上 下
53 / 76
番外編 ライオネル視点(本編)

遅まきの告白

しおりを挟む
レモニーがレモニカの日記の入ったカラクリ箱を見事に開いて、中身を確認していると、そこにこの家を管理している領主ベクトリアル・ダナンが現れた。

ライオネラ・ダナンの子孫で、日記を取り出したレモニーに興味津々のようだ。

彼も加えてレモニカの日記を読み、あの日の惨劇が迫る恐怖を文字を通して感じる。

・・・頭の中で、レモニカに対する懺悔の声が聞こえてきた。

俺の頭が狂ったのでなければ、俺はやはりライオネラの生まれ変わりかもしれない。

日記を読んだレモニーが、レモニカに引きずられるようにあの日の気持ちを語りだしたので、慌てて肩を掴んで正気に戻す。

そんな俺たちに、ベクトリアル・ダナンが領主の手記を読ませてやると言って屋敷に招いてくれた。

そこに着いた途端、今度は俺の方が懐かしさを感じていた。

一つ一つに思い出があり、領主の部屋に入った時は、レモニカに跪いてプロポーズしたことも思い出した。

そこまで大切にしていたのに、何があった・・・?

ライオネラの手記を開くと、奴らの罠にかかりサインを処刑執行書に写しとられたとある。

・・・なんだって?

当然その時のことは覚えていない。

だが奴らの狙い通りライオネラはこの村を離れ、その隙にレモニカは処刑された。

助命のための一筆が仇になったのは確かだ。

ベクトリアル・ダナンが当時から使われている普通紙と、複写用の紙を出してくれたので比較してみる。

書いた感じとしては、やはり複写用の紙に気づかないことはおかしい。

焦っていたことを考慮しても、気づきそうなものだ。

そこで俺は彼が王家出身であることを思い出し、後継者全員が同じ筆跡になる訓練を受けていることをみんなに告げた。

当時の処刑執行書とライオネラのサインを重ねて、窓に張り付けて透かしみるとサインがずれている。

これからわかることは、書いたのは別人でかつ王家の誰かだということ。

ますます、仕組まれた処刑であったことが濃厚になってきた。

・・・本当に気づかなかったのか?
あんた。

俺の中のライオネラに語りかける。

もちろん答えてはもらえないが。

そんな時、当時の皇太子パティスンが、ハーブティーを飲みに足しげく通い、レモニカに好意を持って迫っていたという記述がレモニカの日記に書いてあった。

たしかにその話はよく言われる。

兄弟でレモニカを奪い合ったと。

そしてパティスンが媚薬のヒメボレトを紅茶に仕込んで、レモニカに飲ませたとの話が出た時、俺は嫌な予感がした。

ケルフェネス・・・あいつならやるな。

「ハーブティーに皇太子・・・か。
レモニー様もケルフェネス王子には気をつけてくださいよ?」

日記を読んでいたシャーリーンが、レモニーを見上げて忠告している。

「え、なんで彼の話が出てくるの?」

「もぅー、ケルフェネス王子は、絶対レモニー様に気があります、て!
ライオネルがいなかったら、あのまま迫られてますよ。」

「またまた、そんな。
彼には婚約者がいるじゃない。
それに、ライオネルの大事な弟だし。」

「甘いですね、レモニー様。
あの時、ライオネルとケルフェネス王子の間に火花が散ってたの見てましたか?
まあ、ケルフェネス王子は薬を盛るとか、そんな卑怯なことは、しないでしょうけど。」

レモニーは呑気に、シャーリーンに振られた話を否定したが、俺はレモニーに解毒薬を渡した。

シャトラ国の王族は、ヒメボレトという媚薬を解毒薬と対にして必ず持ち歩く。

・・・理由は聞くな。

レモニーは解毒薬をしまって、しばらく思考したあと、最初は見ようともしなかったライオネラの肖像画の前に進み出てそっと触れていた。

「ずっと誤解してた・・・。
ごめんなさい。」

と、レモニーは言っている。

ライオネラ、よかったな。
少なくともレモニカの生まれ変わりのレモニーは、あんたが裏切ったわけではないということを、理解したようだ。

俺がそう思っていると、

「魔女、レモニーがここにいると聞いた!
すぐに引き渡せ!!」

と、声がする。

ベクトリアルが慌てて窓に駆け寄り、

「王室警備隊!?
地方警察ではなくなぜ中央の彼等がここに?」

と、叫んだ。

王室警備隊だと!?
王族の警護を司る彼らがレモニーを捕まえに?

つまり、ケルフェネス以外の王族が動いたのか!?

ベクトリアルが抜け道を開いてくれて、俺たちはそこから交易都市カチャガチャへ向けて走った。

出口へと辿り着いて、俺が先に外を確認する。

・・・問題なさそうだ。

だがレモニーが突然、自分は捕まると言い出した。

「ライカが教えてきた。
ライオネル、あなたならわかるわね?
これは強制的なイベントよ。
避けられない。」

そう言われて、うなじの毛がざわ!と逆立つのがわかった。

管理者としてやっていた経験から、彼女が言いたいことは理解できる。

この世界が、制作者の手を離れて異世界化してるとは言え、元々設定してあったイベントが消えるわけではない。

避けては通れない道であることもわかる。

だが何もしなければ、彼女をこのまま失うかもしれないのだ。

即死のイベントではないにしろ、手を打たなければ。

考えを巡らす俺の前に、レモニーがやってくる。

「私は、私は必ず生きて帰る。
また、あなたに会いたいから。
ライオネル、私はあなたが・・・。」

と、言うレモニーを俺は夢中で抱きしめた。

・・・待て、俺から言うよ。

「イベントの強制力に、どのキャラクターも抗えない。
それは骨身に染みて知っている。
だから、今は受け入れるしかないこともわかる。

だが、忘れないでくれ。
俺がなぜ他の王子たちと違い、ヒロインたちの攻略対象から外れているのか。

レモニー。
俺は君が好きだからだ。
君以外の女性にそう言いたくないからだ。」

これまで心の奥底に秘めて、言えなかった言葉を、ようやく彼女の耳に届ける。

かつてプログラムされていたからではなく、ヒロインだから魅了されたとかでもなく、ただ、心から愛しいと思える存在。

それがレモニーだ。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

Kingの寵愛~一夜のお仕事だったのに…捕獲されたの?~ 【完結】

まぁ
恋愛
高校卒業後、アルバイト生活を続ける 大島才花 すでに22歳の彼女はプロダンサーの実力がありながら プロ契約はせずに、いつも少しのところで手が届かない世界大会優勝を目指している そして、今年も日本代表には選ばれたものの 今年の世界大会開催地イギリスまでの渡航費がどうしても足りない そこで一夜の仕事を選んだ才花だったが… その夜出会った冷たそうな男が 周りから‘King’と呼ばれる男だと知るのは 世界大会断念の失意の中でだった 絶望の中で見るのは光か闇か… ※完全なるフィクションであり、登場する固有名詞の全て、また設定は架空のものです※ ※ダークな男も登場しますが、本作は違法行為を奨励するものではありません※

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

旦那に浮気され白い結婚で離婚後修道院に行くと、聖女覚醒。今さら結婚のやり直しと言われても、ごめん被ります。

青の雀
恋愛
君のための白い結婚だったのだ! 前夫のベンジャミンはわめきながら、修道院へ迎えに来る。 わたくしたち夫婦は親同士が決めた政略で結婚したのだが、当時わたくしこと公爵令嬢のセレンティーヌは、12歳というまだ大人の女性体型ではなかったため、旦那は、外に何人も女を囲み、夫婦生活はゼロ。 3年後、旦那から離婚を切り出され、承諾後、修道院へ行くか、キズモノ同盟に入るか迫られたところ白い結婚から修道院が受け入れてくれることになる。 修道院では適性を測るため、最初に水晶玉判定を受けると……聖女だった!というところから始まるお話です。 あまりにもヒロインが出会う男、すべてがクズ男になります。 クズ男シリーズですが、最後には、飛び切り上等のイイ男と結ばれる予定ですので、しばらく御辛抱くださいませ。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】

まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡ 泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。 6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した 今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ… 結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり 逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな… バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの?? お話はフィクションであり作者の妄想です。

悪役令嬢のススメ

みおな
恋愛
 乙女ゲームのラノベ版には、必要不可欠な存在、悪役令嬢。  もし、貴女が悪役令嬢の役割を与えられた時、悪役令嬢を全うしますか?  それとも、それに抗いますか?

処理中です...