上 下
57 / 92

57

しおりを挟む

 いつものお店で買い物かごを片手に刺身を探す静人。しばらく案内板を見て場所が分かったのか静人は移動を始める。



「えっと、お刺身お刺身……、あ、こっちかな」

「おん? お、誰かと思ったら静人さんやん。あけおめー、今日も来たんやね」

「あ、みどりさん、あけましておめでとうございます。魚の刺身を買いたくて。今日は刺身とオムライスですけど来れそうですか?」



 独り言の習慣が抜けない静人が呟きながら生鮮コーナーのほうに向かう途中でみどりと出会った。



「オムライスかー、興味あるけど今日の所は予定いれて明日来れるようにしとこうと思っとるんよ。いきなり予定が入ると面倒やさかい。せやから今日はやめとこかな」

「そうですか。あ、明日はグラさんたちも来るらしいですからそのつもりでいてくださいね」

「あ、あの人たちも明日来るんやっけ。でもまぁ、もみじちゃん達のことも知っとるんやしまぁええやろ。おっと、もうそろそろ仕事に戻るわ。それじゃあ、ほなまた明日な」

「ええ、また明日」



 仕事に戻ると言ってその場から立ち去るみどりに手を振って見送る静人は再度移動を始める。しばらく歩いていると静人にまた声がかけられる。



「あれ、静人さん。こんにちは」

「静人? お、ホントだ。久しぶり」

「グラさんに凪さん。お久しぶりです」

「あー、そういえばもう年明けたんだっけ。あけおめー、ことよろー」

「あはは、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。お二人は明日来るんですよね?」

「おう! 本当は今日も行きたかったんだけどな」

「あははー、ダメですよ。親戚同士のつながりもあるんですから。店長もお兄さんに会えるの楽しみにしてたじゃないですか」

「会うのが楽しみって言うか兄貴も洋服作るからその話をするだけだよ。あと、お兄さんじゃなくてお姉さんって言わないと怒られるぞ」

「店長も兄貴って言ってたじゃないですか……。というわけで親戚同士の集まりがあるんですよ」



 そう言ってこちらを見る凪に納得したような声で静人が頷く。



「なるほど。今日親戚同士の集まりがあるのにここにいるってことは、実家はこっちにあるのかな?」

「はい、私も店長も実家はこっちですよ。静人さんたちは県外なんですか?」

「そうだね。さすがに毎年帰るのは無理だからたまに帰る感じかな。今年は行くか迷ってたんだけど、もみじちゃん達がいるから帰らないことにしたんだ」

「確かに遠いと帰るのも大変になりますもんね。お金もかかるし。あ、そういえば静人さんはここに何を買いに来たんですか?」

「あー、魚の刺身をね。青藍ちゃんが魚大好きだから。凪さんたちは何を?」

「あー、私たちも似たようなものですよ」

「え? 俺たちは酒だろ……?」



 お酒を買いに来たことを隠したかったのか、グラの言葉にかぶせるように大きな声を出す凪。



「わー! 何でもないです。私たちもお魚買いに来たんですよ」

「別に恥ずかしいことでもねえんだし。そんな大声出さなくてもいいだろ?」

「いや、だって」

「そうですよ。別に恥ずかしいことではないんですし堂々としてもいいと思うよ? あれ、でもお酒飲むのはいいんですけど。今日って親戚の集まりがあるんじゃ……?」

「親戚の集まりはあるけどよ。めんどくさいやつが集まるんだよ。さっき話に出た兄貴……、姉貴的な兄貴のグリってのがいるんだけどマシなのがそいつぐらいしかいないんだ。だから集まりが終わったら俺と凪とグリの三人で家に集まって二次会的なの開くんだよ」

「あー、なるほど。飲むのはいいけどほどほどに。明日もみじちゃん達と会えなくなっちゃいますよ?」



 グラは静人の言葉に頭をかきつつ苦笑いで答える。



「あー、今日は少し抑えるよ。いつもよりはな。そういう静人は酒飲むのか?」

「んー、あんまり飲まないですね。煙草も気分が悪くなるから吸わないですし」

「おー、めっちゃ健康そうだな。煙草は俺も吸わねえけどな。洋服ににおいつくのやだし」

「吸わないならその方がいいですよ」

「酒はめっちゃ飲むけどな。ちなみに凪もめっちゃ飲むぞ」



 いきなり自分のことをうわばみ発言されたことに驚いた凪が慌てたようすでグラのほうを見てそのあとに静人の様子を伺いみる。そんな様子に気付いていない静人は単純に感心していた。



「おー、すごいですね。昔、アルコール度数が低いのを飲んだことあるんですけど口に合わなかったんですよね。あ、かなでも結構飲む方ですよ。僕に遠慮してるのかもみじちゃん達に遠慮してるのか最近は飲まないですけど。明日はお酒も用意しましょうか?」

「え、かなでさんも飲む方なんだ……」



 静人の発言に凪が思わずといった様子でつぶやく。



「別に俺はいいけどよ。酒飲んでもそんなに変わる方じゃないし。どうせなら俺が持って行こうか? 酒のこととかあんまりわかんねえだろ?」

「そうですね。それじゃあお願いしていいですか?」

「おう、任せとけ。さてとそれじゃあここでいったん分かれるか。どうせなら明日までどんな酒を持ってくるのか分からねえほうが面白いだろうし」

「見てもわからないでしょうけどね。それじゃあまた明日」

「おう、また明日な」

「あ、また明日!」



 珍しくいろんな人に会うものだと思いながら手を振ってグラ達を見送った静人は刺身を買って家に帰るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...