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バイチ帝国(4)西門のNo.6(ゼクス)

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 既に東門の戦闘が終了している頃、アンノウンゼロのライブン、ヨーゼフナと共に西門の外に転移したナンバーズのNo.6ゼクス

 彼女の最も得意とする術は回復術。

 普段からから寡黙で、あまり何かを要求するような事もなければ、No.10ツェーンのように不思議な行動をする事も無い。

 ある意味、どこにでもいる大人しい女性と言う印象のナンバーズだ。

 得意な術を考えると、この戦闘には後衛として補助的な役目をするのが良いと考えられがちだが、あくまで最も得な術が回復と言うだけであり、他のナンバーズ同様に過剰な戦闘力を持っている。

 今回の出撃ではNo.6ゼクスとしては珍しく、自らの出撃をイズンに要望したのだ。

 余程今回のジトロの件、そしてキロスとコンの件で思う所があるのだろうと判断したイズンが、出撃を許可した経緯がある。

 No.6ゼクスを筆頭としたアンノウン三人に対峙しているのは、連合軍と、その中に人に扮した悪魔二体、バリッジの暗部四人だ。

 こちらも防壁内部からのアンノウンゼロの支援によって既に把握されている。

 東門の闘いと異なるのは、既に東門の闘いの情報を両陣営とも得ているという事。

 つまり、既に悪魔とバリッジは考えうる補強を終えた後だ。

 当然この場の西門だけではなく、南門と北門それぞれで全く同じ状況となっている。

 特に補強を終えた悪魔二体は鬼気迫る表情をしている。

 東門からの連絡も途絶えており敗北した事を悟っているので、ここまで敗北すると、自らが完全に消滅する事になるからだ。

 バリッジ暗部は既にその命を捨てる覚悟をしている為にそのような状態には陥っていないが、このまま正面からぶつかってもアンノウンには勝つ事ができないと考えていた。

 最大の補強済みでアンノウンと対峙した東門の戦闘結果が全てを物語っているのだ。

 もう少し人数がいれば別だが、首領の安全、そして最終決戦が行われているハンネル王国の王都に戦力を集中しているので仕方がない。

 普通の・・・人族である連合軍を犠牲にすることで、この戦況をひっくり返す切掛けにする必要があると考えた暗部。

 四人の暗部が二手に分かれ、近くにいる騎士や軍人を軽く麻痺させたうえで自分の盾にするように抱えた状態でアンノウンに突進する。

 悪魔側も、バリッジ暗部の意図を察して同調するように攻撃を開始した。

「下種は下種」

 ポツリとNo.6ゼクスが呟やくと、力なく暗部の盾とされていた者が暗部に捕まれたままではあるが突然動き出す。

 そしてなぜか、その盾となっていた者を持ちながら高速移動していた暗部が転倒したのだ。

 単純に盾となっていた者が麻痺が解けて自由に動けたとしても力の差があるので、情けなくも転倒するなどこの緊迫した状況では有り得ない。

 当然これはNo.6ゼクスの術によるものだ。

 回復術。

 盾となっていた男達の麻痺を解除するとともに、その男を抱えていた暗部の足の一部に局部的な過剰回復を遠隔で行ったのだ。

 No.6ゼクスも体感しているが、過剰な力を有している者は制御にかなり気を遣う。

 既に戦闘が終了している東門のNo.4フィーアが無意識化で力にリミットを掛けていたのだが、怒りによって制御が外れて戦闘終了後に倒れたのも、ある意味制御に失敗したが故の結果だ。

 この場のバリッジ暗部の男達も最大限の修練を行っていたのだが、力の上昇率が激しい状態で足の極一部、局部的に過剰回復をされてしまったので、体を動かすための筋肉の動きに微妙なズレが生じて転倒するに至ったのだ。

