上 下
8 / 14

しおりを挟む
 更に10日が経過した。

 新しく手に入ったハーブ木の葉っぱにより、男の喉は順調に回復していた。

 まだ上手くは話せないが、声を発する事は少しずつ出来るようになった。

 そんな日の出来事だった。

 男がアメル草畑のアメル草を採り、ウォーウルフ対策のため、周囲にばらまいていた頃。

「きゃー!」

 森に女の声が響き渡る。

 聞き慣れているその声に、男はただ事じゃないと思い、声がした方に走り始める。

 すっかり身体が回復しているので、走る事はなんてことない。

 男がその場に着くと、エリシアとマリーが男達に囲まれていた。

「おいおい、姉ちゃんよ~俺達を遊ぼうぜ? ん? なんだ、男がいたのかよ。それにしてもみすぼらしい奴らだぜ」

「気にするな。こいつら売ったらお金になりそうだから、さっさと捕まえて行こうぜ」

「こっちの男が俺が貰うぜ~」

「油断するなよ!」

 6人の武装した盗賊らしき男が嫌らしい笑みを浮かべて、エリシア達に近づいていく。

 その中から一人が男に向かい、歩き出した。

「ん? きゃーははは! こいつ! 怖くて足が震えているぜ!」

 盗賊がそう言うように、男は盗賊達を目の前に足を震わせていた。

 そんな男の視線の先には、恐怖に震えているエリシアが映った。

 今日まで自分の為に尽くしてくれた彼女は、いつも明るい太陽のような人だった。

 そんな彼女が恐怖に震えている。

「あ、あ、あぁああああ!」

「あん? なんだ?」

 急に大声をあげる男に、盗賊達の視線が集まる。

 男が両手を前に出した。

「ん? なんだ?」

 その意図・・を理解したエリシアは、マリーの手を引いて、その場にうずくまる。

 直後、男の両手から美しい翡翠色の光が周囲に広がり、衝撃波が放たれた。

「ま、魔法か!」

 驚く盗賊だったが、時すでに遅し。

 男の魔法が盗賊達6人に直撃し、全員が吹き飛んだ。

「あ、あ! あ!」

 男が声をあげると、エリシアがマリーの手を引いて急いで走って来た。

「ありがとうございます! おかげで助かりました!」

 そう話すエリシアに安堵した表情を見せる男。

 しかし、直後。

 周囲から鋭い鳴き声が聞こえると、するにウォーウルフの群れが現れた。

 男はすぐに懐にしまい込んだエリシア特製アメル草の粉を取り出す。

 少量をエリシアとマリーにふりかけ、自分にもふりかける。

 これで暫く匂いが取れないので、ウォーウルフに襲われる心配はないはずだ。

 男はエリシアの手を引いて、その場から逃げ去った。



 ◇



 いつものアメル草畑に帰って来た3人は、その場に倒れるかのように座り込んだ。

「ふぅ…………今回ばかりはどうにもならないと思いました。助けてくださり、本当にありがとうございます」

 エリシアの言葉に苦笑いを浮かべ、首を横に振る男。

 いつも助けてくれたのはエリシアだ。

 そう伝えたいのに、言葉が出てこない。

「うふふ。でもこうしてみんなで無事で帰って来られて、嬉しいんです! マリーも貴方もね!」

 それは男も思っていたことだ。

 ここまで頑張ってくれたエリシアに少しでも報いたい。

 一歩ずつでも歩き出せる大切さを教わったから、男は一歩ずつ歩き出すと決意した。



「あ、わ、な――――」

「あら? 言葉が少し話せるようになりそうですね」

「あ――――――り、あ、む」

 男は自分の胸に手を当てて、ゆっくりだがしっかりと言葉を紡ぐ。

「り、あ、む? もしかして、リアムですか?」

 そう話すエリシアに、男は今までで一番嬉しそうな笑みを見せた。

 ――――そう。

 彼女に自分の名前を初めて呼ばれたからだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

悪役令嬢とバレて、仕方ないから本性をむき出す

岡暁舟
恋愛
第一王子に嫁ぐことが決まってから、一年間必死に修行したのだが、どうやら王子は全てを見破っていたようだ。婚約はしないと言われてしまった公爵令嬢ビッキーは、本性をむき出しにし始めた……。

冤罪により婚約破棄されて国外追放された王女は、隣国の王子に結婚を申し込まれました。

香取鞠里
恋愛
「マーガレット、お前は恥だ。この城から、いやこの王国から出ていけ!」 姉の吹き込んだ嘘により、婚約パーティーの日に婚約破棄と勘当、国外追放を受けたマーガレット。 「では、こうしましょう。マーガレット、きみを僕のものにしよう」 けれど、追放された先で隣国の王子に拾われて!?

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】就職氷河期シンデレラ!

たまこ
恋愛
「ナスタジア!お前との婚約は破棄させてもらう!」  舞踏会で王太子から婚約破棄を突き付けられたナスタジア。彼の腕には義妹のエラがしがみ付いている。 「こんなにも可憐で、か弱いエラに使用人のような仕事を押し付けていただろう!」  王太子は喚くが、ナスタジアは妖艶に笑った。 「ええ。エラにはそれしかできることがありませんので」 ※恋愛小説大賞エントリー中です!

処理中です...