上 下
69 / 179

工房ワポロと共に(1)

しおりを挟む
「それで、お前らは今日はどうするんだ?ワシはこの前ナップルの作品、模倣をさせてらった扇子の作成にもう少し力を入れたいのだが」
「そうですね、ナップルと同行するのはNo.10ツェーンで、バルジーニさんと一緒に俺はここに残りますよ」

 こうして、工房ワポロ一行に同行するのはナップルとNo.10ツェーンに決定した。

 ディスポもバルジーニも、ナップルの心配は一切していない。

 本人の強さもその要因の一つなのだが、更にナンバーズが護衛についているのだから、過剰戦力である事は理解している。

 No.10ツェーンの予想不能の行動だけは不安要素ではあるが、それを踏まえても問題ないと判断した。

「じゃあ気を付けて行って来いよ!戻ってくる頃には、ワシの修行の成果を見てくれナップル!」
「はい、わかりました。楽しみにしていますね。行ってきます!行きましょう、No.10ツェーンさん」
「はい、じゃあ皆さん、行ってきますね~」
No.10ツェーン、落ち着いて行動しろよ!」

 ディスポが念のためにNo.10ツェーンに釘を刺す。

 東門では、既に工房ワポロの人々がナップル達を待っていた。

「逃げると思っていましたが、きちんと来ましたか。あの生意気な坊主は来ていないようですね。何か裏工作でもさせているのですか?」

 相変わらず好戦的な工房長。

 彼の周りには子飼いの冒険者がいる。

 もちろんバリッジの息がかかっている者達だ。

 魔力レベルは全員8か9。

 工房長として、この一件に対する力の入れようが分かる。

「彼には店番をしてもらっているだけです。ウチの店はおかげさまで大繁盛ですので、バルジーニさん一人では捌ききれませんから」

 既にナップルも信頼できる仲間たちに囲われて生活しているうちに心の傷も完全に癒されている為、威圧されて怯えているような事はない。

「ナップルさんの言う通りですよ~。ナップルさんの作る魔道具は見た目も機能も素晴らしいですからね。でも忙しすぎると休憩が短くなるしお休みも取れないので、あなたのお店の様にまでとは言いませんが、もう少し暇になっても良いと思うのですが~、どう思いますか?」

 No.10ツェーンは嫌みではなく本当に思っている事を口にしただけなのだが、工房長にとってはナップルと同じく、“お前の店は暇なのに偉そうな事を言うな”と聞こえた。

「フン、お前の店の魔道具がまがい物だと知れ渡ってからも、同じ事が言えるといいですね?」
「え~、それじゃ、まがい物ではないので、お休みが取れないじゃないですか~?」

 更に煽る工房長だが、No.10ツェーンには一切効果がない。

 本心で答えているのだから、ある意味質が悪い。

「くっ、この馬鹿が。良いでしょう。こうしていても仕方がありません。行きますよ。遅れずについてくるように!」

 それだけ言うと、工房等は子飼いの冒険者達五名を引き連れて東の門を出て行く。

 工房長はその体に自ら作った魔道具、そしてバリッジから配布された魔道具を身に着けている。

 体の重さを軽減させる服、移動速度が上がる靴、防御力が上がるマント等々、まるで見本市のような状態だ。

 こうする事で、魔力レベル8か9の冒険者の動きについて行けるようにしていたのだ。

 工房長本人には大した力はないが、これでナップルについて来ているナナ(No.10ツェーン)と言う、工房ナップル所属となっている冒険者はさておき、ナップル自身はついてこられないだろうと踏んでいた。

 疲労困憊にさせた状態で魔獣に襲わせるか、子飼いの冒険者達に始末させるかはその状況で変えようと思っていたのだ。

 しかし、その思惑は当然外れる。

 アンノウンの二人にしてみれば、逆にこの冒険者や工房長を抜かさないように速度を調整する方に神経を使い、疲れている始末だ。

「あの~、工房長さん?もう少し早く行きませんか?これでは逆に疲れてしまいます~。それに、これだけ遅いと帰りも遅くなるので……私、早く帰っておやつを食べたいのです!」

 No.10ツェーンが、いつもの通りに思った事をそのまま口にする。

「はぁ?負け惜しみですか?本当にこれ以上の速さを出していいのですか?あなた達の為に少々遅くしていたのですが!」

 工房長の言っている事は事実ではある。

 付かず離れずの位置を調整しているつもりで、全力では移動していなかった。

 こうして相手の疲弊するぎりぎりの状態を見極めようとしていたのだが、逆に遅いと言われてしまったのだ。

「わかりました。そこまで言うのでしたら全力で行きますよ。あなた方から言ってきた事ですからね。ついてこられなくてはぐれた場合、良からぬ企みをするためにこちらを無駄にけしかけたと判断しますよ。覚悟しておきなさい。今更もう訂正は聞きません」

 言うや否や、工房著と冒険者達五名は全力で東の森の奥に向かって疾走し始めた。

 ギルドに登録している普通の冒険者であれば、まさに風のごとく移動していると言える程の速度で、ついて行くどころか、その姿を捕らえる事にも苦労する程だ。

 ナナ(No.10ツェーン)のせいで当初の目的を少々忘れて、熱くなっていた工房長。

「しまった。ナナ(No.10ツェーン)とか言うバカのせいで熱くなってしまいました。ですが、これでも良いかもしれませんね。必死でついて来て何れは見失う。いえ、既に見失っているでしょうが、その分疲労も蓄積されるでしょう。その時がチャンスです」

 あまり引き離してしまうと、その後の捜索が面倒だと考えた工房長は、少し速度を落とすべきかと思案していた。

 すると、後方からこんな声が聞こえてきた。

「え~、これが全力ですか?準備運動の更に前段階じゃないのですか?もっと早く行きましょうよ~」
「えっと、ナナ(No.10ツェーン)さん、きっとこの人達って、本当にこれが全力だと思うんですよ」
「まっさか~、ナップルさん面白い!あれほど自信満々だったのですから、そんな訳ないじゃないですか~。私をだまそうとしていますね?そうはいきません!!」

 工房長が身に着けている魔道具があればこそ、この高速移動でも会話を拾う事ができている状態ではある。

 その会話の中身は、ナチュラルに工房長を煽りまくっている内容だとしても……

「ば、おいお前ら、もう少し速度を上げるぞ!」

 何故かナナ(No.10ツェーン)に煽られると、直ぐに熱くなってしまう工房長。

 今でさえ息切れしそうなほど全力であるが、更に必死で速度を上げる。

 同行している冒険者達も、本気も本気。

 歯を食いしばるほどの全力を出した。

 最後の力を振り絞る位の速度を出した事により、速度が一段上昇した一行。

「ほら見てくださいナップルさん。私の言った通りです~。いよいよウォーミングアップの段階に入りましたよ!そして、この後が本番に違いありません!!」

 意気込むナナ(No.10ツェーン)と、哀れみを持った目で工房長一行を見るナップル。

 そして、その声がこの状態でも普通に聞こえる工房長。

 つまりどうやってもこの二人を撒けていないという事なのだ。

 工房長一行はいつの間にか方針が変わって、全力で二人を撒く事に力を注いでいたのだが、やがて力尽きる。

 先頭を必死で走る一人が足を取られて転倒すると、後ろに続く工房長を含む五人はそのままの勢いで転倒した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したら、ステータスの上限がなくなったので脳筋プレイしてみた

Mr.Six
ファンタジー
大学生の浅野壮太は神さまに転生してもらったが、手違いで、何も能力を与えられなかった。 転生されるまでの限られた時間の中で神さまが唯一してくれたこと、それは【ステータスの上限を無くす】というもの。 さらに、いざ転生したら、神さまもついてきてしまい神さまと一緒に魔王を倒すことに。 神さまからもらった能力と、愉快な仲間が織りなすハチャメチャバトル小説!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...