上 下
80 / 159

(79)

しおりを挟む
 四宮と辰巳二人を互いに転移できる転移魔法陣Cしか残っていないダンジョンのコアルームに戻してきたデルが戻って来る短い時間の中で、残りのメンバーで星出と岡島の説明を聞いたのだが、予想通りに恐怖によってダンジョンを枯れているように見せかけていたと言う事だった。

 完全に憔悴しきっており、それを唯一アリが必死で慰めるかのような行動をとっていた。

湯原様。説明する必要もないかと思いますが、アリ……人型ではない魔物からのみ信頼を得ているようですので、他の人型の者達は間違いなく私達と同じ……」

「大丈夫。わかっているから、それ以上は言わなくて良いよ、ハライチ!」

 何やら悲惨な説明を始めそうだったので、敢えて強制的に話を終わらせる湯原。

 そもそも言われなくとも、その程度は誰しもが理解できている。

「…ありがとうございます、湯原様」

 ハライチとミズイチが微笑みながら美しい所作で湯原と水野に一礼した後、真剣な表情に一変して説明を始める。

「仮にこの二人星出・岡島を何もなしにダンジョンに戻しますと、デル様が戻した二人湯原・辰巳を支配していたダンジョンマスターが様子を見に来る際に見つかる可能性が高いと思います。そうなれば、同じように搾取される契約か、強制的に弦間のダンジョンとの戦闘の矢面に立たされるか……何れにしましても良い結果にはならないでしょう」

「ハライチの言う通りです。この二人もカーリ様とセーギ湯原様に対して殺意があった事は明白。立ち位置が変動した今はその殺意は無くなっておりますが、再び力を得た際にはどうなるか分かりません。私と致しましては、厳しい処遇をされた方が良いと提言させて頂きます」

 <淫魔族>の二人は、既に見逃している二人湯原・辰巳の処遇は最早口を出さないが、この二人星出・岡島については厳しい罰を行うように提言してくる。

 その言葉を同じく耳にしている星出と岡島だが、既に全てを諦めているので……何かを懇願する事もなく、その言葉を黙って受け入れていた。

セーギ湯原君。私としては、アリさんの事もありますので……」

 全てを言わない水野だが、その優しい性格からか助けてやりたいと言う意思がある事は明らかであり、その言葉を聞いた<淫魔族>の二人も自らの言葉を即座に撤回し、どのようにすればよいのかを考え始める。

「では、二階層で立場を捨てて・・・・・・生活して頂くのは如何でしょうか?デル様とレイン様のお力が有れば可能かと存じますが。主を失ったコアは、主が滅された時と同じ状態になりますので、程なく破壊されてダンジョンも枯れますが、元より枯れているように偽装していたダンジョンですので何も変わりはないかと……」

「私もハライチの案に賛同いたします。デル様、レイン様お二方のお力であれば、ダンジョンマスターと言う一つの契約も書き換える事が可能でございます。唯一の危険は、未だにダンジョンマスターと思われている冒険者側からの攻撃ですが、お二人の素顔を知っている冒険者は同時に召喚された者のみ。そう危険はないかと思います」

「わかった。一応アイズもいるから大丈夫かな。で、眷属達はどうするの?」

「ダンジョンマスターと言う契約を強制的に破棄しますので、当然眷属としての契約も終了しますが……その存在は宙に浮いた存在になります。ですので、私達同様にデル様かレイン様によって新たに契約をされるのが宜しいかと思います」

 以前は眷属の大半を使って契約を書き換えたのだが、そこまで必要ないと言う事らしい。

 流石のレベル99の<眷属>二体の力。

 神から与えられたダンジョンマスターと言う地位契約すら書き換えられると言うのだ。

「わ、私達を助けてくれるの?」

「ごめんなさい。今までごめんなさい!」

 すっかり弱り切っている星出と岡島を見て罰を与えるような気は無くなっている湯原は、水野の言葉からハライチとミズイチが考えてくれた通りに事を進める事にした。

「あぁ。聞いての通りだけど、これ以上の優遇はしないし、助力もしない。もちろん反逆は絶対に許さない。アリと水野に感謝してくれよ」

「「あ、ありがとうございます」」

 こうして枯れたダンジョンに偽装していた二つのダンジョンは本当に枯れ、星出と岡島の二人はダンジョンマスターと言う地位契約を失った状態で、今の二階層の町に住む事にした。

 全ての眷属、星出の眷属は湯原と契約を結び、岡島の眷属は水野と契約を結んで配下となっているので、星出と岡島は本当に何もないただの人としてダンジョン二階層の町で暮らし始める。

春香星出、貴方の眷属アリのおかげで助かったわ」

「……そうね。結局私達、普通に接する事が出来たのは人型じゃない眷属だけ。偶然拾った命だけど、二度目はないから同じ過ちをしないようにしましょう有希岡島!!」

 長い間ダンジョンコアルームと言う小さい閉塞空間に閉じこもっていたことから、同じダンジョン内部とは言え終夜の設定があり、暖かく環境も良いこの町で大人しく生活する事にしている二人。

 湯原や水野からは、特にダンジョンの外に出るのも自己責任になるが自由であると言われているのだが、何の戦力もないまま野に放たれるのは抵抗があり、かと言って王都や近隣の村、町に到着できたとしても、その後どう生活するのかイメージすらできないので、二人の庇護下にいる事を選択していた。

 そもそも普通の人に、あの広大な一階層を何の準備も無しで歩けと言うのも無理がある。

 逆に今いる二階層では、何故か畑や小川、果樹園まであるので、その世話をしつつもゆっくりと生活して心の余裕を取り戻していった。

 環境が人を変えるのか、環境が人を育てるのかは不明だが、すっかり穏やかになった二人は人が変わったかのようになっており、これであれば冒険者達が多数侵入してきている対処を行うための従業員としての立ち位置をお願い出来ると判断していた湯原と水野。

 もちろんブレーンである<淫魔族>の二人の進言によるもので、ある程度身の安全を確保させるために、元眷属を護衛に付けつつも働いてもらう事にしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

処理中です...