便利すぎるチュートリアルスキルで異世界ぽよんぽよん生活

御峰。

文字の大きさ
上 下
56 / 65
連載

201話

しおりを挟む
「私、エレナだよ~」
 
「わ、私はソエナだ」
 
「ソエナちゃん! 私と名前が似てる!」
 
「そ、そうだな」
 
 ソエナちゃんにエレナちゃん。確かに名前が似てるといえば似てるかも。
 
 ふと、ソエナちゃんの視線が俺に向いた。
 
 まだ少しだけ警戒している視線だけど、最初よりはだいぶ信頼感が伝わってくる。
 
「僕はワタル。エレナちゃんと同じま――――」
 
「同じ家に住んでたんだよ~」
 
「同じ家!? 二人って兄妹きょうだいなのか?」
 
「ううん~でも家族だよ~今は住んでる家はちょっとだけ離れてるけど、でもワタルくんとはいつも一緒!」
 
「あはは……」
 
「へぇ~」
 
「ソエナちゃんとソエンさんは二人で暮らしてるの?」
 
「ん? ああ。おふくろは事故で亡くなったからな。きょうだいもいないぜ」
 
「そっか~」
 
 緩く答えるエレナちゃん。
 
 異世界ではモンスターがはびこっているから、誰しもが命を落とす可能性がある。
 
 今日だって、ソエンさんがビクトリスという巨大ニワトリのモンスターの群れに遭ってしまい、命を落としかねなかったから。
 
 さっき、ソエナちゃんがソエンさんに怒ったのもそういう理由があったのかもね。
 
 肉親が亡くなるのは……とても悲しいことだから。
 
 ふと、前世のお母さんを思い出した。
 
 お母さん……僕が事故で帰れなくなってからどうしているんだろうか……。
 
 この世界には探し人を見つけ出すアーティファクトがあるというし、いつかエルフの森に行けたらお願いしたいなと思う。
 
 異世界でお母さんを見つけることは難しいと思うんだけど……。
 
「あれ? ワタル~」
 
「ん?」
 
「コテツくんはいつ頃帰ってくるの?」
 
「ん~明日かな?」
 
 コテツは定期的にガイア様のところに遊びに行っている。
 
 ガイア様からのお願いでもあるんだけど、コテツもあの場所とガイア様がとても大好きみたいだし、コテツが楽しく遊んでくるのなら見守ってあげたい。
 
「コテツ?」
 
 ソエナちゃんが気になったようだ。
 
「コテツはワタルくんの相棒だよ~」
 
「相棒……? ふう~ん」
 
「ソエナちゃんって料理が上手いんだね」
 
「!? べ、別に……おやじが料理があまりに下手くそすぎるから、私がテキトーにやってるだけだ」
 
 そうは言うけど、テーブルに並んだ料理はとても美味しい。
 
 柔らかい肉も肉質が良いからなのもそうだけど、下処理も丁寧にやっているようで臭みとかもない。
 
 それに野菜とかのバランスもよく並んでいるのも、食べる人を思うからこその優しさだ。
 
「自慢の娘さんですね! ソエンさん!」
 
「ぬっ!? う、うむ……」
 
 あれ……?
 
