明が終わり、イリヤは一旦教会を後にした。
残された神父と魔族の三人は、既に教会の中で癒しを求めている民のために動き始める事になる。
「そう言えば……神父様。大変申し訳ありませんが、今の私には癒しの魔法を使う事が出来ません。魔法その物を力にしてしまったので……もう能力がないのです」
「……そうですか。それでもイリヤがいてくれるだけで、町の者は救われますよ」
能力についての事情もある程度知っている神父は、深く追求する事はなかった。
その時に、今まで神父とイリヤの話に割って入る事は一切なかった魔王モラルが突然口を開いた。
「それじゃ。イリヤは黙っておるが、その原因は間違いなく我らにある。あの勇者一行によって致命傷を負った我らを、自らを省みずに救ってくれたのがイリヤなのだ。そこで相談だ、神父殿。我が魔族、見かけは人族と変わらんが癒しの魔法を使える者を数人、イリヤの代わりと言う訳ではないがここに常駐させようと思う。どうじゃ?」
「え?良いのですか?」
神父としては願ってもない申し出だ。
神父自身も癒しの魔法は使えるのだが、もちろん以前のイリヤと比較すると大幅に劣る。
残念な事に、現在教会に在籍している者で癒しを行える人物は他にいない中での申し出であり、断ると言う選択肢は町の民の為にも一切存在しなかった。
「無論だ。イリヤの能力を奪ってしまった我らで出来る事は何でもする。実はの、イリヤのおかげで我ら一同の力が大幅に上昇しておるのだ。つまり、派遣する魔族の癒しの力も相当じゃ。期待しているがよいぞ」
「ありがとうございます。助かります。モラル様」
「ありがとうございます。モラル様」
神父とイリヤもこの申し出に感激しているのだが、モラルとしてはこの程度で恩が返せるとは思ってもいないし、そもそもこの程度では受けた恩の利息にすらならないと考えている。
そんな中、神父が危惧している事を恐る恐る伝えてくる。
「ですが……モラル様。あまりにも強大な力ですと再び王城から目を付けられてしまう可能性がありますので、その……大変申し訳ありませんが、どの程度癒すかについては都度私が調整させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
見かけは幼女に見えても、神父の目の前の女性は魔王。
イリヤと共に現れ、イリヤが信頼している様子を見せている事から何とか普通に話せてはいる。
しかし本来はこのようなお願いが出来る相手ではないのだが……モラルはイリヤの信頼している神父の提言である為に、その言葉をあっさりと受け入れる。
「神父殿の言う事、尤もだ。よし、では早速紹介しよう」
魔王モラルの言葉と共に、三人の見た目美しい女性が現れる。
「左から、リリア、ルビー、フェライトじゃ」
見た目からは区別が出来ず三つ子と言える程似ており、魔族故か全員が黒目黒髪をしている三人が、美しい所作で神父に一礼する。
「良いか。そなた達はこの神父……」
「ホリアスと申します」
「ホリアス殿の言葉は、わらわの言葉と受け止めて行動せよ。それと、有り得ぬとは思うが、勇者一行が来ても勝手な行動は厳に慎め」
「「「承知いたしました」」」
神父としてはとてもありがたい事ではあったのだが、余りにも美しい女性が三人もいるので、これはこれで何か問題が起きそうだとは不安になっている。
しかし、癒し手が完全に不足している事実があるので、先ずは行動を起こしてみようと決意する。
だが、魔王モラルの話はまだ終わらなかった。
「そうそう、この教会に何かあればすぐにわかる故即刻駆け付けるが、場合によってはイリヤの護衛が直接来る事になるやもしれぬ。せっかくだから顔を覚えておくと良い。ホレ、シルバよ」
「お初にお目にかかります。シルバと申します、イリヤ様。貴方様の安全、この私が命を賭して確保させて頂きます。ホリアス神父様もお見知りおき下さい」
イリヤの知らないところで、いつの間にか護衛がついていたのだ。
見た目麗しい男性の魔族だが、その黒髪は黒い瞳を隠す程に伸びている。
恐らく三傑に準ずる力を持っているだろう護衛のシルバと呼ばれた魔族は、180cmの体を奇麗に曲げて挨拶している。
そこまでしてもらっていたとは気が付く事が出来ていないイリヤは、申し訳ない気持ちになる。
「モラル様。いつの間に……」
「当然ではないか。恩人の安全を全力で確保するのは至極真っ当な事ではないのか?そもそも、そなたの護衛の任務については三傑の連中が激しく立候補しておったのだが……あ奴らはそれぞれ仕事があるのでな。何とか言いくるめて辞退させた経緯がある。そうそう、もちろんそなたのプライバシーは配慮させておるから、安心じゃ」
こうして全ての事実、新たな戦力についての説明が終わり、イリヤは一旦教会を後にした。
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