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閑話No10(1)

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「ほら、早く片付けろ。魔力レベルが2だからって期待したが……こんなに使えないグズだとは気が付かなかった。これじゃあウチで働かせても損害にしかならない。チッ、仕方がない。ホルダの奴にでも売っぱらうように進言するか?」

 とある国家の商店の店主を任されている男と、その男の目の前にはあどけない姿をした可愛い少女。
 
 この世界は魔力レベルと言うものが存在し、人族最大魔力レベルは10と認識されており、最低は0。

 どのような術、たとえ身体強化を施すにも魔力が必要で、魔力レベルが0である場合には何の術も使う事ができない。

 目の前のこの少女、年齢は不詳だが、あどけなさが残っている事から推測13~14歳程度だろうか?

 その推定年齢で魔力レベル2になっているという事は将来有望であり、現時点でもかなりの強さなり、器用さなりを持っているはずだった。

 この少女を手に入れた奴隷商の男は、その場で魔力レベル2を持っているという事を魔道具で証明し、有望である事を確信したのだ。

 そこで何ができるかを確認するために、奴隷商自らが経営する各商店にこの少女を派遣して、実力を測っていたところだったのだ。

 魔力レベルだけで判断すれば、店主の言っている期待感を持つ事は正しい。

 だが、結局は本人の性格・資質による。

 そしてこの少女、何をやらせても中々上手く行かない。

 例えば、身体強化が使えるだろうと荷物運びを任せた。

 確かに驚くほどの荷物を一気に運ぶ事が出来ているのだが、あまりの量を一気に運ぶので、直接手に触れている荷物は力加減が上手くないのか、中身は全て潰されている。

 商店の前の掃除をさせてみると、本人曰く一気に掃除ができるという事で店の前に巨大な穴をあけて、そこにゴミを投げ入れる。

 一応開店前にその穴は塞ぐのだが、その様子を見られているのであまり良い印象は持たれていない。

 冒頭の店主の言葉は、この巨大な穴を作ってしまった時に思わず漏れたものだ。

 この少女、可愛らしい顔をしているのだが立場は奴隷。

 本人は物心がついた時からこの扱いであったので、特に何かを思う事は無い。

 もちろん両親もわからないし、自分の名前も分からない。

 だが、食事は食べられるし眠れるので文句はなかったのだ。

 そんな生活をしていたが、店主の声を聞いてまた売られるのか……と少々落胆していた。

 これで何度目だろうか。

 どこに売られても、何をやっても上手く行かないのだ。

「いつか、落ち着けるのかな~」

 どうしても漏れてしまう本音、希望。

 そんな事を思いながら作業をしているのだが、最近は少女と年齢が同じような子供を良く見かけるようになっていた。

 もちろん子供一人で来るわけではなく、両親のどちらか、または両親とも同行している状態で……だ。

 両親と思われる大人は嬉しそうに商品を選んでその子供に渡しており、その商品を受け取った子供も幸せそうな顔をしている。

 そんな姿を見て、いつの日か誰かから自分の事を想って、笑顔と共に素敵な物を貰える日が来るのだろうか?

 そんな淡い期待を持ち始めていた。

 だが現実は厳しいのは理解している。

 やはりこの商店でも使えないと判断されて、再び奴隷商の元に戻されてしまったのだ。

「また戻ってきたのか。何度戻れば気が済むんだ、このガキ!」

 商店を任せている店長からクレームと共に戻された少女。

 奴隷商はこの少女によって与えられた損害を報告され、怒り心頭だった。

 そのせいで機嫌が悪くなり、少女に対する扱いは惨いものだった。

 殴る・蹴る・食事抜き……だ。

 罰として何かの作業をさせないのは、少女が意図せぬ行動をして思わぬものを破壊してしまう恐れがあるからだ。

「俺としては、お前には何度もチャンスをやったぞ!流石に限界だ。お前はホルダに売り飛ばす」

 ホルダとは、この奴隷商の子分の様な立ち位置で、気は弱く、とても奴隷商を営める器ではない。

 そんなホルダに全く使えない奴隷を売り払う……いや、押し付けて、自分の懐が痛まないようにしているのだ。

 と……こうしてホルダと言う男に売られた少女。

 店はボロボロで、客はいない。

 そんなところに売られて今後どうするのかと不安でいっぱいだったのだが、ホルダは生来の性格からか、少女にはとても良くしてくれたのだ。

 だが、店の状況からわかるように、今存在している奴隷は少女一人。

 当然全く使えない奴隷しか扱っていないと噂が町中に広がっているので、客など来るわけもない。

 そう、つまりお金が一切ないのだ。

 そんなところに、強引に使えない奴隷である少女を押し付けられるので、ホルダは借金まみれになっていた。

「君も苦労したんだね。ごめんね、ウチは見ての通り貧乏でさ。でも、裏の畑が豊作だから食べ物には困らないから安心してくれな」

 優しく微笑むホルダに少女は心から安心すると共に、ホルダと言う男のために何かできないかを必死で考えていた。

 こうしてホルダと生活している少女。

 ホルダのおかげで自由に動けまわるようになっていたので、時折弱い魔獣ではあるが自分の力で討伐し、ホルダに差し入れていた。

 だが、この行為がある冒険者の目に留まってしまったのだ。

 突然冒険者パーティーがホルダの店に現れて、この少女を強引に買って行った。

 当然ホルダは拒絶するも、ホルダが半ば強制的に負わされていた借金の証文と交換と言う形で、強引に連れ去ったのだ。

 ホルダの店には、既に破られた証文と、傷だらけで倒れているホルダしか残されていない。

 ホルダは自分の借金なんか・・・より、少女を必死で助けようとしたのだ。

 だが結局は力及ばず、結果的に推定13歳程度の少女が冒険者と共に行動する事になった。

 これの意味する所は、魔力レベル2の身体強化を利用した荷物運びだが、当然以前の商店で行っていたような安全なものでは無い。

 常に危険と隣り合わせの環境で、冒険者達の荷物を運ぶのだ。

 冒険者の移動速度に合わせる必要があるし、荷物の破壊などは許されない。

 そのためにはある程度の強さが必要になるのだが、その辺りは魔獣を討伐する姿を冒険者が目撃しているので、全く問題ないと判断された。

 しかし、今まで初めて暖かい心で接してくれたホルダから突然引きはがされ、以前の環境……いや、それ以下の環境に落とされた少女は本来の力が出せるわけがなかった。

 そんな少女が冒険者と行動を共にした時に辿る運命は……囮一択。

 嫌々ではあるが長くこの商売を営んできたホルダは、その辺りの知識は豊富だった。

 そうならないように、自分の所に来てしまった奴隷をなるべく環境の良い所に販売したり、可能であればこっそりと開放してやったりしていた。

 そんな努力も空しく、尤も嬉しそうに一緒に生活してくれていた少女が、尤も渡してはいけない連中の手に渡ってしまったのだ。

 こうして少女は、男ばかりの冒険者パーティー三人組に強制的に販売されて行く事が決定した。
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