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190話

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「コテツ!」
 
「ワンワン!」
 
 エレナちゃん達と左右に分かれてライオンに向かいながら、コテツと話し合う。
 
「――――聖なる雷!」
 
 コテツの聖剣の雷と同時に発動させてライオンを足止めする。
 
 上空に放たれた矢がまた無数の矢になって降り注ぐ。
 
「アルトくん! 僕を向こうに飛ばして!」
 
『あいよっ!』
 
 さっきと同じく慣性に乗って、飛ばしてもらう。ただし、高くではなく、低く・・だ。
 
 僕が目指したのはライオンの前足の足元だ。
 
 電撃双小槌小ミョルニル・ダブルを作り上げ、叩き付けたのは――――前足の爪の部分だ。
 
 よくタンスに小指をぶつけるとものすごく痛いけど、それを思い出したので、一番防御力が弱そうな場所を探したら足の爪かなと思えた。
 
 体は黒い毛で覆われているし、上部には毛から放たれるオーラで魔法を帯びた攻撃が効かない。
 
 だから狙うのは一番薄い場所! 爪というよりは小指か。
 
 ガガガーンと槌の打撃と雷の音が鳴り響く。
 
 グルアアアアアアア!
 
 ライオンは痛そうに大きくのけぞり始めた。
 
「ワフッ!」
 
 コテツのつぶらな瞳が僕を見上げる。何かを訴えている。
 
「ワンワン!」
 
 うう……僕だけコテツの言いたいことが聞けないの辛いな……。
 
「ワタルッ! コテツくんが自分を使った専用武器を使ってほしいって!」
 
「え!? 自分を使った専用武器!?」
 
「ワンワンワン!」
 
 嬉しそうに尻尾をぶんぶん回すコテツ。
 
 コテツを武器に…………コテツが剣になる?
 
 ううん。それはちょっと違う。
 
 そのとき、ふと頭を過ったのは、ミョルニルを大きくしたり小さくしたりできたこと。
 
「よし! できるか分からないけどやってみるよ!」
 
「ワフッ」
 
 考えるんだ。
 
 僕の想像力でどこまでも強くなる【専属武器防具召喚】。
 
 それを使って想像するのは、コテツとコテツが咥えてる聖剣くん。
 
 二人が合体・・したらどうなるか…………。
 
 ふと前世のことを思い出した。
 
 今世の体と同じ十歳の頃の僕はヒーローに憧れていた。だから剣道をやりたいと自分から言った。
 
 だからこそ、今一度僕の夢――――世界を平和にして、みんなと平和な日々を送りたい。だからここでライオンを止めなければならない。
 
 想像するのは――――最強のコテツ僕の分身
 
 
 
「――――【専属武器防具召喚】! ネメアー神話のライオン!」
 
 
 
「ガオ~!」
 
 コテツが雄叫おたけびを上げて聖剣と共に光に包まれる。
 
 光り輝く小さな体はどんどん大きくなっていき、やがて黒いライオンと同じくらいの大きさにまで巨大化した。
 
 光が止むと現れたのは――――美しい白い毛並みに所々に赤いメッシュが入っており、背中には赤いマント、頭には蒼い獅子の兜をかぶった可愛らしいコテツが現れた。
 
 僕よりもずっと小さかったコテツだけど、大きくなりすぎてライオンと同じくらい四メートルくらいになった。
 
 可愛さは変わらない。でもどこか凛々しさがあり、とても頼りになりそうだ。
 
「ワフッ! ワンワン!」
 
 巨大コテツとライオンが睨み合う。
 
 次の瞬間、二体の巨体同士の戦いが始まった。
 
 戦いはコテツがライオンを圧倒する展開となった。
 
 ライオンが何をしても、コテツの前足ペチで地面に叩き込まれて、身動き一つ取れない。
 
「コテツ! そのまま拘束をお願い!」
 
「ワンワン!」
 
 口に咥えている聖剣も同じく巨大になったけど、代わりに刀身がめちゃくちゃ短くなっている。
 
 そんな短くなった聖剣から凄まじい白い雷が放たれてライオンを襲う。
 
 ライオンは力なくその場で倒れ込んだが、消滅まではしなかった。
 
 聖なる力を以ってしても効かない!?
 
「ワタル様! 魔法の準備が整いました~!」
 
 遠くからステラさんの声が聞こえてくる。
 
「ステラさん! よろしくお願いします!」
 
「はいっ!」
 
 そして鎧巨人を倒した裁きの聖雷インディグネイションが発動してライオンに直撃した。
 
 周囲に轟音が鳴り響いてライオンの全身がボロボロと崩れていく。
 
 そんな中から小さな黒い宝玉が浮かび上がる。
 
 直後――――周りに凄まじい闇の風を吹き放ち、巨大コテツやみんなを遠くまで吹き飛ばした。僕に闇の風が当たった際、僕の体に淡い緑の光が灯り、風に吹き飛ばされることはなかった。
 
 全身からガイア様の力を感じる。
 
『ワタルくん……! 聞こえますか?』
 
「ガイア様!」
 
『あの闇の宝玉はネメシスの最後の力です。それに勝てるのはもはやワタルくんしかいません』
 
「ネメシス様の……」
 
『このまま闇の宝玉を発動させれば、大陸の真ん中に大きな穴が空いて、多くの生物が命を失ってしまいます……! 彼女の闇の波動は私が止めます。ネメシスを――――止めてください!』
 
「分かりましたっ!」
 
 僕は闇の宝玉に向かって全力で飛び込んだ。
 
 普通の攻撃では傷一つ付けられないのが伝わってくる。
 
 どうすれば闇の宝玉を壊せるのか頭をフル回転させる。
 
 その時――――僕の心の奥から誰かの声が聞こえてきた。
 
 ああ……そうか…………君が僕の剣になったのはそういう理由があったんだね……。
 
 聖剣エクスカリバーが僕に懐くことなく、コテツの武器となった理由。
 
 僕が予想していた通り、君の居場所を奪ってしまうからだったのは本当だった。
 
 だからそれに応えるように君もずっと僕の中で、僕を支えようと頑張ってくれてたんだね。
 
 異世界に転生してまだ一年も経っていないけれど、僕は多くの仲間達に出会えて、こうして自分の力にも愛されて本当に嬉しいよ。
 
 みんなが手を取り合って平和に一歩近づけるように――――僕に力を貸して!
 
 
 
 
 
「行くよ! ――――――――天叢雲剣あめのむらくものつるぎ!」
 
 
 
 
 
 ずっと僕を支えてくれた叢雲の真の姿・・・
 
 鋭く光る長い刀身で、闇の宝玉を斬り付けた。
 
 まるで豆腐を斬るかのように斬られた闇の宝玉は、二つに分かれてその場で消滅していった。
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