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ダンジョンバトル(1)

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 時折起こる魔物暴走と言われるスタンピート。

 資源の宝庫であるダンジョンから、その中に存在する魔物が溢れ出てきてしまう現象を言い、既にある程度まで詳しい情報を得ているダンジョンからも初めて見る様な、そもそも属性が全く異なる魔物すら湧き出てくる事がある。

 人族にとっては脅威以外の何物でもなく、何故このような事が起こるのかは一切不明とされているのだが、その現象が収まった後にダンジョンの中身が大きく変わる場合がある事は良く知られている。

 一般的には内部が荒れ果てている状態が殆どなのだが、そんな中でも時折有り得ないほどの高レベルの魔物の死骸や資源を得る事が出来るので、冒険者達にとっては悪い事ばかりではない。

 このスタンピートの原因はダンジョン間の戦闘によるものなので、普段ダンジョンには生息しない魔物が存在する事も当然だ。

 ダンジョンマスターの間で巨大勢力と認識されているのは、本人にはそのつもりは一切ないのだがいつの間にか魔王としての称号を得てしまっているイジス、そしてその座を虎視眈々と狙っているミラバルの二大勢力。

 だが、この世界には数多のダンジョンが存在し、その中には相当な力を有している上でどちらの派閥にも属さないマスターも存在している。

 自らは攻撃しないが迎撃は完全に行う者や、人族や眷属をうまく使って、人知れず他のダンジョンを攻略して行く者、様々だ。

 そんな中、二大勢力の拠点があるイルシャ王国ではない国家、イモビ王国にあるダンジョン<深闇と栄光>に対して、ミラバル配下のダンジョンである<枯渇>が戦闘を申し込んだ。

 この<深闇と栄光>のマスターであるヘルムホルツ、実はミラバルよりも古くから長きに渡って存在しているダンジョンマスターでその名前はかなり有名なのだが、真の力を知っているダンジョンマスターは今の所存在していない。

 一般的には積極的に活動するマスターではなく、大人しいと認識されている。

 ミラバルとしては大人しいダンジョンマスターが手中に収めているダンジョンであれば容易に手に入れられるし、そもそも<深闇と栄光>は無駄にダンジョンエネルギーのランクが一桁であるので、ダンジョン入手後はその力を取り込んで、更にイジスを始末しやすくなると踏んだのだ。

 しかしダンジョンエネルギーのランクが一桁に収まっているダンジョン同士は、何故か直接戦闘する事は出来ない。

 今迄の経験から新人でない限り全てのマスターに共有されている事実である為、配下である<枯渇>を<深闇と栄光>にけしかけたのだ。

 何もサポートがなければ敗北する事も有り得るので、自らの眷属を補助要員として付ける事も忘れない。

 準備万端でその戦闘を申し込んだミラバルだが、その直後に全ダンジョンマスターに激震が走った。

 ミラバル本人、イジス、そして普段は決して表には出てこない上に、大人しいと思われている<深闇と栄光>のマスターであるヘルムホルツも……だ。

 全てのダンジョンマスターと意思のある眷属に対して、ダンジョン間の戦闘回数が規定数に達したので、エネルギーのランクが一桁のダンジョン同士の直接戦闘を解禁すると脳内にメッセージが流れたのだ。

 上位に位置するダンジョンマスターは同レベルのマスターから直接戦闘を申し込まれる事が無い現状に慣れきっており、自らの命は安泰だと高を括っていたのだが……

 こうなってしまうと何時自分自身に危険が及ぶか分からないので、同じように一桁のダンジョンとの同盟か、二大勢力の配下になるか、はたまた引きこもるか、独自路線を変更せずに追求していくか、各自は対策を迫られていた。

 一瞬驚きはしたのだが余り普段と変わらないイジスは、自らがダンジョンマスターとなっている<優しさと死の匂い>最下層で、眷属の一人であるリティと話をしていた。

「リティ、お前も聞こえたか?」

「はい、ご主人様。宜しければ今私が、あの忌々しいミラバルの<黒の海>を滅ぼしてまいりましょうか?」

 イジスに絶対の信頼と忠誠を誓っている眷属の一人である、妖狐族のリティ。

 そのイジス個人に対して、直接的にも間接的にも度々攻撃を仕掛けてきているミラバルが鬱陶しくて仕方がなかったのだが、直接戦闘ができないと言う制約によってミラバルをダンジョンマスターとして存在させている<黒の海>に手を出せずにいた。

 エネルギー一桁のダンジョンでも眷属が侵入できた経験はあるのだが、実際に<黒の海>に対してそのような行為を試したことがない中で問題の制約がダンジョンバトルの規定回数到達と言う訳の分からない原因で、撤廃されたようなのだ。

 リティとしては、即座に直接ミラバルの<黒の海>に乗り込んでミラバルを始末したい気持ちに狩られているので、ミラバルのコアを破壊して人に戻した後、更に止めを刺すつもりでいた。

 もちろん他の忠臣とも言える三人の眷属も、即座にこの場に現れる。

「マスター、お聞きになりましたか?是非このイシュウに<黒の海>への出撃命令をお願い致します」

「いや、主よ。ここはベーレに任せて貰いたい」

「皆さん何を言っているのですか~?ここは誰がどう考えてもプラタの出番ですよ!ですよね?主様~」

 龍族のイシュウ、魔狼族のベーレ、吸血姫族のプラタだ。

「いやいや、落ち着いてくれよ、四人共。別にあんな制約が外れても、大して今と変わりはないだろう?ミラバルもバカじゃない。あいつは意外と俺の戦力を把握しているからな。直接戦闘しても勝てないと分かっているから、今迄通りにセコセコしてくるだけだよ。逆に、配下のダンジョンを更に狙いに来る可能性が高いから、そっちに力を割いてくれ」
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