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リサの冒険(クロイツの故郷ナスカ王国へ1)

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「ふ~、ドルドイさんの話を聞いていたら、ちょっとだけ妬けちゃった。絶対に私が出会う前の師匠の話だもんね!」

 気配を消して、リサ以外には感知できない状態の狼の魔獣とテクテク移動しているリサ。

 ドルドイから自分の知らないクロイツの話を聞いて、その現場である深淵の森を見てみたいと思ったリサはナスカ王国に歩を進めていた。

 いつもの白い外套を羽織って、フードを被っているままで歩いている。

 周辺の盗賊や良からぬ者達も、既にかなり有名になっている“白套のリサ”に手を出すバカはそうそういない。

 そのおかげか、最近の街道では結構な人数が白い外套を羽織って移動している位だ。

 馬車以外の徒歩の者達全てが白い外套を羽織って歩いている姿は、どこかの怪しい宗教の集団が移動しているのかと思う程になっている。

 リサは移動中も師匠クロイツの教えの通りに全てのスキルを使用しつつ練度を上げているので、実力は今も上昇し続けている。

 夜になれば下手に移動すると危険が増す事が一般常識であるが、環境適応や気配察知、更には体術があるリサには関係なく、むしろ邪魔がいなくなるために一気に速度を上げて移動する。

 時折町に入って宿に泊まり、疲れを溜めないように気を付けつつも移動してナスカ王国に到着する。

「きっと、ここが師匠クロイツの故郷ですね」

 収納魔法や転移魔法の希少性の話を冒険者ドルドイに聞いていたと言う事は、しっかりと活動する前の師匠クロイツであったはずであり、リサと出会った頃の年齢から想定すると、恐らくその時にいた場所が故郷だと判断した。

 流石は“師匠大好き病”のリサ、何となくの判断で正確に核心をついてきたのだ。

「でも、思った以上に魔獣の影響が大きそうですね。師匠の故郷であれば、もう少し対応出来ているのかと思いましたが……こんな状態になる事を見越して出て行った?訳はないですね。師匠であればこの惨状を座して待つような事は絶対にしませんから!」

 既にここに到着するまで、安全と言われている街道近辺にもBランクの魔獣が多数存在していた。

 リサは奥にいる魔獣は危険性がないと判断して手を出さなかったが、危険になり得ると考えられる魔獣、ついでに美味しいグロナスについては脅威となり得る可能性の有無にかからわず始末しつつ進んでいた。

「ここが師匠の故郷の冒険者ギルド。なんだかワクワクしますね」

 クロイツに関連する事であればなんでもワクワクするリサは、何故か緊張した面持ちでギルドの扉を開けて中に入ると、どこのギルドも同じだが喧騒に包まれている。

「おい!騎士団様からの依頼だぜ!」

「またかよ。あいつらの尻拭いばかり!!偉そうにしやがって」

「第一騎士隊長の……何だっけ?ベータとか言うふざけた名前の奴からの依頼らしいぜ」

 話を聞く限りでは、どうやらこの国の騎士から冒険者ギルドに対して依頼が来ているらしく、他の国では聞いた事がない状況の為、リサは端の席に座ってしばらく様子を見る事にした。
 
「前回、あいつらは俺達を見下して魔獣を始末するとか言ってやがったよな?」

「あぁ、確かに言ったぜ。なんでもベータとか言うスカした野郎は、俺達冒険者のBランカーと同等以上の実力を持っているとか言っていたな。そんで、アルファとか言う騎士はAランカー以上だとよ!」

「その結果がコレか?」

 最後の冒険者が、恐らくベータと呼ばれている騎士からの依頼書をペラペラ振っている。

 距離が離れているリサは身体強化で視力を強化してその中身を見ると、ナスカ王国に隣接している深淵の森の浅い位置に出現しているBランク四体と、Aランク一体の排除と書かれていた。

 ここから想像するに、騎士達は自らの力で討伐できると大見えを切った挙句に敗走し、その仕事を冒険者に丸投げしたのだろう。

「だがよ……実際問題Aランクの魔獣だぜ?Bランクは各個撃破で何とかなるかもしれないが、こいつは正直キツイな」

「確かに……な。だが、この国には流れ着いたAランカーの冒険者がいるだろう?」

 一瞬ビクッとしてしまうリサ。

 自分もAランカーであり、入国直後ではあるが自分の事がバレたのかと思ってしまったのだが、以前であれば少々目立ったこの風貌も今ではかなりの数の冒険者が真似をしているので、この姿でいても違和感なく溶け込めているはずであり、存在がバレた訳じゃないはずだと思っている。

「あぁ、国家お抱えになったミーシャか。あいつは王城で特別扱いを受けて天狗になっているらしいから、こんな依頼は受けねーよ」

 どうやら自分の事ではなく他のAランカーの事らしく、ホッと胸をなでおろすリサ。

 そう言えば、リサの所にもしょっちゅう国家から専属にならないかと言うお誘いが来た事を思い出した。

 冒険者は自由業なので、国家お抱えになるのも当然自由。

 そこは否定しないが、お高く留まる様な行動は自分には出来ないな……とクロイツの笑顔を思い出しながら考えるリサだ。
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