66 / 92
66
しおりを挟むもみじ達から離れてキッチンに立つ静人は目の前の食材を見ながらひとり呟く。
「さてと、たまには和食じゃなくてフランス料理とか作ろうかな。昨日そんな話してたし。あ、魚介類はアレルギーとかあるから、ちゃんと聞いといたほうがいいかな」
呟いていた静人は顔を上げて質問をしにキッチンからグラ達のいる場所に足を運ぶ。そんな静人に気付いたグラが手をあげて静人を呼ぶ。
「お、どうした? もう料理終わったのか?」
「さすがに早すぎますよ。いや、魚介類を使った料理を作ろうと考えてたんですけどアレルギーとか持ってないですよね?」
「なるほど、それを聞きに来たのか。俺も凪も嫌いな物もなければアレルギーも持ってないぜ!」
親指を立ててにかっとした笑顔で伝えるグラの横からひょこっと現れた凪がさらっと話に加わる。
「店長はバナナが苦手ですね。あとは大丈夫です」
「あ、ばか。わざわざ言うなよ」
「言わないと出るかもしれないじゃないですか」
「さすがにバナナが料理に使われることは無いだろ?」
「あはは、人に渡す料理でバナナを使うことは無いですかね。バナナ単体で出すこともなかなかないですし」
「だろ?」
「ちなみにバナナの味がダメなんですか? それとも本体がダメなんですか?」
「俺の場合は本体がダメだな。味は何とも思わないんだけど、なんかバナナ自体の食感というか舌触りというか……、よく分からねえけどダメなんだよな」
「あー、シイタケとかは大丈夫ですか?」
「おう、大丈夫だぜ。天ぷらとか好みだ」
「私もです」
「他にないなら大丈夫そうですね。分かりました。それじゃあ作ってきます」
「なんでシイタケを聞いたんだ?」
「なんとなくです」
軽く会話をした静人は聞きたいことを聞き終えて安心した様子で料理に取りかかる。
「さてと、まずはエシャロットのみじん切りかな。白身魚をポワレにするとして、この人数分作るとなるとバターがすごい量必要な気がするな。まぁ、たまにはいいよね」
「しず君、私も何か手伝おうか?」
「あ、かなで。大丈夫だよ。今回は男料理的な感じで、採算度外視で作るから、どちらかというと洗い物の時のほうが助かるかな?」
「そう? それじゃあまた洗い物の時に手伝うわね」
「うん、ありがとう。もみじちゃん達は楽しんでるかい?」
「ええ、すごく楽しそうよ。」
「それならよかった。それじゃあまた後でね」
「ええ、ばいばーい」
静人は出ていくかなでの背中を見送るとスマホで料理動画を流しながらキッチンに立つ。
「さてと、ブールブランソースの作り方は動画でも参考にした方がいいかな。あまり作らないし」
流した料理動画を流し見しつつ独り言で自問自答しながら少しずつ作っていく。
「ソースを作り始める前に魚に塩を振って脱水締めしとく。こんなもんかな。魚だけでも多いな。さてと、あとは白ワインと白ワインビネガーとエシャロットを煮詰めていく」
動画を見て確認しながらソースを煮詰めていく。水分がほとんどなくなったところでバターを数回に分けて加え乳化させていく。かき混ぜてみて少し濃ゆく、重たく思ったのかそこに白ワインを加えて伸ばし最後にエシャロットを濾して完全な液体にする。
「次はポワレかな。あ、これ皮がないやつだ。……まぁいいかな。食べやすいだろうし。うん、いい匂いだ。やっぱりこの人数分だと時間かかるね。もうこんな時間だ」
料理に夢中になっているうちに明るかった外が暗くなってきているのを確認した静人は苦笑いをこぼしながら真っ白な皿に盛りつけていく。しばらくして匂いにつられたのか青藍がふらふらと現れる。
「おにいさん、お魚料理?」
「うん。そうだよ。和食じゃなくて外国の料理だけど僕としては美味しいと思うよ」
「たのしみ。早く持って行く。みんなも待ってる」
「おや、もうトランプは終わったのかい?」
「トランプもしてる。いまみどりと茜も帰ってきたからみんなで談笑してる」