 その隙に、アンノウンゼロの二人が、連合軍の男諸共完全に始末する。

 東門と比べて、アンノウンと対峙直前から完全に強化していた悪魔とバリッジだが、あっけなくバリッジ暗部は姿を消す。

 バリッジ暗部に突然盾にされた事、その盾とバリッジ暗部を纏めて瞬時に滅却したアンノウンゼロを見た連合軍は、何が起こったのかわからずにいる。

 そこに、アンノウンゼロのライブンが叫ぶ。

「お前ら、俺達アンノウンとバイチ帝国を悪と断じたんだよな。味方を平気で盾にするような奴が正義か?それに、そっちにいる二人は、お前ら程度・・では人に見えるだろうが、実際は悪魔だ。そんな奴らに踊らされて真偽を確認すらせずに攻撃してくる。しょせんお前らの正義などそんなものだ」

 それに続くように、ヨーゼフナも魔術を使って拡声して連合軍に告げる。

「私達アンノウンとバイチ帝国に牙を剥く者には攻撃します。あなた達人族は、過ちを認めてこの場を去るのであれば見逃しましょう。ですが、我らの邪魔をしたり、私達に対して敵対心有りと判断した場合は、容赦しません」

 この西門の連合軍を統括している男が一歩前に出て、アンノウンと対峙する。

「随分と偉そうな事を言うな。お前こそ盾になっていた人族を纏めて始末しただろうが!そんな奴が正義を語るのか?」
「あなたと押し問答をするつもりはありません。それにそのような時間もないでしょう。私達は最大限配慮して忠告しましたよ」

 これ以上は一切聞く耳がないとばかりに、ヨーゼフナは悪魔に向き合う。

 つまり目の前の男から視線どころか、体の向きすら変えて悪魔を見つめているのだ。

 男としては最大の屈辱だ。

 まるでお前程度は相手にならない、いや、相手にする必要すらないレベルだと言われている事と同義だからだ。

「舐めるな!アンノウン!!」

 即座に腰の剣を抜き、その勢いのままヨーゼフナに切りかかろうとする。

 しかし、悪魔と対峙しているヨーゼフナの体から溢れでる魔力……実際は付き従っている魔獣の魔力ではあるのだが、その魔力を感じて心の奥底から恐怖してしまったために、攻撃の途中で動きが止まってしまう。

 そこに視線は悪魔に向けたままライブンが近づき、動きの止まっている男を連合軍の方向に投げ飛ばす。

「これ以上は俺達から何か言う事は無い。後は自分で考えろ!」

 そう一言告げると、アンノウンゼロのヨーゼフナ、ライブンが一体の悪魔へ、残り一体の悪魔にはNo.6ゼクスが向かう。

 ヨーゼフナとライブン二人と戦闘を行っている悪魔は当初二人の攻撃に押されていたのだが、消滅は完全な死と認識しているので、人化を行うために使用していた魔力を攻撃に振り分ける。

 既に東門と同様に周囲に無駄に待機していた連合軍は攻撃の余波で無残な状態になっている上、多少離れていたとしても砂塵によって悪魔を視認できている人族は今の所存在しない。

 ヨーゼフナによって連合軍を統括している男が投げ込まれた周辺は立て直す事すらできていなかったのだが、自分の命が惜しいのか、徐々にではあるが撤退し始めている。

 悪魔としては僅かな魔力ではあるのだが、全ての力を底上げされている状態であったために、本人が思っている以上の魔力を追加で使用する事が出来ていた。

 一気に互角、いや、それ以上になり、反撃できる機会が増えている悪魔。

 こうなると気になってくるのは、防壁内部にいるアンノウンゼロ達だ。

 最も近くにいるナンバーズのNo.6ゼクスはもう一体の悪魔と戦闘している。

 すると、連合軍がバイチ帝国を責めていない今この瞬間、防壁内部から観察しているアンノウンゼロが加勢してくる可能性があるのだ。

 そうなれば、全力で戦闘している状態でようやく攻勢に転じる事が出来たのだが、あっという間に劣勢になる事は間違いない。

 そのため、そのような動きを感知した瞬間に一旦退避して、体勢を整える必要があると考えていたのだ。
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