上 下
5 / 179

ジトロ独立

しおりを挟む
 父さんと母さんに庇護される生活を続けていたが、いよいよ俺も独り立ちをする年齢になっていた。

 そう、十二歳。

 前世の記憶を持つ俺としては少し早い気がするのだが、そんな事を言っても仕方がない。

 それに、父さんと母さんには言えないが、既に六歳の時から俺は暗躍していた。

 母さんを襲った魔獣、そして討伐隊のかなりの人数を亡き者にした魔獣。

 きっと魔力レベルが10に近いか、それ以上だったのだろう。

 神様によれば、この辺りにはそんな魔獣はいないと言っていたはずだ。

 その原因がわからないと、今後父さんと母さんにも危険が迫るかもしれないと考えたのだ。

 俺は、初めに母さんが襲われた場所、父さんと母さんの狩場に移動した。

 もちろん魔法を使った転移だ。

 そして、魔獣の情報が残っていないか探ったのだが、いくら魔法を使用しても、時が経ち過ぎていたので、何の情報も得る事はできなかった。

 流石の俺も、時間を巻き戻す魔法は使えない。

 その後も森をあてもなく彷徨っていた時、進行方向にある木の下で、今にも消えそうな存在を感知した。

 明らかに魔獣ではないので、駆け寄って確認すると俺と同じ位の子供。

 よく観察すると、やせ細り、所々殴られたような跡、そして首には奴隷の首輪……

 はっきり言って、俺は奴隷が許せない。

 奴隷自体が許せないのではなく、奴隷制度自体が許せないのだ。

 これは前世の記憶があるからだろうか、人を人とも思わない行動に対して嫌悪感しかない。

 先ずはこの少女を癒す。

 周りの気配に注意を払いつつ、癒しの魔法を発動する。

 この時点で既に並列処理を習得しており、気配察知を使っているので、俺が力を行使している場面を誰かに見られている事はない。

 ついでに言うと、隠密まで使用しているので万全だ。

「う~ん。はっ、申し訳ありません。お許しください」

 傷が治った少女、とは言っても俺と同じ年代だが、何かに怯えて謝罪を始める。

 その体は、恐怖からか小刻みに震えている。

 その姿を見て怒りが収まらないが。何とか気持ちを落ち着かせつつ、収納魔法から食料と水を取り出して与える。

「俺は怪しい者じゃないし、君を傷つけるような愚か者でもない。どうか信じて欲しい」

 少女の目は、恐怖からか涙目となっているが、俺が差し出している食料と水に釘付けになっている。

「さあ、遠慮なくどうぞ」

 食料と水を持つ手を少しだけ彼女の方に出すと、恐る恐ると言った感じで彼女は受け取ると、こちらを上目遣いで不安そうに見てきた。

「さあ、食べると良いよ。もし足りなかったら言ってくれ。っと、そうか、俺も一緒に食べようか。その方が食べやすいもんな」

 同じ食料を再び出して、食べ始める。

 その姿を見て、少女も食事を口にしてくれた。

 俺は一安心した。

 この後は、少し落ち着かせた後に事情を聞いて、もちろんふざけた奴隷の首輪の破壊だ。

 だがこの奴隷の首輪、奴隷が高値で売買されているだけあって、かなり高度な技術が使われている。

 もちろん奴隷が逃げないように、主人に反抗できないように、逃亡時には居場所がわかるように、首輪を外そうとできないように、様々な機能が付与されているのだ。

 特に、主人の許可なく首輪を外そうとすると、奴隷自体が命を落とす可能性が高い。

 実はこの情報、俺が暗躍を始めた頃、この世界の状況を具体的に知るために、隠密を使用して色々な場所に出入りして直接仕入れた情報だ。

 奴隷の情報のように嫌悪しか湧かない情報もあれば、魔獣に関する有益な情報もあった。

「ありがとうございます。私なんかの為に貴重な食事を下さって、感謝しかありません」

 どうやら少し落ち着いたようだ。

「いや、そんな大した事じゃないよ。それより、なんでこんな所に一人でいたのかを聞いても良いかな?」

 少し逡巡する表情を見せたが、食料をくれた大恩人とでも思ってくれたのか、意を決した表情で話始めてくれた。

「あの、私は気が付いたら奴隷になっていたのですが、魔力の使い方があまりにも下手で、戦闘時の補助や囮として使えない、と、私を購入したパーティーに捨てられたのです」

 ぐぁ~!!!こん畜生が!!!ダラッしゃー!!!!!

 怒りが収まらない。落ち着け俺、落ち着け俺。そうだ、ハチを思い出せ。

 俺に力を貸してくれ……フゥ~、深呼吸、深呼吸。

 何とか怒りによって震える拳を押さえつけた後、痙攣している頬も強引に手で押さえる。

 そして、彼女が安心するような笑顔を向けて話す。

 若干怯えた表情をしているように見えるのは、気のせいに違いない。

「そ、そうだったんだな。ふ~、ホントふざけた奴らだ。どうだろう、もし君さえよければ俺の仲間にならないか?食事や住む所は提供できるし、君さえよければ、力をつける手助けもできる」
「え、貴方様は貴族の方ですか?そんなに簡単に住む場所まで提供して頂けるとか……そんなお方に、私なんかがお世話になる訳にはまいりません」

 全くこの娘は。

 自分の事をもう少し大切にした方が良いな。

 と思いつつ、鑑定の力を使って首輪の詳細を確認する。

 すると、魔力レベル8の技術で作られている物で、それ以上の魔力を首輪が耐えられなくなる程に一気に流すと、無事に破壊できる事が分かった

 つまり、首輪が耐えられる魔力以上の魔力を一気に流せば良いと言う事だな。

 そうでないと、首輪が奴隷に対して攻撃を仕掛けてしまうので一気に行う必要があるらしい。

 俺は彼女にそっと近づき、首輪に軽く触れる。

 万が一の事を考えて、回復も即起動できるようにした状態で一気に魔力を流す。

 正直、魔力レベル8とか言われても、どの程度が8なのか俺にはわからないので、少しだけ強めに魔力を流し始めた瞬間に首輪は粉々に砕け散った。

「えっ、なんで首輪が取れるんですか?」

 彼女は呆然としている。そして俺も呆然とした。

 この程度で簡単に壊れるのか。とすると、俺には魔力レベル8とか微妙な調整はできないのかもしれない。

 奴隷の首輪の破壊状況から、今流した魔力もレベル10は軽く超えていると思えるからだ。

 まあ、細かい調整は追々考えるとして、今は彼女だ。

「これで君は自由だ。だけど、さっきも言ったけど、君自身に何か目標があるのであれば止めないが、何か不安があったり、生活基盤を整えるのであれば力を貸すよ」

 食事と水、挙句に奴隷の首輪まで破壊した俺に対する警戒は一気になくなったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したら、ステータスの上限がなくなったので脳筋プレイしてみた

Mr.Six
ファンタジー
大学生の浅野壮太は神さまに転生してもらったが、手違いで、何も能力を与えられなかった。 転生されるまでの限られた時間の中で神さまが唯一してくれたこと、それは【ステータスの上限を無くす】というもの。 さらに、いざ転生したら、神さまもついてきてしまい神さまと一緒に魔王を倒すことに。 神さまからもらった能力と、愉快な仲間が織りなすハチャメチャバトル小説!

処理中です...