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(7)魔王の視線

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 会話からもわかる通り、かなり余裕があった魔王達。

 実はこの魔王モラル、人族で言う所の温厚な魔王に入る部類であり、魔王の称号を得て更なる力を得た今でも地上への侵攻は一切考えていなかったりする。

 何処のダンジョンでもそうだが、ダンジョンを管理している魔族側からすれば、自らの住処であるダンジョンに勝手に侵入してくる人族をある程度見逃しているのだ。

 この不法侵入とも言える行為は魔族側、ダンジョンにもメリットがあり、人族のダンジョン内部での存在時、そして死亡時に得られるエネルギーによってダンジョンの格が上がり、そのマスターの力も上昇する。

 結果的にその系譜の者達の力も上昇するので、ある意味持ちつ持たれつという事で侵入を黙認しているのが一般的だ。

 しかし、マスターを始末しに来る輩についてはそうは言っていられないので、その時に備えて防御態勢を整えていたのがこのモラルのダンジョンであり、その余裕が今出ている。

「だけどよー、あの女。イリヤと言ったか?あいつは本当に要注意だぜ」

 三傑のバケットの言葉に、魔王モラルですら頷いている。
 その視線の先には、今イリヤ達がいるダンジョンの六階層が大画面に映し出されている。

 イリヤはただひたすらに魔法を行使して勇者パーティーの防御力を上げているのだ。

 その恩恵を受けている者達には一切認識される事は無く、自らの疲労だけを積み重ねている事になっているのだが……

 そんなイリヤは、攻撃力は一切なさそうだが、防御力だけ見れば魔王の攻撃すら難なくはじき返しそうに見える。

 普段から防衛に対しては常に気を配っている魔王モラル一行が警戒するのも当然と言える。

「でも、このままだとあの娘はここまではたどり着けないわよ。睡魔に負けて終わりでしょうね」

 初めてのダンジョン侵攻、そして戦闘を目の当たりにした状態で一晩完全に徹夜。
 更には荷物を常に持っている上に膨大な魔力を常に消費して防御魔法を行使し続けているのだから、誰の目から見ても疲れ切っているのだ。

「おい、何時までフラフラ疲れているフリをしているんだ?そろそろ温厚な俺も切れるぞ?」

 どれ程イリヤの魔法のおかげで助かっているか分かっていない勇者グレイブが、ついに露骨にイリヤを責め始める。
 そしてここぞとばかりに、ホルド、ミア、ルナも同調するのだ。

「グレイブの言う通りですね。無能なのですからせめて迷惑はかけないでいただきたいものです」

「グレイブ、正しい」

「まったく、救えねーな」

 そんな姿を魔王に見られているとも知らずに、勇者パーティーは階層を次々と攻略して行く。

 そして四日目。
 つまり、三日間一睡もさせて貰えなかったイリヤは、最早真っすぐ歩く事も儘ならなくなっていた。

 何とか気力で防御魔法だけは継続しているのだが、それももう限界が近づいていた。

「これで……終わりだ!」

 グレイブの一閃で、周囲の魔物は消し飛んだ。

 かなりの階層を進んで経験を積んだため、勇者を始めとした賢者、剣神、聖盾も、その力を十全に使いこなせるほどに練度が上がっていたのだ。

 その闘いの途中も数回攻撃を食らっていたのだが、イリヤの魔法のおかげで無傷に終える事が出来ている。

 しかし、その戦闘が終わった瞬間にイリヤの緊張の糸がついに切れて倒れてしまったと同時に、防御魔法は王都も含めてすべてが解除された。

 元から魔王サイド以外誰も気が付いていない魔法であるので、今の時点では勇者パーティーの誰にも違和感はない。

 むしろグレイブ達にしてみれば、何もしていないくせに勝手に倒れて迷惑しかかけていないイリヤに憎悪の感情が溢れているだけだった。
 
 この時点で侵攻した階層は20階層に及んでいる。

 出て来る魔物は上層階、浅層では考えられない程の強さを持っており、更には連携までしてくる始末。

 魔王討伐の任務でなければ、この時点で倒した魔物の素材をありったけ持ち帰り換金すれば、人生数回遊んで暮らせるほどの価値ある素材を得ているのだが……

 任務を完了して王国を掌握する事に比べれば価値もないと考えている勇者グレイブ。

 そして、その蛮行を止めるべく行動している残りの三人、最後にそのための生贄要員となっている<聖女見習い>のイリヤ。

 そのイリヤ、人知れずに防御魔法を行使し続けている上に睡眠を取る事が出来ず、ついには意識を失って倒れ、魔法も自動的に解除されてしまった。

 本来は睡眠を取る前に必要量の魔力を魔法に送れば解除はされないのだが、その余裕が一切なくなっている程に追い詰められていたのだ。

 イリヤがこの作戦の重要な駒である事を認識している三人と、荷物持ち兼雑用がいなくなると不便であると思っているグレイブは、止む無くこの場で野営を行う事にした。
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