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169話

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 聖都の市街は凄い活気にあふれていて、信者さんだけでなく、多くの人々が行き交っていた。

 この地は女神様の恩恵によって、水は美味しいし、食材も豊富に取れるから信者さんだけでなく、大勢の人が住んでいる地域となっている。

 ただ、聖国ではあるので、ここに暮らす以上、女神様に感謝を忘れてはならない。

 多くの子供達は聖職者の下で勉強を教わり、やがて信者になる人が多い。

 そもそも神聖国は人を守るための国として日々頑張っている。

 今回の【ぽよんぽよんリラックス】聖都支店も、聖国下に置かれ、料金なしで受けられるはずだ。

 ただ、それでは商売として営んでいる【ぽよんぽよんリラックス】の意向に背くことになるので、ある程度換算したものを聖国が支払う形になるはずだと、セレナさんは言っていた。

 広場中心部に女神様の像があり、噴水が気持ちよさそうに水を吐き出していた。

 その周りを大勢の人が囲っていて、祈りを捧げる人々も多くいた。

「ワンワン!」

「コテツ!?」

 噴水に興奮したのか、コテツが鳴き声をあげると、噴水に向かって飛び込んだ。

「ワタルッ! 勇者モードにしないと水の中に落ちるよ!」

「っ!」

 急いでコテツに聖剣エクスカリバーを召喚して、勇者モードにする。

 口に聖剣を咥えて勇者モードになると、背中の赤いマントで空を飛べるようになるので、噴水の水に落ちることなく女神様の像の足元に着地した。

「コテツ! 危ないでしょう!」

「ワフッ」

 ドヤ顔じゃないよ!

 何故か女神様の像の足元でドヤ顔をするコテツ。

 すると――――噴水を見守っていた信者さん達が歓声をあげ始めた。

「勇者様じゃ! 聖剣を咥えて勇者様じゃ!」

 すぐに周りから「勇者様!」と「聖剣!」という声が響き渡る。

 コテツを前に噴水の前には大勢の信者さん達が足を崩し祈りを捧げ始めた。

 もしかしてこれが狙いだったの!?

 いつもコテツと一緒にいるから気づかなかったけど、聖剣を使える立派な勇者だものね。

 ガイア様曰く、本当の勇者は僕だったらしいけど、ネメシス様の力で勇者くんに取られてしまったんだよね。

 そういえば、うちのコテツはどうして聖剣が使えるんだろうか?

 あまり深く考えたことはなかったけど、今度ガイア様に会ったら聞いてみようかな?

『ワタル。聞こえますか? ワタル』

「っ!? ガイア様!?」

 まさかガイア様を思い浮かべた瞬間に、ガイア様の声が聞こえるとは思わなかった。

 隣にいたエレナちゃんやステラさん、エレノアさんが僕に注目する。

『ワタルにとって、この地の民を祝福するのであれば、噴水の女神像に向かって【聖域】を使ってください』

「え、えっと……それは神託として受けていいんですか?」

『私はこれ以上、貴方に何かを強制したくはありません……』

「ふふっ。ガイア様。大丈夫ですよ。僕はガイア様のおかげでここにいますから。何でもやって欲しいことがあるなら言ってください」

『ワタル……』

 女神様が神託を送るのは非常に難しいとステラさんから聞いたことがある。

 普段から世界のために力を使っている女神様が、信託を送るためにギリギリの力で送るので、いつでも声を届けるのは難しい。

 例えば、鬼人族の里のダンジョンで【聖域】によって復活したけど、それでもガイア様の声は『ありがとう……』くらいしか届かなかった。

 つまり、ここでまた大変な力を使ってしまったんだと思う。

 それくらい【聖域】という力が、ガイア様のためになるのかも知れない。

「ステラさん」

「はい?」

「この地の民は――――――優しいですか?」

 僕の答えに目を大きくしたステラさんは、すぐに優しい笑みを浮かべた。

「はい。困った人には常に手を差し伸べていますし、大人達は常に子供達を見守っています。戦争や災害によって行き場を失った多くの人が神聖国に流れついています。彼らもまた迷って信者となり、多くの人々を救っています。私も、エレノアも、そういう人々に救われましたから」

 エレノアさんも「うん」と頷いて応えてくれた。

 僕はまだこの地の民のことはよくわかってない。でもステラさんのことはよく知っている。彼女が信頼する人々なら僕も信頼できる。

 それに――――コテツに「ありがとう」と声をかける人々がとても嬉しい。

 エレナちゃんのような獣人族を見ても嫌な顔をしない。

 そんな彼らだからガイア様も信頼しているのかも知れない。

 僕は女神様の像を目掛けて【聖域】を発動させた。
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