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拠点にて

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 一応方向性は決まったのだが、未だ色々文句?を言って来る工房長。

「そう言えばナップルさん、あなたの所の魔道具、どんな不良品かは分かりませんが、そのまやかしの性能を信じ込んだバイチ帝国にまで販売しようとしているようですな。いえ、既に販売しているのですか?今回、あなた方の魔道具の性能不備が原因と判明した場合、国家の信頼すら失いかねない。その責任はどうとるのですか?」

 通常では知り得ない情報を知っている工房長。

 この時点で、巨大な組織の力がチラついている事が確実になっているのだが、アンノウン以外にはわからない。

 だが、この工房長の言っている事が事実であれば、確かに工房通りの一つの工房の作品だったとしても、ラグロ王国の著名な通りに存在する工房の製品。

 交易の品としても使用しているほどの製品群なので、その魔道具に異常や公開している魔道具の性能に齟齬があるとすると、国家間の争いになりかねないのは事実だ。

「私の作った魔道具の性能に偽りは有りませんので、その様な余計な心配は無用です。そんな事より、ご自分の魔道具を心配された方が良いのではないですか?」

 ナップルが言っている工房長の魔道具とは、工房ワポロで販売している魔道具ではなく、あの新種のライチートを制御できなかった時の魔道具の事を言っているのだ。

 まさかそのよう事を言われているとは思っていない工房長。

「余計な心配ですな。あなた方の魔道具と違い、安心、安全、確実をモットーにしておりますので」

 普通に販売している魔道具の事だと思い、何の捻りも無い返事になっている。

「では、私は準備がありますのでこれで失礼しますよ。明朝、東の門でお待ちしています。夜逃げしないで下さいよ?ハハハハ」

 失礼な言葉を残しつつギルドから出て行く工房長と、その取り巻き一行。

 残されたのは、ギルドマスターと工房ナップルからの参加者だけになった。

「すまんな。彼らも優秀な鍛冶士なのだが、最近お前達の台頭によって利益を得ていないから気が立っているんだ。だが、冒険者達の安全の為に今回は協力しれくれないか?」
「もちろんです。お任せください」

 こうして工房に戻る二人。

 そこには、丁度調査から帰っていたNo.10ツェーンがいた。

「お帰りなさ~い。其方はどうでしたか?」
「いや、予想通り最悪でしたよ。いや、予想以上に最悪かな?」

 不機嫌そうなディスポ。

No.10ツェーンさん、お帰りなさい。それで、東の森はどうでした?」
「予想通り、新種のライチートが二体いましたね~。少しだけレベルが上がっているようですが、誤差の範囲です~。それで、残念ですが、冒険者達の亡骸も発見しました。間違いなくライチートに襲われています。その中には年齢の行った冒険者、プラロールさんでしたっけ?そのような方を見つける事はできませんでした~」

 最悪の事態の対処ができなかった事に顔を顰めるディスポとナップル。

 しかしこのまま放置すると今日も犠牲者が出る可能性があるので、即ギルドに舞い戻ってギルドマスターに改めて危険性を説明した。

「心配するな。新種の魔獣発現の可能性に気付かされてからは依頼を停止させているし、既に向かった冒険者達にも中止する様に伝令を出している」

 冒険者に寄り添っているギルドマスターは既に手を打っていた為、そこだけは安心して工房に戻った。

 確かに、最初に工房に戻っている最中に爆音と共に真っ赤な狼煙が上がっていたのだ。

 これが、この国のギルドにおける緊急事態、つまり、全ての依頼を中止して帰還するような合図なのだ。

 冒険者ではないディスポとナップルはその事を知らなかったし、No.10ツェーンがそんな事をまともに覚えているわけがなかった。

「それでどうするナップル?この際、ジトロ様に許可を取ってからにはなるが、ワポロを直接潰すか?」
「あっ、楽しそうですね~。賛成です~。今から行きましょうか?」

 やけに好戦的なディスポと、あまり深く物事を考えていないNo.10ツェーンが動き出しそうになるので、必死で止めるナップル。

「ちょっと待ってください、ディスポさんにNo.10ツェーンさんまで。このまま潰してしまうのは簡単ですし、私もあの男は許せませんけど、もう少しバリッジに関する情報を得られるかもしれないんです。とりあえずジトロ様には、明日調査に向かう冒険者達の安全確保だけ助力頂いて、工房長は捕縛しましょう」

 渋々鉾を収めたディスポとNo.10ツェーン

 そもそも、 工房ワポロの工房長がバリッジと繋がっている事は確定しているのだが、当初の目的は、ナップルに対して非道な行いをした工房通り全ての工房に対する制裁だ。

 その過程でバリッジの影が見えてしまったので、意識がそちらに向きすぎてはいる。

 だが、熱くなってしまっているディスポにはわからないし、No.10ツェーンは冷静な状態でもわかっているかは怪しい。

 こうして、なぜかナップルが必要以上に気を使いながら作戦を進める事になった。

 夜になり全員が拠点に帰還する。

「ナップル、なんだか疲れているみたいだけど大丈夫ですか?」

 既に拠点のご意見番的な立ち位置になっているイズンが、ナップルを見てすかさず声をかける。

 彼はアンノウンの中では唯一常に拠点で活動をしているので、帰還した者達の体調などのチェックも自発的に行っている。

「あっ、イズンさん。大丈夫です。ディスポさんとNo.10ツェーンさんに振り回されたわけではありませんから!」

 無意識ではあるが、しっかり振り回されたと伝えているナップル。

 少々ため息をつきながらナップルの肩を軽く叩いて労うイズン。

「ある程度の話は聞いていますよ。ナップル達が向かう東の森以外の冒険者達には、ナンバーズが対応するそうです。既にジトロ様の許可も取っているので、今日はこのまま温泉にでも浸かって休んでください」

 ……私はディスポとNo.10ツェーンに説教がありますから……

 最後の言葉をとても小さい声でつぶやきつつこの場を離れるイズン。

 もちろんナップルには聞こえてしまっている。

 イズンの暖かい心遣いに感謝しつつ、指示通り温泉に向かって精神的・肉体的な疲れを癒して眠りについたナップル。

 翌朝すっきりした状態で食堂に行くと、明らかに元気がなくなっているディスポとNo.10ツェーンが互いを慰めあう様に寄り添っていた。

「お、おはようございます。お二人とも、どうしたのですか?」
「ナップル、済まなかった。俺は今後もう少し冷静になるから、イズンに経済制裁(お小遣い停止)を解除するように言ってくれ!」
「本当ですナップルさん~。良く分かりませんけどイズンさん、とっても怖かったんです~」

 ナップルに必死で懇願する二人。

 昨日の夜、ナップルの状態を確認したイズンは当然この二人に雷を落として経済制裁を発動した。

 その衝撃で、二人はこのように燃え尽きた状態になってしまっていたのだ。

 何とも緊張感のないアンノウンだが、ナップルにはとても心地良く、心から信頼出来て安らげる場所となっていた。

 一時期地獄を見ていたナップルにとって、この場所は何としても守らなくてはならない場所になっていた。

「フフフ、わかりましたよ。後でイズンさんに伝えておきますね」
「やったぜ~」
「やりましたね~」

 ナップルの進言をイズンが素直に受けるかどうかは別なのだが、こうして元気を取り戻したディスポとNo.10ツェーン、そしてバルジーニと共にラグロ王国の工房通りにある工房ナップルに転移した。
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