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リサの爆発と思わぬ幸運(1)
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「ただいま戻りました、師匠、お兄ちゃん。“深淵の森”にナスカ王国側から侵入して結構深くまで潜りましたけれど、SランクどころかAランクの魔獣すら見かけなくなりました。良い事ですが、何故でしょうか?」
「ん?ま、推測にはなるが、脅威とみなされていたSランク魔獣が始末された事もあるし、ナスカ王国側ではAランカー共が暴れた事もあるだろう?そのせいで危険を察知した魔獣が結構奥に向かって離れて行ったんじゃねーの?」
魔獣が何を考えているかなどわかりようがないので、こればかりはクロイツでも推測の域を出ないのは仕方がないのだが……実際はメバリアの護衛についているポチが手配した狼の魔獣によるもので、人知れずに夜に“深淵の森”のナスカ王国側をパトロールした結果、その存在を感じ取った上位ランクの魔獣が恐れて逃げて行ったのだ。
真実はどうあれ“師匠大好き病”のリサにとってみれば、クロイツの言葉は全てが肯定の対象になる。
「そうかもしれませんね。そう言えばメバリアさんが時折私が聞いた事もない様な国から色々言われているので、一度師匠と相談したいと言っていました。ところで師匠とお兄ちゃんは、昨日の晩は大人しくしていましたか?」
大切な情報を伝えた直後に脈絡もなく突然鋭い所をついて来るリサ。
ある意味裏の世界に長くいたリージョは表情や態度に変化はないのだが、逆に王族と言う表の世界にいたクロイツは若干の動揺が見られてしまう。
その僅かな動揺を見逃すリサではなく、更にそのリサの変化を見逃すわけがないクロイツ、リージョ、そしてポチだ。
ポチはこれまでの所は我関せずと言った態度だったのだが、何時自分に飛び火するかわからない状況に急変したのでさっさと転移でいなくなり、このポチの行動を見たリサが確信を得てしまったようで、今までの笑顔が一瞬で消えて正面にいるクロイツとリージョにゆっくりと近接する。
「フフフ、私が不在の短い時間で何か羽目を外したみたいですね。師匠、お兄ちゃん?」
これも長年の経験から、変に言い逃れをすると更に悪い方向に行ってしまい収拾がつかないと理解できているクロイツとリージョなのだが、何をどう説明すればよいのか良い案が思いつかない。
リージョとしては師匠であるクロイツに元気を出して貰いたい為の行動なのだが、そこを具体的に本人の前で言う訳にはいかないと言う思いがあり、クロイツとしては単純にテンパって何をどう言えば良いのかわからなくなっている。
「相当やましい事があるみたいですね?この私の目を誤魔化せると思いましたか?」
実際の実力で言えば、如何にSSランカーであるとは言えクロイツの足元にも及ばないのだが、“師匠大好き病”で強化されているリサの勢いに完全に飲まれてしまっているクロイツ。
「ま、待て、リサ。俺は、いや、俺達は何もやましい事はしちゃいねーよ。な?リージョ」
ここでリサの対象が自分一人になるのを殊更避けたかったクロイツは、敢えてリージョを巻き添えにするように持っていく。
小さいと言われようが何だろうが、この窮地を乗り越えるにはこの手しかないと思っており、実の兄であるリージョが上手く説明してリサを落ち着かせてくれると期待していたのだ。
「そ、そうですよ、リサ。先ずは落ち着きましょうか。私達は少し男の語らいと言いますか、親睦を深めるために少々お酒を嗜んだだけですから」
「ふ~ん、お兄ちゃん。なんで目を合わせて話をしないのかしら?やっぱり怪しいですね?」
流石のリージョも圧に負けて視線を少々逸らして話してしまったものだから、絶望感に襲われる。
……ポタッ……
クロイツとリージョが無意識のうちに汗を地面に垂らした音が聞こえた瞬間、リサから一気に走って逃げる二人と追うリサと言う構図が出来上がった。
ダンジョンの中では転移を使う事が出来ないので、クロイツを含めて三人がその実力を無駄に如何なく発揮して上層階に向かっており、深層の魔獣達は知能が相当高いのでこの三人の近づく気配を関知した瞬間に経路から外れるように身を潜めている。
「二人共、待ちなさい!!」
「し、師匠!何とかしてください。あの勢いだと、私まで始末されそうですよ!今は何とか同じような強さを手に入れていますが、正直まだリサの方が強いのです」
「バ、バカ言うな。俺だって命は惜しい。あの状態を何とかするなんざ、どうあっても無理じゃねーかよ!」
階層によってはマグマや視界を完全に奪う異常状態を与える霧、凍え死にそうになる氷雪と言った環境になるのだが、そんな事はお構いなしに超高速で移動している中でも互いに話せる所は流石の猛者なのだが……
この追いかけっこの中で何とかリージョとクロイツは結論を出した。
やはり圧倒的な強さを持つ、即ち防御力が高いクロイツがリサの怒りのマグマの放出口になるべく一撃を食らう事はやむなしと言う結論に達したのだ。
「師匠……骨は私が責任をもって拾いますから」
「縁起でもねー事を言うんじゃねーよ。実現しそうで恐ろしいじゃねーか!」
間もなく三階層に突入するのだが、この階層では知能は高いが深層と比べると遅く動く魔獣しかおらず、結果時折クロイツとリージョの逃走の邪魔になっており、一応自分達が住んでいるダンジョンと言う思いから避けて逃げている二人はその隙にいつの間にかリサに追いつかれる。
