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18話

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 全身が痛い。
 
 殴られたときに防いだ両手は……多分折れてるんだと思う。
 
 転がったときにぶつけたところも熱く感じるから、きっと大きな傷になってそうだ。
 
 やっぱり……僕なんかでは……冒険者にはなれないのかな。
 
 世界にはこんなにも強くて恐ろしい魔物がいる……。
 
 お父さんとお母さんだって……帰って来たときは動かない人になっていた。
 
 凄く強い魔物から多くの人を救ったって言われたけど……僕にとってはもう帰らぬ人となった両親を、少し恨んだりもした。どうして……ずっとソレイユ街で一緒に住んでくれなかったのかと。
 
 あれから数年が経ち、『極小風魔法』が開花したときは、少し納得いった。
 
 僕が弱い才能を持っていたから……だから両親に……見捨てられたのかもって。
 
 両親を追いかけて冒険者になりたかった一番の理由。
 
 二人は何を思って冒険をして、誰を守って命を落としたのか……それが知りたかったから……。
 
 でも僕はこのまま黒いウォーウルフに殺されてしまうのか……。またリーゼが泣いてしまうんだろうな……。あ……庭園の植物達はまた無風で寂しく佇んでしまうのかな? せっかく僕の力を必要としてくれたおじさんも困るんじゃないかな……。レストランにだってまた行くって約束したし……オリアナさん達もきっと……。
 
「ハウ‼」
 
 遠くから僕の声を呼ぶリーゼの声が聞こえた。
 
「リーゼ!? どうして!?」
 
「ハウ! 速く逃げてええええ!」
 
 リーゼを逃がしたかったのに……彼女はまた僕を守るために戻って来た。
 
 黒いウォーウルフをあんなに怖がっていたのに……。
 
 そのとき、黒いウォーウルフの視線が僕からリーゼに向いた。
 
 その表情は――――獲物を見つけた狩人のような、鋭い目をしている。
 
 僕のように弄んだりしないのがわかる。
 
 このままではリーゼが……殺されてしまう!
 
 モモ達が黒いウォーウルフに体当たりをしながら風魔法を放つ。
 
 さすがの黒いウォーウルフも受け切ることはできないようで、後ろに吹き飛ばされるが、すぐに体勢を直しては、リーゼに向かって走る。
 
 い、行かせてはダメだ!
 
 リーゼが黒いウォーウルフに食い殺されてしまうのが容易に想像できる。
 
「リ、リーゼええええええ!」
 
 またスキルを使って、リーゼに一気に距離を詰めた黒いウォーウルフ。
 
 モモ達でも間に合わない。
 
 遠く離れたところで、怖さに震えながらも笑顔で僕を見て「ハウ……逃げて」と話すリーゼの口元が見えた。
 
 ああ……僕はいつまで……守られてばかりで……。
 

 
 
 ――――冒険者は、自分で未来を決めるんだ。
 


 
 ふと、お父さんが僕に遺してくれた言葉を思い出した。
 
 僕は……僕はいつまでも守られてばかりの人になりたくない!
 
 ううん、そんなことよりも……僕はリーゼを守りたい! もう……誰も失いたくないんだあああああ!
 
 そのとき、僕の体の奥から力が溢れ出る。
 
 繋がっているモモ達から力を分け与えてもらえる感覚。
 
 視界もどこか緑色がかって、世界がゆっくり動く。
 
 僕は無我夢中で――――飛んだ。
 
 風魔法をこういう風に使ったことなんてなかったけど、僕の体を飛ばして、リーゼの前に立つ。
 
 そこには驚くリーゼの表情と、後ろからやってくる残酷な気配がする。
 
「リーゼ。絶対守るから。心配しないで」
 
 彼女の頭を優しく撫でて後ろを向くと、目の前に黒いウォーウルフが口を目一杯開いて、僕達を喰らおうとしている。
 
 そんな刹那、僕は右手を前に出した。
 
「――――精霊魔法『大旋風』発動」
 
 僕の体から凄まじい風が前方に吹き出し、黒いウォーウルフを纏うと、ぐるぐると回しながら空高く打ち上げる。
 
 さらに無数の風の刃が竜巻とともに黒いウォーウルフの全身を斬り刻んだ。
 
 遠くに落ちた黒いウォーウルフは全身から無数の血を流しながらも、立ち上がった。
 
「グルゥゥゥゥ……」
 
 黒いウォーウルフと目と目が合う。
 
 じっと睨み続けた黒いウォーウルフは一歩後ろに下がった。
 
 普通の魔物なら逃げるなんてことはしないはずなのに……やはり、この魔物は知恵があるんだ。
 
「これ以上戦うなら、僕ももう容赦しない!」
 
「グラァ……ラァァァ……」
 
 そして、黒いウォーウルフは――――その場から去っていった。
 
 
 
「ハウ?」
 
「リーゼ。どこかケガはしてないか?」
 
「私は大丈夫……それより、ハウ……体が……」
 
「あはは……魔物にちょっと飛ばされちゃった」
 
「ちょっとでこんなに大ケガはしないよ! すぐに治すからね? ちょっとだけ我慢してね?」
 
 すぐにリーゼは僕に向かって両手を前に出した。
 
 彼女の両手からは暖かい光があふれ、僕の体を包み込んだ。
 
 腕や全身の痛みがどんどん消えて、動かすこともままならなかった両腕もしっかり動かせるようになった。
 
「リーゼ。ありがとうな」
 
「ありがとうは私だよっ……ハウが助けてくれなかったら……」
 
「ううん。僕がいなければ、リーゼがこんな目に遭うこともなかったから……ごめん」
 
「違う! それは違う……ハウのせいじゃないもん! だから……だから……謝らないで……」
 
「リーゼ……ご、ごめん……あ、違った……えっと、その……傷、治してくれてありがとう」
 
「うん……」
 
 大粒の涙を浮かべて笑顔を浮かべたリーゼは、そのまま僕を抱きしめてくれた。
 
 初めての恐怖を体験したからか、リーゼも僕も体を震わせた。
 
 でも、こうして生きていることがとても嬉しくて、彼女を守れたこともまた嬉しかった。
 
 力を貸してくれたモモ達も嬉しそうに僕達の肩に乗り、僕達をぎゅっと抱きしめてくれた。
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