「ありゃ、二人も帰ってきたのか、もう少し遅くなると思ってまだ二人分のは魚焼いてなかったんだけど。青藍ちゃんは僕が魚を焼いてる間に配膳してもらってもいいかな?」
「分かった。どのくらいかかる?」
「焼くだけといえ少しかかるかな。そのことも伝えてもらっていいかな?」
「分かった。それじゃあ持って行く」
「うん、よろしくね」
青藍に配膳を頼むと新しく料理を作り始める。そうしていると今度はもみじがやってくる。
「お兄さん、他に持って行くものってあるかな?」
「おや、もみじちゃん。そうだね、飲み物を持って行ってもらっていいかな? 魚も焼き終わりそうだし、そういえばみんなはもう食べ始めてるのかな?」
「ううん。お兄さんが来るのを待つってみんな言ってたよ」
「そうなのかい? 冷めちゃうから食べててもらってよかったのに。それじゃあ急いで向かうとしようかな」
「それじゃあ飲み物持って行くね!」
「うん、よろしくね」
もみじからの情報でやる気を出した静人は皿に集中して料理に取り掛かる。少しして料理が完成する。
「よし、出来た」
「む、出来た?」
「おや、青藍ちゃんいつからそこに?」
「ちょっと前。出来たのなら早く持って行こう? お腹空いたから早く食べたい」
「そうだね。それじゃあ持って行こうか」
「うん。早く食べたい」
お腹をさすり少し眠たげに目をこする青藍と共に料理を運んでいく。リビングに着くとみどりがくつろいだ様子で静人のほうを見る。隣には静かに座る茜の姿も見える。
「お、来たやん」
「あ、しず君。もう全部出来上がったの?」
「うん。これで全部だよ。お待たせしました。それじゃあ食べようか」
「そこまで待っとらんから気にせんでええよ。というかまたお店で出るような料理やな」
「あはは、そこまでではないですよ。それじゃあ温かいうちに食べましょうか」
「せやな。おー、いい匂いやん」
「この白いの魚に合うよ!」
「お、ホントや。これってどこの料理なん?」
「これはフランス料理だね。白いのはブールブランソース、魚は普通に焼いたものですけどね」
「フランス料理なん? 今度食べに行ってみよかな」
フランス料理と聞いて今度お店に向かうことを考えていたみどりが呟くと、それを耳ざとく聞いていた青藍がみどりの洋服を引っ張る。
「その時は私も一緒に行きたい」
「青藍はどんだけ魚好きなん?」
「お魚は美味しいからしょうがない」
「せ、せやろか? まぁ暇な時に連れていくのはええけどな。もみじと桔梗も来るん?」
「私はいいかな? でも、食べてみたいような気がする」
「私も別にいいのだ。ここで食べるだけで十分なのだ」
「桔梗は分かるけど、もみじちゃんも来ないの?」
「まだ外に出るのは怖いから」
「むー、それならしょうがない」
怖いと言われた青藍は頬を膨らませつつも納得できたのか諦めた様子だった。
「というか、なぜわしは来ないのが分かるのだ」
「だって、桔梗は人が多いところ苦手でしょ?」
「そんなことは無いのだ? いや、そんなこともあるのだ?」
「どっちなの?」
「うむ、苦手なのかもしれないのだ」
「やっぱり苦手なんじゃない」
「せやったら、連れていくのは青藍だけやな。まぁ、その時になったら教えるわ」
「うん、その時はよろしく」
青藍はみどりの返答に少しだけ嬉しそうに頷きつつ魚を頬張る。しばらくしてご飯を食べ終えた静人達は片付けを始める。
「もうみんな食べ終えたみたいだね。片付けでもしようか」
「とても美味しかった! これってどうやって作るの?」
「ちょっと手間はかかるけど作り方自体は簡単だよ」
「そうなの? 今度私も作ってみたい!」
「いいよ、今度一緒に作ってみようか」
「うん!」
もみじは静人と共に料理を作る約束が出来たことが嬉しいのか笑顔で頷く。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる