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数日後。
エリシアは周囲から取って来たキノコで何とか空腹を凌いでいた。
目の前のマリーと男は酷く衰弱しており、未だ目覚める気配がない。
(白髪か……顔は若そうなのにな)
穏やかに眠っている男性を眺める。
男はアメル草を飲ませており、熱は引いているが、体力はまだ戻っておらず、時折取って来たキノコを口移しで食べさせている。
まさか、自分の初キスがこんな形になるとは思わなかったけど、あの男と交わしていなかった事が不幸中の幸いだと思えてしまう。
その時。
「ん…………」
袋の中で眠っていたマリーの声が聞こえる。
「マリー!?」
急いでマリーの隣に駆けつける。
「お……嬢様……?」
「ああ! 神様! ありがとうございます! マリー! 私よ! エリシアよ!」
「お嬢様……」
目を覚ましたマリーは、真っ先に大きな涙を流す。
きっと気を失う直前の事を思い出してしまったのだろう。
エリシアも同じく涙を流しながら、マリーを抱きしめた。
エリシアの懸命な看病により、すっかり身体の傷は消えてはいるけれど、この心に負った傷は消えるはずもない。
二人は抱き合い、生き残った嬉しさと、ここまでの悲しみを泣き明かした。
◇
「お嬢様。キノコを採って参りました」
「ありがとう。マリー」
以前は花のような笑みを浮かべるマリーだったが、すっかり笑顔を失くしてしまったマリーは無表情のまま、大事そうにキノコを抱きかかえて帰って来た。
キノコを貰ったエリシアは、石の上にキノコを置き、小さな石ですりつぶし始める。
すりつぶし終えたキノコを男の口の中に入れ、朝露で集めた水をゆっくり流し込む。
男の身体が反応して、キノコを飲み込んだのを確認して、今度はアメル草をすりつぶした粉を少しと水を流し込む。
もう慣れたその手付きは、ここでの生活がすでに長くなっている事を証明している。
エリシア達がここで助かった日から、一か月を経とうとしていたのだ。
毎日、日にちを数えるために石で印をつけた数が丁度今日で30に到達したのだ。
「ん…………ッ…………」
男から小さな声が聞こえる。
焦ることなく、男の唇に優しく朝露を一滴落とす。
男の唇が落ちて来た水滴に反応し、口が少し動く。
少しずつ男の目が開く。
男は自分の視界に二人の女性が映り始めた事に気が付いた。
「ふぅ……やっと起きましたわね。これで…………全員生き残ったわね」
「はい。お嬢様のおかげです」
「ううん。正直、マリーが居てくれなかったら、私だけじゃどうにも出来なかったわ。だからありがとう」
「…………はい」
まだ上手く笑顔になれないマリーに、代わりに満面の笑顔を見せるエリシア。
そんな姿が視界に入る男は、口を動かすが、声が出ない。
「ん……ッ…………ッ……」
「あら? まだ体力が戻ったばかりだから、上手く話せないのかも知れません。とにかく今は意識を戻した事を喜びましょう」
エリシアの言葉に、男は力なく頷いて返す。
「貴方がどうしてあの袋に入っていたのかは分かりませんが、私もマリーも同じ苦境ですから。貴方が元気になるまでもう少し頑張りますから、貴方も頑張ってくださいね」
今の自分が唯一出来る小さく頷く事しかできなかったが、真っすぐ見つめるエリシアの綺麗な赤い瞳を見て、絶対死なずにここから立ち上がると心の中で誓った。
エリシアは周囲から取って来たキノコで何とか空腹を凌いでいた。
目の前のマリーと男は酷く衰弱しており、未だ目覚める気配がない。
(白髪か……顔は若そうなのにな)
穏やかに眠っている男性を眺める。
男はアメル草を飲ませており、熱は引いているが、体力はまだ戻っておらず、時折取って来たキノコを口移しで食べさせている。
まさか、自分の初キスがこんな形になるとは思わなかったけど、あの男と交わしていなかった事が不幸中の幸いだと思えてしまう。
その時。
「ん…………」
袋の中で眠っていたマリーの声が聞こえる。
「マリー!?」
急いでマリーの隣に駆けつける。
「お……嬢様……?」
「ああ! 神様! ありがとうございます! マリー! 私よ! エリシアよ!」
「お嬢様……」
目を覚ましたマリーは、真っ先に大きな涙を流す。
きっと気を失う直前の事を思い出してしまったのだろう。
エリシアも同じく涙を流しながら、マリーを抱きしめた。
エリシアの懸命な看病により、すっかり身体の傷は消えてはいるけれど、この心に負った傷は消えるはずもない。
二人は抱き合い、生き残った嬉しさと、ここまでの悲しみを泣き明かした。
◇
「お嬢様。キノコを採って参りました」
「ありがとう。マリー」
以前は花のような笑みを浮かべるマリーだったが、すっかり笑顔を失くしてしまったマリーは無表情のまま、大事そうにキノコを抱きかかえて帰って来た。
キノコを貰ったエリシアは、石の上にキノコを置き、小さな石ですりつぶし始める。
すりつぶし終えたキノコを男の口の中に入れ、朝露で集めた水をゆっくり流し込む。
男の身体が反応して、キノコを飲み込んだのを確認して、今度はアメル草をすりつぶした粉を少しと水を流し込む。
もう慣れたその手付きは、ここでの生活がすでに長くなっている事を証明している。
エリシア達がここで助かった日から、一か月を経とうとしていたのだ。
毎日、日にちを数えるために石で印をつけた数が丁度今日で30に到達したのだ。
「ん…………ッ…………」
男から小さな声が聞こえる。
焦ることなく、男の唇に優しく朝露を一滴落とす。
男の唇が落ちて来た水滴に反応し、口が少し動く。
少しずつ男の目が開く。
男は自分の視界に二人の女性が映り始めた事に気が付いた。
「ふぅ……やっと起きましたわね。これで…………全員生き残ったわね」
「はい。お嬢様のおかげです」
「ううん。正直、マリーが居てくれなかったら、私だけじゃどうにも出来なかったわ。だからありがとう」
「…………はい」
まだ上手く笑顔になれないマリーに、代わりに満面の笑顔を見せるエリシア。
そんな姿が視界に入る男は、口を動かすが、声が出ない。
「ん……ッ…………ッ……」
「あら? まだ体力が戻ったばかりだから、上手く話せないのかも知れません。とにかく今は意識を戻した事を喜びましょう」
エリシアの言葉に、男は力なく頷いて返す。
「貴方がどうしてあの袋に入っていたのかは分かりませんが、私もマリーも同じ苦境ですから。貴方が元気になるまでもう少し頑張りますから、貴方も頑張ってくださいね」
今の自分が唯一出来る小さく頷く事しかできなかったが、真っすぐ見つめるエリシアの綺麗な赤い瞳を見て、絶対死なずにここから立ち上がると心の中で誓った。
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