「し・しょ~!!待ちなさいって言っているでしょうが!!」
……ドゴン……
「ん?ま、推測にはなるが、脅威とみなされていたSランク魔獣が始末された事もあるし、ナスカ王国側ではAランカー共が暴れた事もあるだろう?そのせいで危険を察知した魔獣が結構奥に向かって離れて行ったんじゃねーの?」
魔獣が何を考えているかなどわかりようがないので、こればかりはクロイツでも推測の域を出ないのは仕方がないのだが……実際はメバリアの護衛についているポチが手配した狼の魔獣によるもので、人知れずに夜に“深淵の森”のナスカ王国側をパトロールした結果、その存在を感じ取った上位ランクの魔獣が恐れて逃げて行ったのだ。
真実はどうあれ“師匠大好き病”のリサにとってみれば、クロイツの言葉は全てが肯定の対象になる。
「そうかもしれませんね。そう言えばメバリアさんが時折私が聞いた事もない様な国から色々言われているので、一度師匠と相談したいと言っていました。ところで師匠とお兄ちゃんは、昨日の晩は大人しくしていましたか?」
大切な情報を伝えた直後に脈絡もなく突然鋭い所をついて来るリサ。
ある意味裏の世界に長くいたリージョは表情や態度に変化はないのだが、逆に王族と言う表の世界にいたクロイツは若干の動揺が見られてしまう。
その僅かな動揺を見逃すリサではなく、更にそのリサの変化を見逃すわけがないクロイツ、リージョ、そしてポチだ。
ポチはこれまでの所は我関せずと言った態度だったのだが、何時自分に飛び火するかわからない状況に急変したのでさっさと転移でいなくなり、このポチの行動を見たリサが確信を得てしまったようで、今までの笑顔が一瞬で消えて正面にいるクロイツとリージョにゆっくりと近接する。
「フフフ、私が不在の短い時間で何か羽目を外したみたいですね。師匠、お兄ちゃん?」
これも長年の経験から、変に言い逃れをすると更に悪い方向に行ってしまい収拾がつかないと理解できているクロイツとリージョなのだが、何をどう説明すればよいのか良い案が思いつかない。
リージョとしては師匠であるクロイツに元気を出して貰いたい為の行動なのだが、そこを具体的に本人の前で言う訳にはいかないと言う思いがあり、クロイツとしては単純にテンパって何をどう言えば良いのかわからなくなっている。
「相当やましい事があるみたいですね?この私の目を誤魔化せると思いましたか?」
実際の実力で言えば、如何にSSランカーであるとは言えクロイツの足元にも及ばないのだが、“師匠大好き病”で強化されているリサの勢いに完全に飲まれてしまっているクロイツ。
「ま、待て、リサ。俺は、いや、俺達は何もやましい事はしちゃいねーよ。な?リージョ」
ここでリサの対象が自分一人になるのを殊更避けたかったクロイツは、敢えてリージョを巻き添えにするように持っていく。
小さいと言われようが何だろうが、この窮地を乗り越えるにはこの手しかないと思っており、実の兄であるリージョが上手く説明してリサを落ち着かせてくれると期待していたのだ。
「そ、そうですよ、リサ。先ずは落ち着きましょうか。私達は少し男の語らいと言いますか、親睦を深めるために少々お酒を嗜んだだけですから」
「ふ~ん、お兄ちゃん。なんで目を合わせて話をしないのかしら?やっぱり怪しいですね?」
流石のリージョも圧に負けて視線を少々逸らして話してしまったものだから、絶望感に襲われる。
……ポタッ……
クロイツとリージョが無意識のうちに汗を地面に垂らした音が聞こえた瞬間、リサから一気に走って逃げる二人と追うリサと言う構図が出来上がった。
ダンジョンの中では転移を使う事が出来ないので、クロイツを含めて三人がその実力を無駄に如何なく発揮して上層階に向かっており、深層の魔獣達は知能が相当高いのでこの三人の近づく気配を関知した瞬間に経路から外れるように身を潜めている。
「二人共、待ちなさい!!」
「し、師匠!何とかしてください。あの勢いだと、私まで始末されそうですよ!今は何とか同じような強さを手に入れていますが、正直まだリサの方が強いのです」
「バ、バカ言うな。俺だって命は惜しい。あの状態を何とかするなんざ、どうあっても無理じゃねーかよ!」
階層によってはマグマや視界を完全に奪う異常状態を与える霧、凍え死にそうになる氷雪と言った環境になるのだが、そんな事はお構いなしに超高速で移動している中でも互いに話せる所は流石の猛者なのだが……
この追いかけっこの中で何とかリージョとクロイツは結論を出した。
やはり圧倒的な強さを持つ、即ち防御力が高いクロイツがリサの怒りのマグマの放出口になるべく一撃を食らう事はやむなしと言う結論に達したのだ。
「師匠……骨は私が責任をもって拾いますから」
「縁起でもねー事を言うんじゃねーよ。実現しそうで恐ろしいじゃねーか!」
間もなく三階層に突入するのだが、この階層では知能は高いが深層と比べると遅く動く魔獣しかおらず、結果時折クロイツとリージョの逃走の邪魔になっており、一応自分達が住んでいるダンジョンと言う思いから避けて逃げている二人はその隙にいつの間にかリサに追いつかれる。
「し・しょ~!!待ちなさいって言っているでしょうが!!」
……ドゴン……
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