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慰安旅行(3)

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 少々時間がかかったが、事情を話し始めてくれた。

 もちろん、隠蔽と防音結界を駆使して、同乗している人にはわからないようにした上で、だ。

「本当にごめんなさい。でも、銀貨5枚(5万円)以上稼がないと、妹の薬を貰えないんです。本当にごめんなさい」

 詳しい事情は分からないが、凡その事情はこの話だけで充分推測できる。

 そして、その推測はきっと当たっているだろう。

 ダラッシャー!!また俺の嫌いな理不尽な奴隷かよ!

 せっかく旅行……いや、知見を深める旅に来てこれか!本当にクズはどこにでもいやがる。

 いっそ、俺達アンノウンの全力で世界征服でもしてやろうか?

 いや落ち着け俺。こんな時は……そうだ、前世のハチを思い出せ!

「よし、大体事情は分かった。いくつか確認させてくれ。まず、君の主人はどこにいる?」
「この馬車の二台後ろの馬車にいます」

 なるほど、俺達と同じ入国待ちを装っているわけだ。クズは悪知恵だけは回りやがる。

「君の妹の居場所と、妹以外に理不尽な扱いを受けている人はいるかな?」
「妹も、二台後ろの馬車にいます。他の人については、わかりません」

「じゃあ、今馬車の中にいるのは、君の主と妹という事かな?」
「護衛の人が数人と、その仲間の御者の人がいます」

 なるほど、この子の妹以外は滅してOKという事だ。理解した。

「わかった。その主とやらは、君がこの馬車に来る事を知っているのかな?」
「いいえ、どの馬車でも良いので、入国前に銀貨5枚(5万円)以上持ってくるように言われています」

 既に涙を流しながら、必死で説明してくれているが、聞いているこっちの心が締め付けられそうだ。

 隣で聞いているNo.1アインスも、自分の事を思い出してしまっているのか神妙な面持ちをしながら、静かに俺とこの子のやり取りを聞いている。

「よし、じゃあ全て俺に任せてくれ。それで、君の妹の薬って、体が悪いのかい?」
「は、はい。薬を飲まないと、咳がずっと止まらないんです。僕、昨日は銀貨5枚(5万円)稼げなかったので、薬を貰えなかったから苦しんでいるんです。う~」

 耐えられなくなったのか、嗚咽を漏らして泣き崩れてしまった。

「大丈夫だ。落ち着いてくれ。君も妹も俺が絶対に助けてやる。絶対だ。俺を信じろ。その証拠に、今君の首には奴隷の首輪などついていない。確認したか?首輪も壊せる力を俺、そしてここにいるソラ(No.1アインス)は持っている。安心して待っていろ」

 一応、冒険者として馬車に乗っているので、今のやり取りを誰にも聞かれていないとしても、念のため偽名を伝えておく。

「ソラ(No.1アインス)、とりあえずこの子の妹をこっちに連れてきてくれ。一応穏便にな?それと、奴隷の首輪は破壊するが、首輪を破壊して逃走されたと思われたくないので、破壊後の首輪もきっちりと回収してくれ。頼んだぞ」
「お任せください、ジトロ様」

「じゃあまず君の傷を治して、少し食事をしようか」

 目の前に、アンノウンゼロが作った食事を出す。

 相当劣悪な環境にいたのか、心の底から食事を欲しているようだが、きっと妹が心配なのだろう。手を付ける事はしない。

 放心状態のこの子の傷は既に癒したが、これは妹も目の前で救った後でないと口にしそうにないな。

「お待たせしましたジトロ様」
「お疲れ。で、その子の病気は治したか?」
「はい、ですが、これは病気ではなく、毒ですね。鑑定で異常状態が確認されました。おそらくですが、与えられている薬と言うのが症状を継続させる薬なのではないでしょうか?」

 これだけの事をさせる連中だ。その程度の事はするだろうな。

 だが、ちょっとした時間の中で、既に妹を救い出してきたのは流石No.1アインスだ。

「ほら、妹もこの通り救ってきた。あの子の傷も病気も治っているから、二人で食事をすると良い」

 ありえない出来事が目の前で起きて、二人の兄妹はあっけに取られているが、やがて二人共に涙を流して抱き合っていた。

「昨日は薬をあげられなくてゴメンな。辛かったよな」
「ううん、大丈夫だよお兄ちゃん。私の為にやりたくもない事をさせられて、こっちこそごめんね」

 暫く二人でお互いの状態を確認しあっている兄妹。

 よほどお互いを心配していたのだろうな。良い兄妹だ。

 少々時間はかかったが、落ち着いた二人。

「あの、なぜ僕達にこれ程良くして頂けるのでしょうか?あなたの物を盗もうとまでしたのに」
「ああ、そんな事か?君はその行為、望んでしていたわけではないだろう?それに、君のように、家族を大切にする人は大好きだからな、手を貸してあげたくなるんだよ。でも、今はそれよりもこの食事を妹と食べなさい」

 妹は既に食事から目を離せない状態になっている。

 ここまで追い込んだ連中は許せないが、可愛らしい子だ。

「で、でも。このまま入国すれば、この馬車の中も調べられます。門番はあいつ等とグルなんです。もし僕達がここにいるのを門番が見つければ、あなたもひどい目にあってしまいます」

 あ~あ、せっかく良い気分で知見を……いや、もう観光で良いや、観光できるかと思ったのに、この国もクズばかりか?

 だけど、こんな状態でも俺達の心配をしてくれる人もいるんだ。
 判断するには早計だな。

「君は優しいんだな。でも全く問題ないぞ。さっきも言っただろ?奴隷の首輪を破壊できるほどの力を持っているんだ。それに、傷や妹の病気も治っているだろ?そんな俺達が力を使えば、君を隠す事なんて簡単だよ。実際、今この馬車にいる他の人達には君達の存在はバレていないからね」

 信じられない様な表情をするので、馬車の様子を少しだけ確認できる状態にしてやる。

 まだ心の底から安心しているわけではないが、信じざるを得ないのか、少し大人しくなる。

「さあ、君が食べないと妹も食べられないんだぞ?温かい内に食べなさい」
「ありがとうございます。頂きます!!」

 ようやく食べてくれる二人。見たままではあるが、かなりお腹がすいているようで、ものすごい勢いで食べている。

 まるで、報酬として俺と夕食を共にしている時の一部のナンバーズのようだ。

 この子達は、既に馬車の中や馬車の外からは完全に遮断しているので、見つかる事もなければ、この子達が外の様子を知る事もない。

 なぜそこまでしたかと言うと、実際馬車の外がかなり騒がしくなっているからだ。

 間違いなく、二台後ろの連中が騒いでいる。

 既にその中の数人が馬車から降りて周りを探索し、一人は門番の方に急ぎ向かっている。

 きっと、入国時の検査を厳しくして、いつの間にかいなくなっているこの子達を探させるのだろう。

 だが、この時点で門番がグルという事は確定してしまった。

 既に俺達は、自分自身に関係する一切の力を制限して普通の冒険者として馬車で入国を待っている。もちろんあの兄妹の隠蔽についてはそのままだ。

「なあソラ(No.1アインス)、どうしてどこもかしこも、こんな奴らがいるんだろうな?」
「ジトロ様の仰る通りです。ですが、私もですが、ジトロ様に救われている人々が沢山いるのです。我らは今もこれからも、あなた様の力となりますので、どうか元気を出して下さい」
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