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バリッジ暗部

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 ギルドの中でも、相変わらず気配を消しながら二人は相談を始める。

 まさか、連絡にギルドへの依頼を使うとは想像もしていなかったし、誰でも見る事ができる依頼書に暗号を載せるとも思ってもいなかったのだ。

『とりあえず、この模様をNo.7ジーベンに伝えて解析してもらいましょうか?』
『そうね。それしか方法はないでしょうね。私もNo.8アハトの意見に賛成』

 バリッジ暗部は相当疲労しているのか、ギルド併設の食事処でぐったりしている。

 その姿を注意深く観察しつつ、No.7ジーベンからの返事を待つ。

 暫くしてNo.7ジーベンから返事が来るが、二人が期待するようなものでは無かった。

No.8アハトNo.9ノイン、申し訳ないけれど、あれは解けないわ。恐らくバリッジで勝手に決めている、何の法則性もない模様の組み合わせよ。アレを解読するのはバリッジ以外には不可能ね』

 当然と言えば当然だ。

 あれほどの組織が簡単に解読できるような暗号を使う訳がないのだ。

『とすると、あの男を暫く監視するしかないか』
『そうなりますね』

 念話でジトロとイズンには報告しつつ、監視を継続する二人。

 しかし、数日張り付いた結果、この男は普通の冒険者としての活動しかしておらず、一切怪しい動きもなければ拠点に帰還する素振りすら見せなかった。

 この男がギルドに発注した依頼書。

 報酬が安く設定されている事から、かなりの数の冒険者の視界に入るだけで誰も受注する事は無く、未だにボードに貼られ続けている。

 つまり、この依頼書を見た冒険者全員を追跡する事は出来ないのだ。

 しかしこの二人、いや、アンノウンにとって、バリッジの拠点に繋がる可能性が高い情報を持っている人物である為、諦めきれずに、しばらく交代で監視を続けていた。

 ある日、バリッジ暗部が冒険者として活動を始めたギルドのボードに、似た様な模様が描かれた依頼書が張り出されていた。

 それを見た男は、その依頼書を剥がして依頼を受注すると森に移動する。

 そして、森の深くまで移動した所で突然自爆したのだ。

 これには、その日この男を追跡していたNo.8アハトは驚きを隠せなかった。

 あの依頼書に書かれている暗号。

 そこから事態が動くのは間違いないと思っていたのだが、まさか自爆されるとは思っていなかったからだ。

「これでまた振り出しですか。あれほどの組織ですから、そう簡単に尻尾を掴ませるようなヘマはしませんね」

 疲れたように呟くと、森から転移して拠点に戻る。

 詳細は既にジトロとイズンに報告済みで、この日の夕方に詳しく状況が説明された。

 詳しくと言っても、暗号でやり取りされた上、自爆されたと言う事だけだが……

 そして忘れてはいけないのが、あのエセ近衛騎士であるフォトリとその従者であったレンドレンだ。
 
 既にレンドレンとその妹であるパトランは、拠点で元冒険者パーティーの四人と同じ扱いで生活をしている。

 その結果、アンノウンの拠点内部で生活をしている一般人は、レンドレン、パトラン、元冒険者パーティーであるジュリア、ロレンサリー、メリンダ、マチルダ、最後にバルジーニとなる。

 少し前に救出されたノイノールとフォタニアの兄妹はアンノウンゼロとしての力をつけており、間もなく任務に就けるレベルに達する予定だ。

 この境目、アンノウンゼロになるかならないかは、本人の適正、希望によるところが多くなっている。

 ここに救出した人々は、かなりひどい扱いを受けていた過去がある。

 バルジーニは勝手についてきたようなものなので除外されるが……

 拠点に匿う前に身辺調査を厳重に行っているので、バリッジの影は一切ない事を確認済みだ。

 この拠点で心身を癒した後で、更に闘いに身を置けるかはその人の心によるので、アンノウンとしては決して無理強いはしていない。

 その結果、普通の人族として生活すると言う事になったのだ。

 そして、エセ近衛騎士のフォトリ。

 あの逃亡直後、すかさず国王と宰相に謁見を願い出ていた。

 いつの間にか光を失った聖剣を持って、二人に事情を説明する。

「確かにあの場には悪魔が三体おりました。私はこの聖剣を使って攻撃したのですが、一切の攻撃は通らず、ご覧の通りいつの間にか聖剣は力を失っておりました。今回の悪魔は、今までの悪魔とは違う気がします。力を蓄えて覚醒した悪魔なのかもしれません。その為、この情報をお伝えすべく、隙を見て帰還いたしました」
「そうですか、その聖剣、取得してくれた方も力を失っている可能性について言及されていたので、本当に力を失っているのかもしれませんね」
「だがトロンプ、悪魔の対処はどうするのだ?」

 トロンプも当然国王の心配事は理解しているが、今の所は手の打ちようがない。

 しかし、フォトリが無事に帰還できている所に活路を見出した。

「その悪魔、魔力レベルは判定できましたか?」
「私では鑑定できませんでしたので、魔力レベルは11以上である事は確実です」
「なんと、人族最強を超えてきたか。あのドストラ・アーデもそうだったようだが、わがハンネル王国でも、魔力レベル10が最大と言う固定概念を捨てて、戦力を上げなければならないな」

 悪魔についての話から少々脱線してきたので、トロンプは話を戻す。

「国王陛下、今はその話ではありません。確かに魔力レベルを上げるのは必須でしょう。しかし、先ずは悪魔。その対処をどうするかです。近衛騎士と冒険者ギルドの精鋭を派遣して討伐する以外に方法はないと思いますが?」
「であろうな。早速手配しろ」

 と、こうして物々しく手配された一行だが、現地は明らかに戦闘をしたであろう荒れ果てた地形と悪魔らしき残骸、黒装束の亡骸の一部が残っていただけだった。

 何がどうなったのか理解できない国王だが、一先ず悪魔の脅威は去ったと理解し、今後の対応として至急魔力レベル10以上に成れるような修練を編み出すように指示を出していた。

 数日後、バリッジの幹部達にも悪魔の情報は伝わっていた。

 最後に残っていたあの暗部の一人が、暗号を使って伝えたのだ。

 この報告によれば、結末は推論になるが、暗部と同士討ちになっているはずとの情報だ。

 その情報を基に再調査した所、報告の通り悪魔とバリッジ暗部共に、既に死亡していた事が確認された。

「すでにハンネル王国も、魔力レベルは10が上限ではないと気が付いている。国王命令で戦力増強を図っているそうだ」
「ようやく知ったか。だが、今回の悪魔騒ぎと言い、我らの力ももう少しつける必要があるな」
「あの丸薬に改良を加えている所だ。命を懸ける必要がなければ、戦力が削減される事も無いだろう」

 ハンネル王国内部でも、噂好きの冒険者達によってドストラ・アーデの件や、今回の悪魔騒ぎの情報が流れた結果、魔力レベル10が最大ではないと言う認識が定着してきた。

 こうなると、ハンネル王国だけで噂が留まる訳もなく、大陸中に拡散されたのだ。

 実際に魔力レベル10以上になっている一般の冒険者、騎士は存在しない為、どのように魔力レベルを増加させるかは、アンノウン、バリッジ、そしてナバロン騎士隊長以外は、知る術がないのが現状だ。

 とある魔力レベル10の冒険者は、常に向上心を持ち続けている男であったため、この噂を聞いてひたすら高ランクの魔獣討伐に勤しんでいる。

 残念なのは、人族の活動範囲にいる魔獣の最高レベルは10であり、既に魔力レベル10の冒険者のレベルが上がる可能性は殆ど無い。
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