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商人とグアトロ王国へ(2)

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「り、リージョ殿……何故突然グアトロ王国へ?」

 入国時の検問でベンゾンと共に審査を受けて冒険者カードを提示した際に、安全の為に“黒套のリージョ”のふりをしている人物だろうと思って油断していた門番は、本物の“黒套のリージョ”だと理解すると理由は不明だが少々震える声で入国理由を聞いている。

「ベンゾンさんの護衛と、今回の納品について説明したいので同行した次第ですよ」

 フードを外して顔を見えるような状態で、丁寧に説明するリージョ。

「そうですか。確かにベンゾン殿はダンジョン町へ商売をしに行っていますね。わかりました。どうぞお通り下さい。っと、そうだ!もしよろしければ、私が町をご案内いたしますか?」

 ベンゾンの持つ商人としての証明書を見た門番はそのまま二人をグアトロ王国へ招き入れるかと思いきや、何故か案内しだすと言い出したのでベンゾンが柔らかく断る。

「いいえ、リージョ様はこれから私と共に競りの会場に向かっていただく必要がありますので、案内は私の方で対応いたします。ご配慮感謝します」

 どうやらこの門番はリージョを始めとしたクロイツ一行のファンだった為に単に共に行動したかっただけの様で、少し残念そうな表情をしながらも大人しく引き下がる。

「あの、英雄のナントカと言う者も、あれほど素直な人材であれば縁があったのかもしれませんね」

 ダンジョン町を出立直後に出会った、どこぞの元伯爵家の冒険者と比較して思わずリージョが呟いてしまうのを聞いたベンゾンは、苦笑いのまま馬を進める。

「ところでベンゾンさん。私は商人の方が行う競りに参加した事が無いのですが、私もこのまま中に入れるのでしょうか?それと、今回の目的である魔核の説明はどのようにすれば……落札者に後ほど直接接触する方が良いのでしょうか?」

「そうですね、参加は誰でも問題ないのでそのまま会場に共に入って頂ければと思います。出展者は事前に競りを行っている元締めの所に行く必要があります。商品の鑑定も必要になりますので……その際に魔核について説明をして頂いて、競りの際に参加者全員に周知してもらう方が宜しいかと」

 リージョは復讐のための行動ではなく、表の立場として一般の生活を体験できる事を非常に楽しく感じており、今回競りと聞いて内心興奮している。

「では、早速商品の出店準備をしましょうか」

 大きな建屋の中に直接荷馬車のまま侵入し、非常に大きな机が置いてある場所に止まって馬車から降りるベンゾンとリージョ。

 この場の者達は、周囲に黒や白の外套を羽織った者達が多数いるので、目の前の黒い外套を羽織ってフードも被っている人物がSSランカー“黒套のリージョ”本人であるとは誰も思っていない。

「よっ、今日もいつものダンジョン町で良いんだよな?ベンゾン!お前さんが持ってくる素材はいつも質が良いからな。高値で売れるので、応分の手数料を貰えるこっちもありがたいってもんだ。で、今日はいつもの食料や種、鉱石と言った所か?それとも、魔獣の素材もあるのか?」

 ベンゾンと顔見知りなのか軽く話している職員だが、この男でさえ、ダンジョン町で行商をしていると知っているベンゾンと共に来た男がリージョ本人とは思わず、寧ろ実際にリージョが拠点としている場所で活動をしているので“はったり”が効きやすくなるので真似をさせているのだろうと思っている。

 それほどSSランカーは特別な存在なのだ。

「実は、今日は少々特殊な事情がありまして……」

「ん?どうした。随分と歯切れが悪いな。ベンゾンらしくない」

 普段納品の際には職員達が荷台から荷物を机に移動してくれており、事実今もそうなのだが……何故かベンゾンの手には布がかけられている状態の大きな何かが抱えられているので、職員の視線はそこに集中する。

「実はこれ、魔核なんですよ」

「そうか、あの三人が治める町で得た魔核か。あそこのダンジョン産出だろうな。そうなると、相当期待できそうだ。Bランク相当……いや、Aランク相当も期待できそうだが、どうだ?」

 普通魔核を手に入れるには魔獣を始末するほかなく、致命傷を心臓部である魔核以外で何とか仕留めなければ、魔核の価値は大きく下がる。

 当然そのように対処できる魔獣のランクは低ランクばかりであるのだが、それであっても魔核は非常に重宝されるので、冒険者、特に低ランクの冒険者達の良い食い扶持になっている。

「いいえ、実はSランク相当なのですよ。それで、この件で競りの前に説明して頂きたい事がありまして……」

「え、Sランク?ま、まぁ、あの町ならば有り得なくもないかもしれないが……多少傷がついて劣化していても、相当な値が付くだろうな」

「……あの、完全状態なのですよ」

 ここまで一言も話さずに黙って二人のやり取りを観察しているリージョだが、このやり取りも競りの一部と認識しており、フードの中の表情は楽しげだ。

「そ、そうか。で、説明とは?」

 流石は熟練の職員だけあって多少の動揺は有れ、取り繕って話を進める。

「この魔核、そうそう納品できるものではないのですよ。ですから、今回の納品によって変に期待されては困ると言う所を説明頂きたいと思いまして」

「それはそうだろう!いくら何でも無傷のSランク相当の魔核をホイホイ納品できるなんてあり得ないのだが……わかった。一応しっかりと説明しよう」

 実際は楽に生産できると知っているリージョだが、次は実際の競りだと心はここにはない。
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