7 / 63
(7)魔王の視線
しおりを挟む
会話からもわかる通り、かなり余裕があった魔王達。
実はこの魔王モラル、人族で言う所の温厚な魔王に入る部類であり、魔王の称号を得て更なる力を得た今でも地上への侵攻は一切考えていなかったりする。
何処のダンジョンでもそうだが、ダンジョンを管理している魔族側からすれば、自らの住処であるダンジョンに勝手に侵入してくる人族をある程度見逃しているのだ。
この不法侵入とも言える行為は魔族側、ダンジョンにもメリットがあり、人族のダンジョン内部での存在時、そして死亡時に得られるエネルギーによってダンジョンの格が上がり、そのマスターの力も上昇する。
結果的にその系譜の者達の力も上昇するので、ある意味持ちつ持たれつという事で侵入を黙認しているのが一般的だ。
しかし、マスターを始末しに来る輩についてはそうは言っていられないので、その時に備えて防御態勢を整えていたのがこのモラルのダンジョンであり、その余裕が今出ている。
「だけどよー、あの女。イリヤと言ったか?あいつは本当に要注意だぜ」
三傑のバケットの言葉に、魔王モラルですら頷いている。
その視線の先には、今イリヤ達がいるダンジョンの六階層が大画面に映し出されている。
イリヤはただひたすらに魔法を行使して勇者パーティーの防御力を上げているのだ。
その恩恵を受けている者達には一切認識される事は無く、自らの疲労だけを積み重ねている事になっているのだが……
そんなイリヤは、攻撃力は一切なさそうだが、防御力だけ見れば魔王の攻撃すら難なくはじき返しそうに見える。
普段から防衛に対しては常に気を配っている魔王モラル一行が警戒するのも当然と言える。
「でも、このままだとあの娘はここまではたどり着けないわよ。睡魔に負けて終わりでしょうね」
初めてのダンジョン侵攻、そして戦闘を目の当たりにした状態で一晩完全に徹夜。
更には荷物を常に持っている上に膨大な魔力を常に消費して防御魔法を行使し続けているのだから、誰の目から見ても疲れ切っているのだ。
「おい、何時までフラフラ疲れているフリをしているんだ?そろそろ温厚な俺も切れるぞ?」
どれ程イリヤの魔法のおかげで助かっているか分かっていない勇者グレイブが、ついに露骨にイリヤを責め始める。
そしてここぞとばかりに、ホルド、ミア、ルナも同調するのだ。
「グレイブの言う通りですね。無能なのですからせめて迷惑はかけないでいただきたいものです」
「グレイブ、正しい」
「まったく、救えねーな」
そんな姿を魔王に見られているとも知らずに、勇者パーティーは階層を次々と攻略して行く。
そして四日目。
つまり、三日間一睡もさせて貰えなかったイリヤは、最早真っすぐ歩く事も儘ならなくなっていた。
何とか気力で防御魔法だけは継続しているのだが、それももう限界が近づいていた。
「これで……終わりだ!」
グレイブの一閃で、周囲の魔物は消し飛んだ。
かなりの階層を進んで経験を積んだため、勇者を始めとした賢者、剣神、聖盾も、その力を十全に使いこなせるほどに練度が上がっていたのだ。
その闘いの途中も数回攻撃を食らっていたのだが、イリヤの魔法のおかげで無傷に終える事が出来ている。
しかし、その戦闘が終わった瞬間にイリヤの緊張の糸がついに切れて倒れてしまったと同時に、防御魔法は王都も含めてすべてが解除された。
元から魔王サイド以外誰も気が付いていない魔法であるので、今の時点では勇者パーティーの誰にも違和感はない。
むしろグレイブ達にしてみれば、何もしていないくせに勝手に倒れて迷惑しかかけていないイリヤに憎悪の感情が溢れているだけだった。
この時点で侵攻した階層は20階層に及んでいる。
出て来る魔物は上層階、浅層では考えられない程の強さを持っており、更には連携までしてくる始末。
魔王討伐の任務でなければ、この時点で倒した魔物の素材をありったけ持ち帰り換金すれば、人生数回遊んで暮らせるほどの価値ある素材を得ているのだが……
任務を完了して王国を掌握する事に比べれば価値もないと考えている勇者グレイブ。
そして、その蛮行を止めるべく行動している残りの三人、最後にそのための生贄要員となっている<聖女見習い>のイリヤ。
そのイリヤ、人知れずに防御魔法を行使し続けている上に睡眠を取る事が出来ず、ついには意識を失って倒れ、魔法も自動的に解除されてしまった。
本来は睡眠を取る前に必要量の魔力を魔法に送れば解除はされないのだが、その余裕が一切なくなっている程に追い詰められていたのだ。
イリヤがこの作戦の重要な駒である事を認識している三人と、荷物持ち兼雑用がいなくなると不便であると思っているグレイブは、止む無くこの場で野営を行う事にした。
