上 下
23 / 179

騎士隊長ナバロン(1)

しおりを挟む
 私はバイチ帝国の騎士隊長であるナバロンだ。

 今回は、表向きはハンネル王国へ果物の交易の活発化の相談と言う形で訪問している。

 その為にかなり赤字にはなったが、上流階級限定で、我らの特産品を行商人を通して販売していた。

 しかし、実際の訪問の目的は違う。

 この国は、今まで奴隷制度を受け入れていた国家だが、行商人から得た情報では、以前は近隣の森で無残な姿になった奴隷を発見していたが、最近はそのような事はないと聞いていたので、ようやく改心したのかと思い、視察に踏み切った。

 実際の所、私が知る限りで、犯罪奴隷以外の奴隷を厳しく禁止しているのは、我がバイチ帝国だけだ。

 我らと志を共にする国家が現れたかもしれないという期待から、進行速度も速くなってしまう。

 今の所、理不尽な奴隷を発見する事はなく、順調に移動できている。

 いや、しかしスミルカの町の宿は素晴らしかったな。

 そして、そこを薦めてくれたジトロ副ギルドマスター補佐心得には感謝しかない。

 少々役職名が長いが、あれほどのやり手だ。

 そう時間がかからずに、ギルドマスターになれる事だろう。

 彼には、我がバイチ帝国にも同じような風呂を建設する際には、是非有益なアドバイスを貰う必要があるので、王都での仕事を終えた後には再びスミルカの町に寄り、再度助力の確約を得ようと思っている。

 宰相であるアゾナも、私以上にあの風呂を気に入り私の意見に賛成しているので、早くハンネル王国への謁見を終わらせて、王都での視察をして、スミルカの町に向かいたいものだ。

 だが、我らの護衛だか、案内をしている、このドストラ・アーデと言う男はいただけない。

 いちいち行動が気に障るし、言葉の節々に特権階級である事を匂わせる発言がある。

 特に、平民が……と言う言葉が多いのが気になって仕方がない。

 この時点で、正直に言うとハンネル王国への期待は無くなってきている。

 それに、何か胡散臭いのだ。

 これは勘による所で根拠はないが、信頼するに値しない男であると判断した。

 きっと、当然私よりも切れ者の宰相も、同じ感想を持っているだろう。

 あのドストラ・アーデと言う男の部下であろう、他の騎士達への当たりも惨い物で、見ているこちらがイライラする。

 しかし、あの男はそれに気が付いておらず、我らすら見下している感がある。

 しかも、この男があのジトロ副ギルドマスター補佐心得の上司であり、ギルドマスターだと言うのだ。

 ジトロ殿も苦労が絶えないだろう。

 ひょっとしたらその気苦労を癒す事を考えた結果、あの素晴らし風呂が出来上がったのかもしれない。

 色々な考察にふけっていると、突然目の前に覆面のような物をした者達が現れ、我らの進行方向を塞いだ。

 当然我らは停止せざるを得ず、覆面の集団……と言うには人数が少ないか……覆面をした三人に文句を言うために、ドストラ・アーデが先頭に移動した。

 あの三人は、体つきは女性だな。

 だが、油断はできない。

 私の長年の勘がそう言っている。

 かなりの手練れである事は間違いないだろう。

 その覆面の先頭にいる者は、どこから出したのか、見た事もない魔獣をドストラ・アーデの目の前に放り投げた。

 まさか、あれは魔法による収納か?

 そういえば、こいつらは何の気配もなく突然現れたな。

 この世界最大の魔力レベルと自負している私でも、遠距離の転移などはできない。

 きっと、あの覆面達も隠密か何かで気配を消して、我らの前に急に現れたように見せたに違いない。

 だが、そうなると、素晴らしい技術の持ち主だ。

 流れるような魔力レベルの移行技術……この私でも、あそこまでの域には達していないかもしれない。

 通常、魔力レベルに応じた魔法を行使できるが、例えば覆面達が使っていたであろう隠密を使っている最中は、他の魔法は使えない。

 魔法を解除し、再度異なる魔法の行使のために魔力を振り分けるのだ。

 今回で言えば、恐らく収納魔法だろう。

 この一連の流れが速すぎる。

「あなたがこの魔獣を差し向けたので間違いないですね?ギルドマスターのドストラ・アーデ!」

 突然、魔獣を放り投げた覆面が話す。

 内容を理解するのに少々時間がかかったが、慌ててドストラ・アーデを見ると、驚きの表情から徐々に悪人面に変わっていった。

 こいつは、黒だ。確信できた。

 私と同じ判断をした部下達も、覆面とドストラ・アーデから距離を取り、馬車を中心に守りを固める。

「お前らは何者だ?ギルドマスターである、この私にも情報が入ってきていない存在。さっきの収納魔法の制御を見るに、かなりのレベルにいるはずだが、そんな奴らは冒険者として登録されていない!」
「そんな事はどうでも良いでしょう?なぜあなたは新種の魔獣を使ってまで、バイチ帝国の宰相を亡き者にしようとしたのですか?誰の命令ですか?」

 何?聞き捨てならない。我が国家の宰相を暗殺しようとしただと?

 周りの部下である騎士達にも緊張が走っているのが分かる。

 すでに、何名かは抜刀している。

「貴様、なぜそこまで知っている。どこでこの機密情報を手に入れた!!」

 こいつ、やはり我らの敵か!

 こいつが連れてきた騎士達が敵になると、少々面倒だ。

 こいつらの魔力レベルは低そうだが、数が我らの倍はいる。

 注意深く周りを警戒する。

 が、どうやらこの心配は杞憂だったようだ。

 この場にいる騎士達も、隊長であろうドストラ・アーデの言葉に動揺しているからだ。

「そちらにいるバイチ帝国の方々、私達は貴公達の敵ではありません。これから我が主の命により、このドストラ・アーデを捕らえるので、おとなしくして頂けますか?」
「し、承知した」

 突然振られて驚いたが、何とかまともに返事ができた……か?

「ハハハハ、どこの馬の骨ともわからない身の程知らずが、少々魔法の行使が上手いからと調子に乗って、力量を見誤ったか?確かにお前らが得ている情報から察するに、すさまじい情報収集能力だ。おそらく、普段の私の行動も監視されていたのだろう。だが、普段のギルドマスターとしての行動は、常に我が力を隠し続けていたのだ。この力を見て、まだそのような夢物語を語れるか?」

 このドストラ・アーデ、初見では雑魚かと思ったが、確かに強い。

 徐々に魔力レベルが上昇しているようだ。

 これは、偽装でもしていたか??

 ……どこまで上昇するのだ?

 こ、これは……最強を自負していた魔力レベル10の私よりも明らかに強い!!

 この世界では、魔力レベル10が上限ではなかったのか!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したら、ステータスの上限がなくなったので脳筋プレイしてみた

Mr.Six
ファンタジー
大学生の浅野壮太は神さまに転生してもらったが、手違いで、何も能力を与えられなかった。 転生されるまでの限られた時間の中で神さまが唯一してくれたこと、それは【ステータスの上限を無くす】というもの。 さらに、いざ転生したら、神さまもついてきてしまい神さまと一緒に魔王を倒すことに。 神さまからもらった能力と、愉快な仲間が織りなすハチャメチャバトル小説!

処理中です...