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依頼を達成しに村へ(1)

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 受付に妄言をブチかまし、ギルドカードの説明を一切受ける事無くさっさとカードを半ば強引に奪い取ってしまったクロイツ。

 受付としてはクロイツに対して冒険者としての活動の仕方、カードの説明ができないまま勝手に離れてしまったクロイツを心配そうにチラチラ見ている。

 決してクロイツに気がある訳ではない。

 その受付の様子を敏感に感じ取っているクロイツは、自分の怪しい挙動によって不審者扱いされている可能性が高いと判断して、適当な依頼書を異なる受付に提出する。

 さっさとこの場を離れたかったのだが、担当の受付はランクがどうとか前世の知識にあるような内容を説明し始めたので、恐らく登録したばかりの自分では命の危険がある依頼である事を説明していると判断した。

 クロイツにとってみればそんな事でこの場に留まる事の方が恥ずかしさで死ねるので、余程命の危険があると感じており、何としても一刻も早くこの場を切り上げる事にした。

「重ねて言うが、問題ない。たとえ命を失ったとしても、俺の尊厳が守られればそれで良いんだ!」

 決死の覚悟で伝えるクロイツに、何を勘違いしたのか受付は感動したような表情になり、受注の処理を始める。

 そしてギルドカードをクロイツに返却する際、クロイツの両手を優しく握りこう告げる。

「クロイツ様。何が貴方をそこまで駆り立てるのかはわかりませんが、あなたの崇高な意思に感動いたしました。ご無事の帰還をお祈り申し上げます」

 少々潤んだ目でこのような事を言われ、更には優しく手を包むように握って来る受付。

 一瞬でゆでだこのように真っ赤になったクロイツは、碌に返事も出来ないままカードと依頼書を持ってギルドを後にする。

「くっ、これがギルドか。王城よりも余程命の危険があるな。初日にしてここまで激しく揺さぶられるとは、とんでもねー魔境だ!」

 言っている事だけを聞けば危ない場所に聞こえなくもないが、頬はだらしなく緩み、今にも涎が出そうなほどにやけている。

 何と言っても初めて奇麗な女性から優しくして貰ったばかりか、手まで優しく握ってくれたのだから、はっきり言ってチョロのクロイツには刺激が強すぎた。

「しかしあの受付、なんで俺だけにあれ程気持ちを込めてくれたんだ?」

 一人門を出ると心はようやく落ち着いてきたのか、再び妄想タイムが始まる。

 クロイツの手にあるのは、本当に適当に剥がしてきた依頼書。

 その内容は、東門から続いている街道の先にある村の近くに出現したグレートオーガと呼ばれている魔獣二体の討伐だ。

「無事の帰還を祈る程の相手じゃねーだろ?……はっ!ま、まさか!今度こそ来たか?来てしまったのか?いや、落ち着け、俺。ここはキッチリと段階を踏まないとな。先ずは……依頼を終えたらあのお姉さんの所に行って、しょ、食事にでも……うわぁああああああ~」

 只の妄想、しかも食事に誘う事を考えただけでこの有様。
 余程前世から女性に恵まれていなかったのだろうか……哀れクロイツ。

 そんな状態である為に、依頼書の右上にかかれているBランクと言う記載には気が付かないし、自分のギルドカードに記載されているFランクの文字も気が付かないし気にもならない。

「良し、決めた!!颯爽と依頼を達成して、食事に誘うぜ!これぞ彼女作り大作戦の定番の第一歩だ!」

 相変わらず独り言を垂れ流しつつも走り出すクロイツ。

 無駄に気合が入ってしまい、あり得ない速度で目的地の村近辺に到着する。

 ここで転移を使わなかったのは魔力の温存と、魔法を行使する際の周囲への警戒が面倒だったからだ。

 転移魔法を公にしてしまえば周囲の警戒は不要だが、秘匿すると決めた以上はここだけは気にして行動しているクロイツ。

 彼女作りに関する事以外は、意外と真面な感性の持ち主だ、

 やがてクロイツは、ターゲットであるグレートオーガが周辺に現れたと言う村に到着する。

 立派な防壁がある訳もなく、手作り感満載の木によって作られた壁が村周辺を囲っており、かろうじて門番なのか、一人の村人が鍬を持って警戒している。

「俺は冒険者のクロイツだ。今回、グレートオーガの始末をするためにここに来た!」

 依頼書を掲げて門番の様な男に近づくクロイツ。

「おぉ、ありがとうございます。あの報酬で受けて頂けるとは思ってもいませんでした。感謝いたします!」

 何故か異常に喜び、クロイツを村の中に案内する男。

 クロイツは、見張りは良いのか?と言いたくなったが、取り敢えず軽く気配察知のスキルを使って村の周囲を警戒すると、襲ってくるような魔獣や盗賊の類の気配はないので放っておく事にした。

「村長!冒険者が来てくれたぞ!」

 一応この村の中では一番大きな家の前に着くと、男は大声で叫ぶ。

……ドタドタドタ……

 明らかに慌てて来ましたと言わんばかりの音がするが、創りが荒いのか、良く足音が聞こえるのだろう。
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