上 下
12 / 33

12話

しおりを挟む
「ただいま……えっと、今日から一緒に過ごすことになったモモ達です」

「あらまあ! 可愛い~!」

 僕とリーゼの肩や頭に乗ったモモンガ達に黄色い声を上げるオリアナさん。

 すぐにモモンガ達を優しく撫でてあげる。

 僕がモモンガ達と結んだのは『精霊契約』と呼ばれるもので、これからずっと一緒に過ごすことになるみたい。

 まだ出会って間もないのにと思ったけど、どうやらモモンガ達は僕が過ごしてきた毎日を感じ取れるらしく、僕なら信用に値する人物だから結んでくれたとおじさんに言われた。

 それによって、僕はモモンガ達を――――飼う(?)ことになった。

 リーゼから名前が呼びにくいから『モモ』と呼ぼうということで、モモ達になっている。

「ん……? この子達って……もしかして、空を飛んだりする?」

「よくわかりましたね? みんな風に乗るのが上手です!」

「それって……まさかモモンガ様?」

「「「きゅぴ~」」」

「…………」

 目が点になったオリアナさんが僕とモモ達を交互に見つめる。

「庭園に住んでいたんですけど、僕と契約というものをしてくれて……あはは……」

「モモンガ様達と契約!? …………そ、そうだったのね。ハウくうって……私の想像以上ね。そっか……彼らの子供だもんね。ふふっ。本当にすごいわ」

「オリアナさん?」

「あら、何でもないわ。さあ、増えた新しい家族にもちゃんと夕飯を準備してあげないとね」

「ありがとうございます! 一応、おじさんからいつものどんぐりを貰って来てるので、こちらをあげてもいいと思います」

「どんぐりね。何を食べるかわからないけど、まずはいろいろ試してみましょう」

 それからすぐに夕飯の準備をしてくれて、俺はリーゼとモモ達と一緒にご飯を食べた。

 モモ達はオリアナさんが作ってくれたいろんな野菜や木の実が入った盛り合わせを残すことなく、パクパクと全部たいらげた。

 夕飯後にリーゼは宿屋の手伝いに行き、僕はモモ達と手無沙汰になった。

 外は日が沈みつつあるけど、まだ休むには早いのもあったから、一度宿屋から外に出る。

 どこか行きたい目的があったわけではなかったけど、せっかくだからいつもの城壁に向かう。まだ夕陽で畑が見れるかも知れないから。

「ラインさ~ん」

「ん? ハウくんか。まだ街にいたのか」

「上がってもいいですか?」

「ああ。構わないぞ!」

 衛兵の知り合いのラインさんに許可を取り、城壁に上がっていく。

「珍しいな。こんな時間に」

「お仕事が変わって、これからはちょっと遅い時間に来るかも知れません!」

「そうか。でも前よりも表情が明るくなったから、いい職場が見つかったようだな?」

「は、はい! とっても優しい方のところで働かせてもらってます」

「そうかそうか。それにしても、その肩に乗ってるのはなんだい?」

「あ! モモ達です。えっと、これから飼うことになったんです」

 飼うって言い方はあまり好きではないけど、説明が難しくて変な誤解をされたら嫌だからね。

 イマイルおじさんからも契約を結んだなんて、あまり言わない方がいいと言われた。

「それにしても賢いリス達だな。六匹も飼うと大変だろうに」

「あはは……これも何かの縁ですから。それに給金も上がったので大丈夫です!」

「そうか。ならおじさんがこれ以上言うことはないな。さあ、日が暮れる前に楽しんで行くといい」

「ありがとうございます!」

 城壁に近付いて外を眺める。

 夕暮れに照らされて綺麗な花畑が美しい朱色に染まっている。

 モモ達と一緒に少しの間、日が暮れるまで景色を堪能した。

 山の向こうだけが赤く染まった頃に、ラインさんに挨拶をして宿屋に戻る。

 以前は暗い街を歩くのが苦手だったけど、モモ達がいるからか嫌な感じがしなくなった。

 ソレイユ街は大きな街でもあるので、大通りは夜でも魔道具によって照らされて明るい。

 羽目を外しすぎて酔ったおじさんとかいるけど、まだ早い時間帯だからか、そういうおじさんも見かけない。

 でもこれ以上遅くなったらオリアナさん達が心配しそうなんで、足早に宿屋に向かう。

 ――――そのときだった。

「てめぇ……!」

 後ろから殺気が込められた声とともに、僕の体が宙に浮く。

 僕の上着の後ろを持ち上げられた。

 そこにいたのは、冒険者ギルドで何度か会った大柄の男、コワさんだった。

「コ、コワさん!?」

「てめぇ……のうのうと歩きやがって……! てめぇのせいでオルゲンが酷い目に遭ってるんだぞ! ここでぶっ殺してやる!」

 僕の体を持ち上げたまま、大通りから裏路地に入った。

 一瞬の出来事で何もできずに、路地裏に投げ込まれた僕は、ただただ目の前のコワさんを見上げるしかできなかった。

 ふと、悲しむリーゼやオリアナさんの顔が思い浮かぶ。

 僕には……帰るべき場所があるんだ。こんなところで諦めていられないっ……!

「おい。そよ風のザコ。てめぇが変なことをチクったせいでオルゲン達が犯罪者になったんだぞ! どうしてくれるんだ!」

「どうするも何も……あの人達はやってはいけないことをしたんです!」

「ほお……言えるようになったな。クソザコの分際で、働く場所もないてめぇを長年雇ってやったオルゲン達の恩を仇で返しやがって……!」

「でもずっと冒険者ギルドに隠していたって……後ろ暗いことがないんなら隠す必要はなかったじゃないですか!」

「てめぇ……! ぶっ殺す!」

 僕は……仕事がなく困っていたときに、手を差し伸べてくれたオルゲンさんには感謝している。だって……彼がいなかったら……僕は今でもオリアナさん達に迷惑をかけていたかもしれない。

 でも、それは彼が裏で手を回して、僕の働き口を消していたことに気付かなかった。

 ジェネシスさんがいろいろ調べてくれてから発覚したことだ。

 だから……感謝はもちろんしてるけど……でも、ずっと騙されていたのも事実で……僕はともかくイマイルおじさんをバカにしたり、力で誰かをねじ伏せようとする行為が許せない。

 僕の顔の前にコワさんの大きな拳が映った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

処理中です...