 これはもしかして……。
 
「そ、そんなのはいいから、おやじ、もう一杯飲むんだろ?」
 
「お、おう……」
 
 空になったジョッキを奪うように取って奥に向かうソエナちゃん。
 
 程なくしてまだ溢れんばかりの泡のジョッキを持って来た。
 
 そういや……転生してからビールなんて初めて見た。
 
 元々お酒はあまり好きじゃないし、飲み会でも無理矢理飲まされてたから、ビールにはあまりいい思い出はない。
 
「ソエンさん。それって何ですか?」
 
「ん? ドワーフ特性のビールというものじゃ。酒だから子供には飲ませんぞ」
 
「お酒……ふむふむ。それって美味しいんですか?」
 
「うむ! ビールはドワーフが誇る酒じゃよ! 他にもいろいろあるが、やっぱりのど越しがいいビールが一番かのぉ!」
 
「そうなんですね。それって買えたりします?」
 
「だから、子供は飲めないぞよ」
 
「いえ、僕が飲む用じゃなくて、街の皆さんにお土産で買って行きたいなって。エレナちゃんのおじさんもお酒がとても好きですから、もしかしたらビールが口に合うかもって」
 
「お土産か……ふむ…………じゃが残念ながら買うことは難しいのぉ」
 
「それって、僕が人族だから……?」
 
「ん? いや、そういう意味じゃない。ビールは消費量が多いわりに作る量が少ないんじゃよ」
 
「少ない……?」
 
「材料がのぉ。洞窟では獲れないものだから、我々が飲む分を外から仕入れてるんじゃよ」
 
 ビールの原材料って……やっぱり麦とかになるのかな? となると植物系になるだろうし、洞窟中で栽培するのは難しそうだ。
 
 それに大都市を上から見下ろした時に、畑みたいなところは見当たらなかったしね。
 
「そうだったんですね。ちょっと残念ですが仕方ないですね。それはそうと、ソエナちゃんは工房で働いてたりする?」
 
「私? そ、そうだが?」
 
「そっか。じゃあ、武器とか防具とか作ってたりする?」
 
「いや、私はそっちは作らない。まだ見習いだからせいぜい調理器具とかかな」
 
「そっか! 調理器具とかも作ってるんだ!」
 
「あ、ああ」
 
「それって見せてもらうことってできる?」
 
「……お前、そういうものに興味があるのか?」
 
「うん!」
 
「まあ……食べ終わったら見せてやるよ」
 
「ありがとう!」
 
「べ、別に……見せてやるだけだし……」
 
 僕とソエナちゃんのやり取りを、エレナちゃんは静かにニヤニヤしながら見つめていた。
 
 それからみんなでワイワイしながら、ソエナちゃんの美味しい手料理を堪能した。
 
 
 
「「ごちそうさまでした!」」
 
 美味しいご飯をごちそうになって、食べ終えた皿をエレナちゃんと運ぶ。
 
 最初は制止していたソエナちゃんだけど、片付けを早く終わらせて調理器具を見たいと言い訳をすると、簡単に諦めてくれた。
 
 というのも、実は厨房も覗きたかった。
 
 大都市を見た時から思ったけど、ドワーフ族って製作に秀でた種族のように思えた。
 
 厨房では僕達が普段使っている魔道具よりも、少し見た目はごついけど性能はかなり上のようで、皿を大量にバケットに入れて機械の中に入れると自動で洗ってくれる。
 
 洗浄機……なんだけど、うちで使ってるものよりも格段に性能が良さそう。何よりかなりの量が入るようで、これならお店とかで使えそうだ。
 
 魔族領ではお店というより個人向けの魔道具の開発が進んでいるからね。
 
 あまりお店自体もないせいでもあるんだけど……でもこういう技術力があれば、多くの魔族の助けになると思う。
 
「そんなに珍しいのか?」
 
「うん。うちで使ってるのはこじんまりとした物が主流だから」
 
「ふう~ん。じゃあ、工房に行くぞ」
 
 厨房を出て工房に連れてってもらった。
 
 工房の内装自体はうちの工房とそう変わりはなく、炉や鉄を打つ鉄床かなとこが置かれていて、他にも無数の道具が綺麗に並んでいる。
 
「これが私が作って調理器具だ」
 
 そこにはフライパンから始まり、いろんな調理器具がたくさん並んでいた。
 
 一つ一つ丁寧に作られていて、ソエナちゃんがいつもどれくらいしっかり仕事に打ち込んでいるのかがわかる。
 
「凄いな……このフライパン一つにしても、鉄の厚さだけじゃなくて手を持つところにもこだわってるみたい」
 
「えっ……そ、そんなとこまで気が付くのか?」
 
「だって……握っただけですごく使いやすそうだもの。熱くならないように分厚くするのは普通なのに、調理をする女性の手に馴染むように、できるだけ細く作ってるんだよね? しかも、何度も持つから少しでも叩く加減を間違うと折れたりするんじゃないのか?」
 
「…………お前。人族なのにそこまで見れるなんて、おかしいぞ!」
 
「え!? ご、ごめん」
 
「!? い、いや、べ、別に……怒ってるじゃなくて……」
 
「そうだよ~ワタルくん。ソエナちゃんはすごく褒めてるんだよ~?」
 
「わああっ! そ、そんなことはどうでもいいから、見たいものが終わったらもう出るぞ!」
 
 慌てるソエナちゃんに苦笑いがこぼれた。
 
 ソエンさんとソエナちゃんのやり取りを見て、何となくお二人が普段どういう感じなのかわかった気がする。
 
「ソエナちゃん」
 
「な、なに」
 
「一つお願いがあるんだど、いいかな?」
 
「お願い……?」
 
 そして僕は、ここに来た一番の目的を実行した。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。