実はこの魔王モラル、人族で言う所の温厚な魔王に入る部類であり、魔王の称号を得て更なる力を得た今でも地上への侵攻は一切考えていなかったりする。
何処のダンジョンでもそうだが、ダンジョンを管理している魔族側からすれば、自らの住処であるダンジョンに勝手に侵入してくる人族をある程度見逃しているのだ。
この不法侵入とも言える行為は魔族側、ダンジョンにもメリットがあり、人族のダンジョン内部での存在時、そして死亡時に得られるエネルギーによってダンジョンの格が上がり、そのマスターの力も上昇する。
結果的にその系譜の者達の力も上昇するので、ある意味持ちつ持たれつという事で侵入を黙認しているのが一般的だ。
しかし、マスターを始末しに来る輩についてはそうは言っていられないので、その時に備えて防御態勢を整えていたのがこのモラルのダンジョンであり、その余裕が今出ている。
「だけどよー、あの女。イリヤと言ったか?あいつは本当に要注意だぜ」
三傑のバケットの言葉に、魔王モラルですら頷いている。
その視線の先には、今イリヤ達がいるダンジョンの六階層が大画面に映し出されている。
イリヤはただひたすらに魔法を行使して勇者パーティーの防御力を上げているのだ。
その恩恵を受けている者達には一切認識される事は無く、自らの疲労だけを積み重ねている事になっているのだが……
そんなイリヤは、攻撃力は一切なさそうだが、防御力だけ見れば魔王の攻撃すら難なくはじき返しそうに見える。
普段から防衛に対しては常に気を配っている魔王モラル一行が警戒するのも当然と言える。
「でも、このままだとあの娘はここまではたどり着けないわよ。睡魔に負けて終わりでしょうね」
初めてのダンジョン侵攻、そして戦闘を目の当たりにした状態で一晩完全に徹夜。
更には荷物を常に持っている上に膨大な魔力を常に消費して防御魔法を行使し続けているのだから、誰の目から見ても疲れ切っているのだ。
「おい、何時までフラフラ疲れているフリをしているんだ?そろそろ温厚な俺も切れるぞ?」
どれ程イリヤの魔法のおかげで助かっているか分かっていない勇者グレイブが、ついに露骨にイリヤを責め始める。
そしてここぞとばかりに、ホルド、ミア、ルナも同調するのだ。
「グレイブの言う通りですね。無能なのですからせめて迷惑はかけないでいただきたいものです」
「グレイブ、正しい」
「まったく、救えねーな」
そんな姿を魔王に見られているとも知らずに、勇者パーティーは階層を次々と攻略して行く。
そして四日目。
つまり、三日間一睡もさせて貰えなかったイリヤは、最早真っすぐ歩く事も儘ならなくなっていた。
何とか気力で防御魔法だけは継続しているのだが、それももう限界が近づいていた。
「これで……終わりだ!」
グレイブの一閃で、周囲の魔物は消し飛んだ。
かなりの階層を進んで経験を積んだため、勇者を始めとした賢者、剣神、聖盾も、その力を十全に使いこなせるほどに練度が上がっていたのだ。
その闘いの途中も数回攻撃を食らっていたのだが、イリヤの魔法のおかげで無傷に終える事が出来ている。
しかし、その戦闘が終わった瞬間にイリヤの緊張の糸がついに切れて倒れてしまったと同時に、防御魔法は王都も含めてすべてが解除された。
元から魔王サイド以外誰も気が付いていない魔法であるので、今の時点では勇者パーティーの誰にも違和感はない。
むしろグレイブ達にしてみれば、何もしていないくせに勝手に倒れて迷惑しかかけていないイリヤに憎悪の感情が溢れているだけだった。
この時点で侵攻した階層は20階層に及んでいる。
出て来る魔物は上層階、浅層では考えられない程の強さを持っており、更には連携までしてくる始末。
魔王討伐の任務でなければ、この時点で倒した魔物の素材をありったけ持ち帰り換金すれば、人生数回遊んで暮らせるほどの価値ある素材を得ているのだが……
任務を完了して王国を掌握する事に比べれば価値もないと考えている勇者グレイブ。
そして、その蛮行を止めるべく行動している残りの三人、最後にそのための生贄要員となっている<聖女見習い>のイリヤ。
そのイリヤ、人知れずに防御魔法を行使し続けている上に睡眠を取る事が出来ず、ついには意識を失って倒れ、魔法も自動的に解除されてしまった。
本来は睡眠を取る前に必要量の魔力を魔法に送れば解除はされないのだが、その余裕が一切なくなっている程に追い詰められていたのだ。
イリヤがこの作戦の重要な駒である事を認識している三人と、荷物持ち兼雑用がいなくなると不便であると思っているグレイブは、止む無くこの場で野営を行う事にした。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる