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(3)イリヤ
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「はい、これでもう大丈夫ですよ。もう無理しないでくださいね。皆さんが心配しちゃいますから」
「いつもすまないね、イリヤさん」
ここは城下町の外れにある、とある教会。
周囲には貴族の邸宅は存在せず、所謂平民が住んでいる地域だ。
そこには国王の耳に入る程に有名になってしまった癒し手である、この教会に所属するイリヤと言う女性がいる。
彼女は癒しを求めて来る者達を一切拒まず、献身的にその力を使っていた。
彼女は光の力を持っており、癒し、そして光の防御を行える力があったのだ。
防御の力については使う当てがなく、誰にもその力については説明することも無かったのだが……
彼女は、朝から晩までこの教会で癒しの力を使っている。
普通に考えればこれ程の長時間魔法を行使する事は有り得ないのだが、その辺りの知識に疎い平民では理解する事は出来ないし、国王側もそこまで長時間連続して癒しを行っているとは知らなかった。
いや、平民の間での行いなどは知りたいとも思っていなかった。
そこに今回の貴族・王族間のいざこざに強制的に巻き込まれる事になるイリヤ。
それも最悪の形で……
国王は民のために活動しているイリヤを、権力闘争に巻き込む形で生贄にする事にしたのだ。
所詮はこの程度の国王・貴族なのだ。
「イリヤ。国王陛下より書状が来ております」
「え?私に……ですか?」
突然雲の上の存在から手紙と言われても理解できないイリヤと、この教会の長である神父はイリヤと共に不思議そうな顔をしながらも続ける。
「そうですね。近衛騎士が直接持ってきましたので間違いないですね。悪い話でなければ良いのですが」
民のために力を使っている教会の長だけあって、イリヤに対する心配もしてくれる心優しい神父。
実はこの神父、あてもなく彷徨っていたイリヤを温かく教会に迎え入れてくれた人物でもあり、イリヤの父親代わりの存在でもある。
こうして神父より手紙を受け取り、中身を読み進める。
と言っても、書かれている内容はほんの数行。
「神父様……どうやら私は勇者パーティーに同行する聖女見習いとして抜擢されたようです」
聖女見習いとして勇者パーティーに同行するようにとだけ書かれていたのだ。
ここで言う見習いとは、一切給金も出ないし万が一の際の保証金も出ない、つまりは体の良い使い捨て、捨て駒だ。
見習いの立場についての知識がある二人、特に神父は暗い顔をしている。
「イリヤ……断りましょう」
「いいえ神父様。そこまでしてしまうとこの教会の存続にかかわります。ここには私の兄弟、姉妹、そして癒しを求めてくる人々、何より神父様がいらっしゃるのです。私一人で済むのであれば……御恩が返せるのではないでしょうか」
神父の暖かい心に癒されつつ、残された者達の為にこの申し出を受ける事を決意したイリヤ。
イリヤ自身もこの先に待ち受けているのは“死”である事は理解できているのだが、自分の命を差し出す事で、父である神父や家族達、教会、更には周辺の民を守る決心をした。
「イリヤ……私にもっと力があれば」
「いいえ。神父様は私に生きる力、温かい心を与えて下さいました。私にはこれ位しか神父様に返す事は出来ないのですから、気に病まないでください」
こう言われても、神父としては納得できる訳はない。
しかし、国王命令に背けばイリヤが危惧している通りに教会の存続にかかわる問題になるのは明らかだ。
「申し訳ない、イリヤ。貴方にばかり負担を掛けてしまって……せめてコレを肌身離さず持っていてください。きっと役に立ちます」
「神父様……ありがとうございます」
とても辛そうな神父から渡されたお守りを手に取って優しく微笑むイリヤは、普段から優しい表情に見える、少し垂れ目がちな黒い瞳に若干涙を溜めていた。
こうしてイリヤは強制的に国王の思惑通り、ただ一人の悪意の捌け口として勇者パーティーに同行する事が決定してしまったのだ。
当然イリヤはこの教会から去る事になるので、引継ぎを兼ねて多数の民に事情を説明した。
「イリヤさん、無事に帰ってきてください」
「俺で良ければ、何でもしますよ!」
イリヤの人柄が分かるかのように、全ての民から応援、励ましの言葉を貰っていた。
「ありがとうございます。無事に任務が終わりましたら……きっと戻ってこられますから。その時はまたよろしくお願いしますね」
「いつもすまないね、イリヤさん」
ここは城下町の外れにある、とある教会。
周囲には貴族の邸宅は存在せず、所謂平民が住んでいる地域だ。
そこには国王の耳に入る程に有名になってしまった癒し手である、この教会に所属するイリヤと言う女性がいる。
彼女は癒しを求めて来る者達を一切拒まず、献身的にその力を使っていた。
彼女は光の力を持っており、癒し、そして光の防御を行える力があったのだ。
防御の力については使う当てがなく、誰にもその力については説明することも無かったのだが……
彼女は、朝から晩までこの教会で癒しの力を使っている。
普通に考えればこれ程の長時間魔法を行使する事は有り得ないのだが、その辺りの知識に疎い平民では理解する事は出来ないし、国王側もそこまで長時間連続して癒しを行っているとは知らなかった。
いや、平民の間での行いなどは知りたいとも思っていなかった。
そこに今回の貴族・王族間のいざこざに強制的に巻き込まれる事になるイリヤ。
それも最悪の形で……
国王は民のために活動しているイリヤを、権力闘争に巻き込む形で生贄にする事にしたのだ。
所詮はこの程度の国王・貴族なのだ。
「イリヤ。国王陛下より書状が来ております」
「え?私に……ですか?」
突然雲の上の存在から手紙と言われても理解できないイリヤと、この教会の長である神父はイリヤと共に不思議そうな顔をしながらも続ける。
「そうですね。近衛騎士が直接持ってきましたので間違いないですね。悪い話でなければ良いのですが」
民のために力を使っている教会の長だけあって、イリヤに対する心配もしてくれる心優しい神父。
実はこの神父、あてもなく彷徨っていたイリヤを温かく教会に迎え入れてくれた人物でもあり、イリヤの父親代わりの存在でもある。
こうして神父より手紙を受け取り、中身を読み進める。
と言っても、書かれている内容はほんの数行。
「神父様……どうやら私は勇者パーティーに同行する聖女見習いとして抜擢されたようです」
聖女見習いとして勇者パーティーに同行するようにとだけ書かれていたのだ。
ここで言う見習いとは、一切給金も出ないし万が一の際の保証金も出ない、つまりは体の良い使い捨て、捨て駒だ。
見習いの立場についての知識がある二人、特に神父は暗い顔をしている。
「イリヤ……断りましょう」
「いいえ神父様。そこまでしてしまうとこの教会の存続にかかわります。ここには私の兄弟、姉妹、そして癒しを求めてくる人々、何より神父様がいらっしゃるのです。私一人で済むのであれば……御恩が返せるのではないでしょうか」
神父の暖かい心に癒されつつ、残された者達の為にこの申し出を受ける事を決意したイリヤ。
イリヤ自身もこの先に待ち受けているのは“死”である事は理解できているのだが、自分の命を差し出す事で、父である神父や家族達、教会、更には周辺の民を守る決心をした。
「イリヤ……私にもっと力があれば」
「いいえ。神父様は私に生きる力、温かい心を与えて下さいました。私にはこれ位しか神父様に返す事は出来ないのですから、気に病まないでください」
こう言われても、神父としては納得できる訳はない。
しかし、国王命令に背けばイリヤが危惧している通りに教会の存続にかかわる問題になるのは明らかだ。
「申し訳ない、イリヤ。貴方にばかり負担を掛けてしまって……せめてコレを肌身離さず持っていてください。きっと役に立ちます」
「神父様……ありがとうございます」
とても辛そうな神父から渡されたお守りを手に取って優しく微笑むイリヤは、普段から優しい表情に見える、少し垂れ目がちな黒い瞳に若干涙を溜めていた。
こうしてイリヤは強制的に国王の思惑通り、ただ一人の悪意の捌け口として勇者パーティーに同行する事が決定してしまったのだ。
当然イリヤはこの教会から去る事になるので、引継ぎを兼ねて多数の民に事情を説明した。
「イリヤさん、無事に帰ってきてください」
「俺で良ければ、何でもしますよ!」
イリヤの人柄が分かるかのように、全ての民から応援、励ましの言葉を貰っていた。
「ありがとうございます。無事に任務が終わりましたら……きっと戻ってこられますから。その時はまたよろしくお願いしますね」
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