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三章

第61話 要塞都市ですか?

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 ヘルドさんから『要塞都市ゲビルグ』攻略を手伝って欲しいと言われ、僕は少し考えさせてくださいと返答した。

 本来ならヘルドさんの頼みともあれば、直ぐに承諾するつもりだった。

 そのつもり……だったんだけど…………。

 ヘルドさんが言う王国の三つの切り札の最後の一つ。

 ――――「そいつは、賢者の末裔。ヴァイク・ハイリンス魔導士だ」。

 その言葉に僕は人知れぬ不安と怒りに支配されてしまった。

 ヘルドさんも僕の表情を直ぐに読み切ったみたいで、僕が「少し……考えさせて……ください」と言うと、静かに頷いて返してくれた。


 僕は現在、テラスで風に当たりながら町を眺めている。

 隣にはアイリスが心配そうに見つめていた。

「ヴァイク・ハイリンス魔導士…………教えて?」

「…………」

 数十分。

 時が流れたはずなのに、僕には全く認識出来ないくらいには追い詰められていた。

 それでもじーっと待ってくれるアイリスのおかげで、少しは決心が付いた。

「その人は……僕の…………お父様だよ」

「おとう……さま……だったのね……」

「…………良い思い出なんて何一つない……お父様からは、ずっと、勉強勉強と言われ続けたよ……十歳の時、ギフトの日に……僕は追放されて……凄い剣幕で怒られて……失望したと言われて…………」

 気づけば僕の頬に涙が流れていた。

「僕は言われた通りに……頑張ったのに……どうして神様はお父様を満足させてくれるギフトを授けてくださらなかったのかと……考えた時もあったよ。でも…………毎日勉強ばかりにしか目を向けられなくて、こんな家は嫌だ――って思って……追放されて……ヴァレン町に辿り着いた時には、逆に安心出来たんだ」

 アイリスが静かに後ろから抱きしめてくれた。

 温かいアイリスの体温が肌を通じて、僕の心も抱いてくれているかのような温かさだった。

「今の、僕の……僕の居場所を奪わせたりはしない…………何れはお父様とも決着を付けなくてはならないと思っていたから。今回が良い機会かも知れない…………」

 僕は自分の胸を優しく包んでいるアイリスの手を握った。

「必ず守って見せる……ありがとう。アイリス」

 こうして、僕とお父様の戦いが始まろうとしていた。



 ◇



 ヘルドさんは返答を聞くと、僕の肩に手を上げ「お前自身の力を信じろ」と言い残し、戦争の準備の為、帰っていった。

 それから数日後、ディレンさんの兵士達と共に、僕とアイリスはシーマくん達に見守れる中、馬車に乗り込み、次の戦場に向かった。

 今回も念のため、シグマくんとタロに防衛を頼んでおり、アイリスにもいつでも帰れるようにしている。

 馬車の中ではグレンとリラ、リルのおかげで、それほど辛い旅ではなく、癒しがある旅になった。

 リラとリルはグレンと違って、いつでもなでなでさせてくれるからとても助かった。

 勿論、お腹が空いた時に、豚肉をあげないと怒るけどね。


 数日馬車に揺られ到着したのは、先日戦争した場所から更に西にある山が横断している場所だった。

 山の中央には『要塞都市ゲビルグ』が構えており、その門は固く閉まっていた。

 城壁の上には数多い兵士達がこちらを向いて見つめていて、物々しい雰囲気が伝わっている。


「アレク、あれが『要塞都市ゲビルグ』だ」

「……はい、あのまま戦っても攻める側がひたすらに不利ですね」

「ああ、その通りだ」

 山脈を超えないと王国には入れない。

 その山脈を通る道は、『要塞都市ゲビルグ』が建設される事で完全に塞がれた。

 更に攻める側が不利になるような設計になっている。

 『要塞都市ゲビルグ』が高台に作られている為、攻める側……つまり、攻める側からの侵攻が自然と下から坂を上がらなくてはならない。

 それは戦争中、最も大きな効果を齎すだろう。

 城壁の上からの魔法や弓矢で対処するだけで、防衛が簡単に出来るのだから。

 何度か挑戦してみるも惨敗を喫して、領土まで奪われる程だったから連邦国も手を焼いている要塞との事だ。


 しかし、不思議と今回の戦いで王国軍にも余裕がないように見える。

「それもそうだろう。誰かさんが大型破壊兵器『ヴァレンシア』をぶっ壊したからな。前線の兵士達はあれの存在を知っている者も多い。絶対防壁の異名がある『要塞都市ゲビルグ』と『大型破壊兵器ヴァレンシア』のうち、片方が陥落されたんだ。次は……ここ『要塞都市ゲビルグ』が陥落されてもおかしくないと思っている兵士達も多いだろうよ」

 なるほど……。

 方法は分からなくでも、陥落された事実はあるからね。

 向こうの兵士達の顔に不安があるのは、そういう事で間違いないだろう。


「さて、アレク。明日はお前の力を借りるぞ?」

「ええ、任せといてください…………あ、それとお願いが一つあります」

 僕は真剣な表情でヘルドさんを見つめた。



「もし、ヴァイク・ハイリンスが出て来た時は――――僕に任せてください」

 ヘルドさんは不敵な笑みで「分かった」と話した。
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